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私はノーマルだ!

行き過ぎた百合成分が含まれます。

苦手な方はご注意ください。


 あのあと、殿下の部屋に行くふりしてそのまま自分の部屋に戻ってきた。

 殿下の部屋は同じ建物の同じフロア。

 寮は学年ごとに棟が違うので、オリビエ様は別棟なのが救い。

 同じ棟だったらどうなってたことやら……。


「「お帰りなさいませ、レア様」」

「ただいま……」


 いつものようにベッドに直行。

 私の足はガクブルです……。


「レア様、お茶が入りましたよ」

「……いらない……」


 リーエがいつものようにお茶の準備を告げてくれるけど今は無理。

 平気そうにしてたけどね、ホントにガクブルなんですよ。

 さっきまで殿下と一緒に歩いてたんだよ?

 当然会話なんて無いけどさ、でも下手に離れて歩くと逆に怪しまれるから横を歩かないといけないし。

 ていうかやってみてわかったよ。

 無言で、相手の一挙手一投足に注意を払いつつ、でも視線はそっちへは向けずに歩き続ける。

 意識はそっちにあるのに不確かな情報しかない、不安だらけの時間。

 まだ気合い入れて視線合わせてるほうが楽。見えないって怖い……。


 そんなわけでベッドにダイブした私は、制服が皺になるのも気にせずダンゴムシモードなわけです。

 せめて着替えろ? 洗濯はリーエの趣味だからこれでいいの。

 前に私が脱いだブラウスを畳んだら本気で泣きそうになったし。いやそんなことで泣かなくても……。


「今日は抹茶ミルクにしましたから、一杯だけでも」


 な、なんだってー!?


「ルーエがどら焼きを作りましたので、一口だけでも」


 こ、こいつら、私をそんなに甘やかしてどうするつもりだー!?

 私のメイドでした。有能すぎてホント困る。

 だが、たかがメイドごときにこの私を好きにできると思うなよー!


「……飲む」


 だからこれは自分の意思である。決してメイドに負けたわけではない。断じてない。


「レア様、ワンパターンですよ」


 ぐっさぁ!

 つうこんの いちげき!

 レア は しんでしまった!


「それではこちらへどうぞー、はい抹茶ミルクですよー」

「レア様、どら焼きもどうぞ」


 魂の抜けた私はリーエに引っ張られてテーブルについて、お茶を飲まされて。

 スタンバってたルーエにどら焼きをあーんされて。

 悔しいけど至福……。


「ルーエ、次は私にあーんさせてください」

「嫌です」

「レア様の使用済みブラウスを三十分、いえ一時間貸してあげましょう」

「あと一回だけあーんしたら交代する」

「おまえらちょっと待て」

「「小粋なジョークです」」


 嘘をつけ嘘を! 私は知ってるんだからな!


「じゃあクローゼットの中のブラウスがいつも一枚足りない理由を今すぐ述べよ」

「「気のせいです」」

「そのセリフを私の目を見て言い直せ」

「「ごめんなさい」」

「少しはごまかそうとしろ!」

「「レア様に嘘はつけません」」

「今ついたよね!?」


 まったくこの双子は……。


「で、ブラウスが足りない理由は?」


 誤魔化そうったってそうはいかん。


「「日替わりで私たちのパジャマにしてました」」


 コラ。


「そういうのは自分より大きい男性のワイシャツを使うからいいんだよ。袖から手が少し出るぐらいがベスト。あとタバコの匂いがするヨレヨレシャツだとマーベラス」


 二人は私より身長低いけどそこまで差は無いからダメ。

 胸部装甲は圧勝だけど。ふふん。


「「さすがレア様です」」

「だから私のを使うのはやめなさい」

「「このサイズがいいのですっ!」」

「あ、そうですか……」


 そう言われると納得しないわけにも……ってちがーう話に流されてるから!


「どこの世界に主の残り香を嗅ぎながら寝るメイドが居るっての」

「「ここに居ます」」

「それをヤメロ」

「「私たちの生きがいがっ!」」


 どんな生きがいだよ。

 あーもう……でもまぁこの二人ならいいかと思ってしまう辺り、私もすっかりこっちの世界の人間かな。

 そこら辺の兄弟よりもよっぽど一緒に過ごしたしね。

 それこそ母の教育も一緒に。

 アレを一緒に乗り越えた仲間なら、家族どころか自分の半身とすら言ってもいい。

 そんな相手にブラウスの一枚や二枚くらい……いややっぱ駄目だ。

 オタク趣味はあったし百合だって好きだが、あれはフィクションだからいいんであってガチレ○はノーセンキュー。

 双子の専属メイドが、自分の着ていたブラウス(洗濯前)をパジャマにしてクンカクンカしながら寝てる。

 セーフ? アウト?

