イベント終わったらレベルが上がりました。ただし状況も悪化しました。
連載版、始めてみました。
よろしくお願いいたします。
ほとんどノリだけで書いてるので生暖かい目で見てやってください……。
やれやれまたかといった感じですよ。
入学してから何回目かなーもう二桁乗ってるよねー。
転生して、根性鍛えられて、学園に入学したら実は悪役でしたときたもんだ。
「おっ、お許しくださいエレアノーラ様!」
というわけで、目の前には人生のエンドマークが見えてるらしい女子生徒が土下座してます。
こないだ悪役令嬢断罪イベントを、ほんのり逆ざまぁというかほとんどスルーしてからこっち、悪役度が上がっちゃったわけね。
それも二階級特進。
今までが銃を構えて敵陣に突っ込む兵隊の隊長なら、今はオフィスで葉巻ふかしながらチェスやってる将軍。いや階級上がりすぎか。
じゃあ見つけたら避けたくなる地元のヤンキーから、見つかったら即石化するメデューサ。メデューサあんまり強くないけどね。
とりあえずそんな感じ。触るな危険から、存在が危険になった。
そりゃそうだよねー。権力者(の息子)と大量のモブを引き連れた正義の軍団を、たった一撃(物理)で学園から消し飛ばしたってことになってるからねー。
そのあと一部は物理的にも消えたらしいけど。怖っ。
でもそれ、私がやったんじゃないんだけどね。
私がやったのは物理攻撃だけで、あとのことは殿下と学園長だしね。
なのに殿下は英雄的な人気者になって、私は恐怖の代名詞として人気になった。
殿下と私はカップル認定されてんじゃないのかって?
取り巻きーズと若干名はそうなんだけどね。
殿下狙いの女子とか私を嫌ってる人たちはむしろ憎しみ度アップでしたー……。
まぁそんなわけで、今日もチョンボしたお嬢さんが土下座してるわけですよ。
理由は前を横切ったから。
しかも取り巻きに突っ込まれたわけじゃないからね。横切った本人が自分で気付いて、ダッシュで戻ってきてスライディング土下座したからね。
その必死さ加減にビビッたっつーの。
そんなことで怒るって人間って何だ……つーか私はそんなことで怒ると思われてるのか……。
「私はどうなっても構いません! どうか、どうか一族の者にはお慈悲を!」
だからそんなことで必死になられてもねぇ……むしろ私が助けてほしい……。
なんだって面倒なイベント終わらせたら余計面倒なことになるわけ……普通状況改善するもんでしょ……。
私もエンドマーク見つけてこの面倒な生活を終わらせたいよ……。
……とでも言うと思ったか!
私だって日々成長してるんだぞ! 特に胸部!
いやほんと、今世の体すごいわー。お湯に浮くって都市伝説じゃなかったんだね。
前世? 両面が背中でしたが、何か?
それと今の状況なんか関係あるのかって? ないよ? 自慢したかっただけ。
あ、すいません。真面目にやります。
実はですね、あのイベントが終わってからこんな場面になるの三回目なんですよ。
おまえらもっと危機管理をしっかりとだな……じゃなくて。
なんと、その三回とも平和的な解決をしたのだ!
ふふふ、すごかろう。今までの私とは違うのだよ!
あのイベントで間違いなくレベル上がったね。この世界はステータスもスキルも無いけど。
というわけで、私が新たに得た必殺技を見よ!
【必殺技:勧誘 Lv.∞】
「いいでしょう。では貴方は今日から私のものです。勝手は一切許しません。自らの命を散らすことも許しません。貴方の生涯を、私に尽くすことを誓いなさい」
「……はい。私のこの命、この魂を、エレアノーラ・サースヴェール様に捧げることを誓います……」
どーよ! ちょっとどーよこれ!
完璧じゃね? これ考えた私天才じゃね?
相手の子も涙流して喜んでるし、これぞWin-Winってもんですよ!
