三バカどもの夢の跡。
※今回の注意事項
少しだけグロ表現があります。苦手な方はご注意下さい。
縛られてる三バカド変態をモブに引き摺らせて、小屋の中をちょっとガサ入れさせてもらいますよっと。
中は地下への通路っていうか、大きめの穴があるだけ。生活空間も全部地下なんだろうね。
地下に下りて生活空間らしき部屋は全無視! 研究室へ直行!
通路の一番奥にある如何にもアレな扉をバーンと開けて、ソッと閉めた。
……………………ふー。
うん、予想はしてたけど、これはヒドいわー。
私は大丈夫だけど、コレ殿下大丈夫か?
「どうした? 何か罠でもあったか?」
あったよ、殿下に対する最終兵器が、これでもかと。
三バカショックが抜けきってないのに、これはねぇ……。
「殿下には、少々耐えがたいものかもしれませんが」
一応、『見ないほうがいいよ? 私だけで確認してあとで報告するよ?』って言ってみる。
「……忠告は助かるが、ここまで来たら私も最後まで立ち会う」
私がわざわざ忠告するくらいだからね。余程な事だってわかってるっぽいから、少し目を閉じて覚悟を決めた殿下。
そう言うと思った。頑張ってくれ……。
「それでは」
おーぷーん! ゴゴゴゴ……って感じで今度はゆっくり扉を開ける。
扉の向こうはまさしくザ・研究室! 悪の錬金術師バージョン!!
体に悪そうな蛍光色の液体が入ったフラスコが大量。サイズも大中小と各種揃っております。
大フラスコの中はもちろんホムンクルスが浮かんでる。中身はとーぜん女神(仮)。マッパなのはお約束!
殿下の天敵が大量にいるわけだね!
でも正直ソッチはまだマシ。問題は中フラスコと小フラスコ。
あきらかーに人が入らないサイズ。そんなのに何が入っているのか。
まず中フラスコの中には小さい女神(仮)。
ドールかな? それともフィギュア? 私そっちは手を出してなかったから知らないけど、とにかくそんな感じのサイズ。
一部、何故かポーズ取ったままフラスコで浮いてたりする。子供は見ちゃダメな感じだったり、お祈りポーズな如何にも清楚系だったり。全部マッパだけど。
フラスコはディスプレイケース代わりか?
で、一番問題なのは一部の中サイズと小サイズ。
グロ系なのでぼかしていきまーす。
さっき宰相子息が語った部位フェチ。そこだけフラスコ。
指なら指だけとか、耳なら(以下早めに省略)
ぶっちゃけ、バラバラ殺人鬼と死体収集家がタッグを組みました! な光景になってる。
三バカ以外はさすがに全員気持ち悪そうにしてる。その中でも殿下は意識保ってるのが不思議なレベル。よく耐えたね……。
普通の人なら見ただけで吐くってこれ。あ、モブくん吐いた。一部ではゲロインの需要はあるらしいけどゲモブの需要は無いから。
ここ、長時間居たら精神に異常が出るね絶対。そりゃ宰相子息が電波な発言するよ……。
どうしてこんなことをしたのか、その経緯はわかる。
ホムンクルスを作るには金がかかる。というかメインとなる素材がメッチャ高い。
誰が入手したのかは知らないけど、三人とも脱走してくるような立場なのに潤沢に確保できるわけがない。
そのうえ、ホムンクルス制作の中心に立つであろう宮廷魔法士長子息の得意分野は攻撃魔法(ただし自称)なので、ホムンクルスの作成は専門外。
作成に関する資料は家にあるだろうけど当然最初から成功するわけないので、無駄に実験を繰り返してたらすぐに素材が無くなってしまう。
毎回全体を作ると素材ばっかり無駄になる。だから部位ごとに作って完璧な物を作れるように研究(小フラスコ)して、それから全体(中フラスコ)を作って、最後に完成版(大フラスコ)を作ったと。
そんなとこじゃないかな。
確かにこの実験室の中には大量のフラスコがあるけど、大型のは三個だけなんだよね。一人に一人ってことかな。
……ん? 一人に一人?
さっき唯一神って言ってなかった? なのに三人?
これは突っ込まずには居られない!!