 全力でアウトだっつーの!


「リーエ、ルーエ、今後ブラウスをパジャマにするのは禁止」

「「そんなっ!」」

「当然他の衣類も禁止」

「「ご無体なっ!」」


 いやそんなことでこの世の終わりみたいな顔しなくてもいいじゃん……何この、私が悪者みたいな空気……。


「たまに一緒に寝てあげるから我慢しなさい」

「「一生ついて行きますっ、レア様!」」


 これなら小さい頃から(私の教育も兼ねて強制的に)やってたし、まぁいいでしょ。

 ……あれ? パジャマにされるのとどっちがマシだ……?

 うーん………………まぁいっか。

 細かいこと気にしたら負けだ、うん。

 面倒くさくなっただけとも言う。


「それにしても本当に美味しいですね、この抹茶というものは。そのままの苦みもいいですし、なのにミルクと組み合わせて甘くするのも素晴らしいです」


 そうだろうそうだろう。

 やっぱり異世界転生と言ったら食べ物チートですよ。

 いや抹茶の作り方なんて知らなかったけどさ、緑茶を粉にしてどーたらぐらいは知ってたから、嫌がる領民に貴族の権力を振りかざして試作させまくったわけですよ。

 緑茶はあったし、調べたら領内のある地方で似たようなことやってたらしくて、案外簡単に再現できたんだよね。

 紅茶は好きだけど緑茶も好きだし、そのうえ抹茶ミルクまで飲めるとか最高すぎる。

 権力大好き。我が儘してこそ貴族というものです!


「これのおかげで農園の雇傭が増えて税収も増えて、領民も当主様も大喜びでしたね」

「開発に協力したフィッシャーさん、特別報奨金でお母様の病気の薬が買えたって喜んでました」


 あれ、使い潰された不幸な領民は?

 ていうかお茶だけでそれって、どれだけ売り上げ伸びてんのさ。


「それにどら焼きの餡子も素晴らしいですよね。あの独特の甘さがたまりません」


 教育の一環で山に行かされたとき、小豆っぽいのが生えてたから引っこ抜いて持って帰って、『大量に育てて。失敗したら流刑』って奴隷に押しつけて始まった餡子。

 なかなか成功しなかったからきっと流刑になったはず。


「栽培に成功したインディさん、借金奴隷から解放されて今じゃ大農園の主ですからね。奥さんも商家の美人さんでしたし、人生勝ち組ですね」


 え、そうなの? あー結婚の挨拶に来たあの人か。人相変わってたからわからなかった。

 そうか同一人物だったのか……。

 ふっ、貴族の横暴は人の人生をも狂わせてしまうのか……いや今回はいい方向にだったけどさ、毎回そうじゃないわけで。


 それはそうと和風チートだなって思うでしょ? いや偶然なんだよ。

 この国っていわゆる中世ヨーロッパ風な国なんだけど、料理はほとんど前世と変わらなかったのね。洋食も和食もどっちもあって、チートの定番マヨネーズとかチョコレートもあったし。

 でもやっぱ一部足りなかったりするんだけど、それが偶然さっきの二つだったわけ。

 ちなみに味噌も醤油もあるし日本酒だってある。なのに何故餡子と抹茶がなかったのか……。

 というわけで食べ物チートと言いつつ、実はただ隙間を埋めただけなんだよね。微チートどまりです。

 売り上げがいいのは、隙間でも新しいものだからってことでしょ。

 “新しいもの”から“当たり前”になるのは大変だからね、みんな頑張れー。


「それで本題は?」


 今更説明っぽく抹茶と餡子の話題を振ったわけではないはず。


「領のほうから連絡がありまして、セイブラム家から大口の発注があったと」


 セイブラム家って、オリビエ様の家じゃん!


「先日からオリビエ様にお誘いを受けているとのことでしたので、お耳に入れておこうと思いまして」

「今日もお疲れだったのは、もしかしてまたでしょうか?」

「そうだよー。ついでに殿下も誘われてたね……」


 んー? どういうことだー?

 一応抹茶も餡子も高級品扱いだからそんなに安くないし、それを大口って言うとそれなりの金額になるはずなんだけどなー。

 恨んでる相手の利益になるようなことしてどうする気?