もうサイコー。私がもう一人居たら惚れてるわ。
勧誘じゃなくて奴隷化だって?
気のせい気のせい。そんなはずナイナイ。
この世界にはきちんと奴隷という身分があるのですよ。
借金とか犯罪とかしてなっちゃうアレね。
でもこれは身分は変わらないからから断じて奴隷ではない。ないったらない。
だいたいそんなことは些細な問題ってもんですよ。
何もしなかったら絶対にイベント時のモブと同じ道を行っちゃうよ?
だったら私のものってことにしとけば誰も手を出せないし、責任取りましたーとか言って勝手に死ぬこともないし(前にいたんだよ……)、しかも何かあったら戦力になるし。
ほら、どっから見ても隙の無い完璧な結末じゃん。
やっぱ私天才。オーイエー。
おっと自分に酔ってないでトドメを刺す……じゃなかった仕上げしないと。
「ならば私が声をかけるまで、日々精進を重ねなさい。私の手を煩わせないよう、これまで以上に今を生きるといいでしょう。私が命を課す日を、ただ待ち続けなさい」
「承知いたしました。全てはエレアノーラ様のために……」
そう言って女子生徒は去って行きましたとさ。めでたしめでたし。
よーし『用があるまで呼ばないから、それまで今まで通り生活しててねー。呼ぶことなんて無いけどさ』で締めたし、これで取り巻き化することもない!
もう私最強すぎね?
最初っからこうしてりゃー良かったんだねー。
あの頃は私も若かった……人間日々精進ってことですよ……。
まっ、相手が拒否ったらソッコーで(この世から)消えちゃうから、実はかなりヤバい手なんだけどねっ!
なので失敗しても必殺技です。相手は死ぬ。
だからうまくいくかどうか滅茶苦茶ビビりながら言ってるわけで……。
失敗したら言葉で人殺しっすよ。いくら何でもそこまでしたくないっすよ。
失敗したらどうしたのかって? あの手この手でうんと言わせてたね。私以外の人に説得してもらって。
あ、もちろん私が卒業するときに『やっぱお前イラネ』って解放するつもりなのでご安心ください。
とりあえずうまく行って良かったー……あぁ早く帰ってお茶を飲みたい……。
「さすがはエレアノーラ様。素敵なお言葉ですわ」
びっくぅ!
「私も一度でいいですから、魂を縛られるような魅惑の言葉をいただきたいものです」
穏やかそうでどこか熱に浮かされたようなその言葉に、ゆっくりと、ギギギッっと軋み音がするほどゆっくり顔を向ければ……。
「ごきげんよう。今日もお美しいお顔を拝見できて光栄ですわ、エレアノーラ様」
「……ごきげんよう、オリビエ様……」
年上らしい落ち着いた笑顔を浮かべた女子生徒が一人。
オリビエ・セイブラム侯爵令嬢。
私より一つ年上、上級生の女子ではトップと目される人物。
外見はとてもそんな風に見えない。
緩やかに波打つふわふわの金髪。
たれ気味の目が優しい雰囲気を醸し出す美しい顔立ち。
常に微笑みを絶やさない、優しさを体現するかのような佇まい。
出るとこは出て(私よりも)引っ込むとこは引っ込んだ(ここは私と同じくらい)、まさに聖母とでも言うべきそのお方。
彼女は特に何もしない。
なのにどんなに荒れた場面でも、たった一言彼女が口にすれば全てはそのように動いていく。
強制力は無いのに、でも抗えない優しさ。
その優しさを持って、全てを動かしてしまう。
私が闇の魔女だとしたら、オリビエ様は慈愛の聖女。
前回消えてったアイナ様が売り出しアイドルだとしたら、オリビエ様は絶対普遍の大女優。
ぶっちゃけ、あらあらうふふなお姉さん属性だね。
水妖精なあの人とか、女神様なあの人とかそういう系。
微笑まれたらつい言うこと聞いちゃいたくなるんだよねー。私も断るのは結構大変。
じゃあさっきの言葉取り消すの、って思うじゃん?