「なるほど、これが女神ですか」
「そうだ! 貴様らのような――(厨二レベルからお前のカーチャンでーべーそまでのレベルの罵詈雑言を五分ほど脳内再生して下さい)――だ!」
「そうですか。ところで私の聞き間違いでなければ、先ほど唯一神だと聞いた覚えがあるのですが」
「そうだ! ア――(適当な狂信者発言を十分ほど脳内で逆再生しながらブレイクダンスして下さい)――だ!」
コイツよくそこまで次から次へと言葉が出てくるな……芸人にでもなればいいのに。
というわけでやっと本題に入りまーす。
「そうですか。それで、唯一神が三人も居るのは何故ですか?」
「女神はどこにでも居る。数など関係ない。同じ器であれば、それは全て女神なのだ!」
唯一なのは神という概念だけで、物理的には関係ないってあれか。
ていうかどこにでも居るって言うなら器関係なくない? ついでにさ、さっき『お前の隣に女神いないじゃんバーカ』って突っ込み入れたときにそう返してくればいいのに。
までもそっちはどうでもいい。それよりまた変なこと言ってくれたねコイツ。
「同じ器? どこがでしょう?」
「貴様の様なクズには女神の尊き姿が見えないのか! これは傑作だな!」
いや見えてるから。三人居るって言ったでしょ……。
そーゆーことじゃなくてだねー。
「これら全て、形が違うようですが。それでも同じ器と言えるのですか?」
「何を馬鹿なことを言っている。そんなことも――」
「あら、一番右は胸の辺りだけ大きいですね」
「――!?」
途中で割り込んできたのはオリビエ。
ナイスタイミングだけど、狙ってたな?
「な、何を言っている。これらは寸分違わず作られた……」
「一番右だけトップが高くなっています。どう見ても明らかではないですか。まさかこれほど違うのに、自らが信じる神の見分けも付かないと仰るのですか?」
「なにっ!?」
オリビエの言った通り、一番右だけ胸がデカイ。一目でわかるってこれ。
これで同じって言うのは無理あるわー。
「左は……お尻から太腿にかけて違いますね。ふっくらしてるというか」
「さ、些細な差だ! これから調整される!」
今度はサイアが突っ込んだ。
女のマッパ見ても動揺しない辺り、本当にサイアの中身は女だなー。姉に溺愛されててお風呂とか一緒に入ってるはずだし、見慣れてるか。
ところで、そっちに動揺してるヤツが居るんだけどなー?
「……だ、そうですが。本当に調整するのですか?」
「…………」
喋れるように回復してやりながら話を振ったのは、騎士団長子息。
でも無言で顔背けられた。左の話が出てから動揺しすぎー。
「右側はどうなのですか?」
「…………」
やっぱり無言で顔を逸らす宮廷魔法士長子息。
「き、貴様ら、一体どういうことだ!」
いやー、どーゆー事も何も、ねぇ?
「自分の信じる女神、それを具現化したということでしょう」
一言で言えば、『どーせ作るなら俺好みに作っちゃおー!』ってことだね!!
つ・ま・り。
「それぞれが持つ女神に対するイメージは、てんでバラバラ。唯一神とは、『自分一人のためだけに存在する神』だったということですね」
「――――」
あ、宰相子息がフリーズした。
あれか、『三人で唯一神を作ろーぜ!』って言ってたのに、実は他の二人は『ぼくのかんがえたさいこうのめがみ』を勝手に作ってた。
“我らの”信じる神とか、“唯一神”とか自信満々に言っときながら、実は自分だけの思い込みだった。
三人で一つの目標に突っ走ってると信じてたの、宰相子息だけ。
そりゃフリーズするよねー!!
実は本気だったの一人だけ、思いっきり裏切られてたんだってーーー!!
ねぇどんな気持ち? 今どんな気持ち? ぷーくすくすくすー!!
やばい! このセリフを声に出して言いたい! 今なら言える!!
くっころさんにNDKを言える日が来るとか! メンドクサイ調査に来た甲斐があったぞーーー!!
こほん。でわさっそく……いや待てよ? 真ん中のもよく見ると……。
……もしかして。
「真ん中は顔の造形がおかしいですね。アイナ・ハリマーはここまで鼻が高くありませんでした」
「な!?」
宰相子息が感電したみたいにビクッてした!
「そういえば、本人と比べると目も大きいですね。大きすぎて不自然です」
「!!」
「顎から頬にかけてのラインもおかしいような……それに耳も小さすぎますし」
「!!!!」
私に続いてオリビエとサイアも突っ込み始めた。
なんていうかね、突っ込み放題な顔してるんだよ。パーツ単体で見たら大丈夫なのかもしれないけど、組み合わせたらなーんか不自然。下手くそなモンタージュ写真っていうか、福笑い状態みたいな。
右と左はほぼ本物通りだけど、真ん中だけそんなことになってるんだよねー。
そして真ん中は宰相子息作。ということは、宰相子息も好き勝手してたって事でー。
「どういうことだ! 俺には本物のアイナと同じように作れと言っておきながら、何故お前のは本物とは違うのだ!!」
「私には『より完璧な女神を作るために試してくれ』と言っていたな。だから私は協力してお前の言う通りに作った。最後には作り直すと思っていたのだが、これが完成とはどういうことだ!!」
「ち、違う! 私は……」
巨乳マニアと尻太腿スキーとセンスの狂った面食いで悪口大会が開催されたから、三人を防音魔法で囲って放置した。存分に罵りあってくれたまえ。あとのことはもう知らん。
縛ってあるから殺し合いになることはないでしょ。多分。
それにしてもやっぱりだったかー。宰相子息だけ裏切られたんじゃなかったのかー。
最初から全員バラバラだった! もっとヒドいね!