 販売は領内の商家が独占してるから、大量に仕入れて自分たちも販売ーなんてやっても儲けなんて出ないし。

 既に世間に広まりきってるから、セイブラム家に来たお客様に粗悪な品を出して、こんなに不味いんだぜーってネガティブキャンペーンやる意味もないし。むしろ自分の家の不評が広まる。


「商家のほうは?」

「量以外に関してはごく普通だったため、通常通り販売したそうです」


 まぁそうだよね。


「家のほうは?」

「特に何も」


 家が動いてないとなると、セイブラム家自体が怪しいことしてるわけでもないのか……?

 となると犯人はオリビエ様本人の可能性が高いんだけど……。


「リーエはどう思う?」

「レア様をお茶に誘う口実に使われるのではないかと」

「ルーエはどう思う?」

「お茶の場でセイブラム家独自の料理を出し、毒の味を隠蔽をするのではないかと」


 買ったのはお誘いの口実。

 量があるのは料理研究のため。

 いくら毒の味がわかるって言っても、お茶みたいな単純なものに入るからわかるんであって、凝ったソースに紛れ込まされたらわからない可能性もある。

 単純な手だけど、でもだからこそありえないとは言えない。

 うーん。ダンの小説は惜しいけど、これは本格的に警戒するべきか。


「こちらから飛び込んで、すぐに締め上げてしまえばいいのではないですか?」

「殿下も誘われてたから向こうは本気。下手につつくと何するかわからない」

「それすらもなぎ払ってしまうのは?」

「学園内じゃなかったらそうしてた。ていうか二人ともバイオレンス過ぎ」

「「レア様の専属メイドですから」」


 どういう意味だ。

 とにかくそんな理由でほいほいと動くわけにはいかない。

 一度でもぼろを出せば次はないわけだから、殿下と私という学園ツートップを狙う以上、やるからには一撃必殺のはず。

 そして成功しても失敗してもオリビエ様に未来はないから、そうなったら自滅覚悟で学園ごと吹き飛ばすくらいやってもおかしくない。

 抵抗させないうちに無力化しようにも、学園内なので魔法は使用禁止。

 記録は残っちゃうから、生き残っても先に魔法を使ったとわかれば後々不利になる。

 煽って自爆させてしまえばいいんだけど、どんな手段を使ってくるかわからないので却下。私だけなら生き残る自信はあるけど他はどうなるかわからないしねー。

 もし殿下に傷一つでもつけた日には私の未来が消えてなくなる。母の手によって。


 ……何この状況。

 いつの間にやら聖母の復讐劇、ほんのりミステリー仕立てなんだけど。

 私ミステリーは得意じゃないんだよねー。

 嫌いじゃないんだけど、謎解きは登場人物に任せて二転三転する状況だけ楽しむというか。

 自分は『な、なんだってー!?』って言ってるだけ。今日二回目だなこのセリフ。

 とにかく読みながら頭使ってるとイマイチ楽しめないんだよね。頭使うのは二回目、読み返しながらやって、『あーここでこうなってたのねー』っていうのが好き。


 でもこの状況だと何もしないわけにもいかないよね。下手すれば殿下に累が及ぶわけだし。

 一番いいのは復讐は勘違いで全く違う理由でしたーってなるのがいいんだけど、それにしたって確認しないわけにはいかない。

 となると最悪を想定して動くのが最善な訳で……。


 正面には必殺技【カミカゼアタック(自爆)】を修得したオリビエ様がいて簡単には攻められないし、後方には黄金の平手を持った母が居て逃げられないし。

 何がどうしてこうなった……はぁ……。

 まぁこうなったのは仕方がないし、とりあえずは……。


「リーエ」

「引き続き公爵家と連絡を取り、調査を進めます。セイブラム家の寮での行動把握もお任せください」

「ルーエ」

「セイブラム家の使用した食材などから手口を探ってみます。市場での調査も行いますので、外出時間を少々延長させてください」

「お願いね」

「「レア様のために」」


 そう言って主従の礼を取る二人。

 いつも思うけど、チート主人公よりチートメイドさんのほうがよっぽどすごいよねー。

 ホント、一家に一人どころか二人も居て助かるわー。


「「ご褒美にお風呂のお世話させてもらえるなら、どんな困難でも打ち払って見せます!」」

「……髪の手入れだけね」

「「ありがとうございますっ、レア様!」」


 セリフは怪しいけど一切そういう行為はないからなっ!

 普通の貴族令嬢は浴槽に浸かってるだけでメイドさんに磨かれるのが貴族社会の常識だけど、私が拒否してるだけだからなっ!

 本当だからなっ! 嘘じゃないからなっ!


 私にそっちの趣味はないからなー!


調子に乗って暴走させた。

後悔はしていない。

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