彼女は新しいヒロイン様で、悪役の私を断罪しに来たの、って思うじゃん?
違うんだよ……。
「ところでエレアノーラ様、本日のご予定はいかがですか? 今日は良い茶葉が手に入りましたので、お茶をご一緒しませんか?」
「……折角ですが、このあとは予定がありますので」
「残念ですわぁ……せめて一杯だけでもご一緒できませんか? 本当に良い茶葉なんですよ?」
「……いえ……」
「あっ、そういえばフィーリスのお菓子も手に入りましたのよ。だからねっ? 本当に少しだけでいいですからっ」
この人、私と遊びたがるんだよ……。
その頻度、しつこさと言えば、入学した直後に私に取り入ろうとする取り巻きどもと同じくらい遊びに誘ってくるんだよ……。
しかも、あのイベントのあとから。
最初はなんでって思ったけどね、調べてみたらすぐわかった。
学校を去ることになったモブの中に、オリビエ様の婚約者が居たんだよねー。
しかも実家から縁切りされて平民に格下げだってさ。
その後、彼の姿を見たものは誰も居なかった……。
か、どうかは知らないけど、とりあえず私ってば婚約者を奪った原因の一つなわけで。
同じような女子生徒から結構敵意むけられたからねー。
逆に感謝されたほうが多かったけど。
ヘタレ婚約者を排除してくれてありがとうございますだってさ。いやぁそれほどでもないっすよーあっはっは。
こほん。
とにかくオリビエ様がそのどっちかは知らないけど、タイミング的にそれが原因だと思うんだよね。
で、そんな彼女からお茶のお誘い。
これやばくね?
半々の確立で毒殺コースだよね。
それかケーキ切ったら中から虫が出てくるとか、茶葉に排泄物混ぜてあるとか、椅子の脚が折れるとか。最後はド○フだな。
とりあえず行きたくない。
これはビビるとかじゃない。生存本能だ。
私の第六感が告げている。行けば死ぬ、と。
……嘘ですただビビってるだけです。もうその笑顔が怖いです。
だから部屋に帰らせてよー!
「エレアノーラ様の好きなダンの新作小説も手に入りましたのよっ。私まだ読み終わっておりませんが、エレアノーラ様とお茶をできるのなら……」
な、なんですとつ!
リーエですら入手に失敗したダンの小説をどうやって!
いや発売日がイベント翌日だったから仕方ないんだけどさ。リーエってば心配だからって離れたがらなかったんだよね……。
なんとか説得して買いに行かせたときには既に売り切れ。
この世界は重版かかるの遅いからねー次はいつになるやら。
そんな貴重な一冊を持っているだとっ。
ぐぬぬ、卑怯なり! 貴様っ、それでも男か!
女でしたごめんなさい。
でもどうしよっかなーそういうことなら行ってみよっかなー。
一杯くらいなら大丈夫じゃね? 大抵の毒物の味と匂いは覚えさせられたし、口に含めば大体わかるはず。
最悪、数日腹を壊すだけで復帰できるはずだ。
それでダンの小説が読める。
うん、アリだな。
さすがお母様。こんなときに役に立つとは思いませんでした……。
そこまでして読みたいとかバカだろって言いたいだろ。
バカで新作読めるならいくらでもバカになってやるわー!
そんなことで私の欲求を止められると思うなよー!?
こちとら我が儘・冷徹・残虐非道の悪役令嬢だぞー!
待ってろよ新作っ、今読みに行ってやるから………………いや待て。こ、この気配わっ。
「あら、殿下」
やーっぱりー!
我が最大の宿敵アークレイル殿下!
何の覚悟も無しに会っちゃうと先制攻撃食らうから、常に殿下の気配を感じ取れるように修行したんだぜ!
これでバックアタック対策も完璧さっ☆
……こんなスキルいらない……役に立つけどいらない……。
おかげでうっすらとでも感じ取ってしまうと、いつ遭遇するかビビってしまう今日この頃……。
心の安まる時間がないよぅ……。
「オリビエ嬢とエレアノーラ嬢か。今日はどうした」
「いつものように、お茶にお誘いしていたのです……そうですわ、殿下もご一緒にいかがでしょう」
ちょっと待てー!
毒茶だけでなく殿下も一緒だとー!?
それの対価が本だけというのは……うぬぬぬ。
……いや待て、殿下も来るなら毒茶は無くね?
それはさすがにリスキー過ぎ……違う、殿下も原因の一人だからまとめてヤってしまおうってことかっ。
この人とんでもないこと考えるな……愛に狂った女はかくも恐ろしいというのか……。
くっ、こうなったらなんとかしてこの場を回避せねば。
本は残念だけど殿下を危険な目に遭わせたら私が死ぬ。母の手によって。
よく考えたら罠とわかってて毒茶飲んで腹壊したらそれだけで再教育になる。やっぱり母の手によって。
この場合のベストな回答は、殿下を危険な目に遭わせず、お茶の席にもつかず、それでいて本だけ入手する。うん、無理。
よし、逃げよう。
どうやって逃げようかなー。私一人ならともかく、殿下もとなると協力してほしいんだけど……。
そんなことを考えつつ殿下に視線を向ければ、丁度殿下もこちらに視線を向けたところだった。
――本当にお茶に誘われていただけか?
――そうです。で、逃げようとしてます。
――だろうな。ところで私も逃げたいのだが、協力してくれるか。
――もちろんです。ちなみに予定があるということにしてましたので。
――ならば私がその予定になればいいのだな。
――お願いします。
密談終了。
ちなみに魔法ではない。人間その気になれば目だけで会話できるっ。ホントは目も合わせたくないけどねっ!
なのにこれが成功するのは殿下だけという不思議さ。
……あ、これに関して深く考えると私爆発するので、触れないでね。
「すまないがオリビエ嬢、エレアノーラ嬢とは私が約束をしているのだ」
「まぁ、エレアノーラ様のご予定とは殿下のことでしたか」
「ああ。独占するわけではないが、二人だけでとの約束だったからな、それを違えるわけにはいかないのだ」
「もちろんです、そういったことであれば私に口を挟むことはできません。仲の良いお二人の邪魔をすることは、神の意志に背くも同然のことです。どうぞごゆるりと、逢瀬をお楽しみくださいませ」
お、逢瀬とかっ、そういう言い方しないでくれるかなっ! 別に隠してたわけじゃないし!
殿下も独占とか二人だけとか微妙なワード入れるし、もうちょっと言葉を選んでくれないかなっ!
とりあえずオリビエ様はあらあらうふふ言いながら華麗に去って行ったから良かったけどさー、下手したら爆発するんだらねー?
くそう、あっさり回避できたのはいいけど、何か面白くないな……ようし。
「ありがとうございます殿下。殿下との一時を、邪魔されたくありませんでしたので」
「――っ。そうか、では行くとしよう」
ふっ、無駄な装飾のないストレートなセリフに、一瞬だけ見せる微笑みの合わせ技っ。
女性の怖い殿下に近寄らず、距離を開けたままで微笑みもごく僅か。
これなら女性嫌いの殿下に一瞬だけ女アピールしてビビらせつつ、ついでに助かったぜ同士という感謝もできるぜ!
悪いな殿下、私はまだ負けるわけにはいかないのだよ。
私は、さらなる高みへ上らなければならないのだから……。
あ、いやほんと感謝してます。真面目に助かりました。
殿下も困ってたら、今度は私が助けに入るからねー。
亀更新なのでできるだけサクサク進めるつもり。