これ、私ら来なくても結局仲間割れで崩壊してたんじゃないかな? そっちのほうが面白い結果になったかもしれん。
その場合は森の状況が悪化してただろうから、来といて正解だったんだけども。
というわけでこの研究室を中心に周囲一帯を覆う結界を構築して、ダダ漏れの怪しい魔力をシャットアウト。これで今以上に魔物が強くなることはないはず。
今回この魔物の領域がおかしくなったのは、全てこの部屋が原因。
ホムンクルスを作るには結構な魔力が必要。それを例の高価な素材であーだこーだするから、周囲に変な影響を与えてしまう。
普通の研究室なら外に影響が出ないように結界張るなりそういう建物作るんだけど、三バカは知らなかったのか何も考えてなかったのか、どっちでもいいけどこの研究室は何も対策されてない。
ホムンクルス作る→周囲にへんてこな魔力をまき散らす→周囲を汚染開始→植物の魔力含有量が増える→魔物に影響した、と。
原因自体は大したことない事件で良かった良かった。魔物狩ってしばらく放置しとけば勝手に改善してくでしょ。
これなら当初の目的通り、学生の実戦実習にも使えそうだね。
それじゃーあとはここの後始末なんだけど……殿下、大丈夫かなー。顔が青いどころか土色なんだけど。
殿下に指示出してもらうのが本当の流れなんだけどなぁ……。
あ、やば。じっと見てたら目が合ってしまった。
でも殿下が死にそうだからかな。何故か平気。
それはどうでもいいや。次どうするか、一応話ふってみよう。
「殿下、周辺一帯に結界を張り終えました。これ以上の影響は抑えられるはずです」
「…………わかった。ご苦労。……先生、ここの調査をお願います」
「わかった」
報告したら、ゆっくりだけど指示を出し始めた。
口を開く度に吐きそうな顔してるけど、なんとか耐えてる。頑張るなぁ。
それじゃ私たちは研究室を出ますか。こっから先は大人の出番ですよーっと。
「オリビエ譲と、サイア嬢は、モブを使ってそいつらを連行してくれ……」
「「わかりました」」
「使われるのはいいんですが、私って結局なんのために来たんでしょう……」
「コソコソ動かれて証拠隠滅させないためです」
「やっぱり……」
この理由は最初にも言ったね。でもこれだけじゃないのです。
なんの役にも立ってなさそうなモブくんだけど、実はそうでもない。
裏部隊が集めてた情報を元に、向こうが仕掛けてきそうな罠とか攻撃方法を予測してくれてた。
少しは役に立ってたんだよね。そのシーンはカットしたけど!
「ところでモブ、何か言うことはありませんか? 私が次の言葉を言ったあとは、二度と変更しませんよ」
「大変失礼いたしましたぁ!」
土下座と共に、いつの間にやら懐に隠してた研究資料を差し出すモブ。
腐っても裏部隊。さっきのやり取りのあいだに少しでも証拠隠蔽しようと資料をパクってやがったのです。
私が言うつもりだった言葉は『最前線で、十年』。察しが良くて助かるわー。
情報くれた件もあるし、少しくらいご褒美を上げてもいいかな。
「それで、前線には何年行きたいですか?」
「三年ほどお願いします……うぅっ……」
人手ゲットー。
強制してないし? 本人の希望だし? それを叶えるってことはご褒美だよねー?
いや冗談ではなく、ホントに。
だってこのままじゃ『隠蔽工作に失敗したやつなどいらん。むしろ情報漏れる前に死ね』ってことで宰相に消されてしまう。
隠蔽工作しに来た連中だけど、結局何もしてないから罪に問うことは出来ない。ということは牢屋に入れて守るってことも出来ない。余罪はあるかもだけどそれは知らん。
でもうちの前線はものすごーく危険だから、そんなところまでは消しに来ない。
『宰相が諦めるまで暗殺者にビビる日々をすごす』未来しかなかったところに、『危険だけど暗殺者は居ない戦場』に行く選択肢をあげたわけですね。私って優しい!
「他にも希望者が居れば受け入れましょう。好きなほうを選ぶように言いなさい」
「ご配慮、感謝いたします……」
裏部隊全員だって引き取っちゃう。なーんて大きな懐なんでしょうか! 万年人手不足なだけですが!
ついでに裏部隊をゴニョゴニョして宰相にあーんなことやこーんなことだって出来る。その場合は前線に放り込まれずに済むよ!
というわけで我が家としては喜んで受け入れてくれること間違いなし! 我が家は働けば働いた分だけ儲かるからね、頑張れお前ら!
「エレアノーラは全員の護衛を」
「わかりました」
殿下は私に指示を出して、細部を先生たちと詰め始めた。
おお、ヘロヘロだけど最後までやりきったね。あれだけ精神ダメージくらいながら最後まで指示出して。頑張った頑張った。
それじゃ調査に残る先生だけ置いといて、私らは先に帰りますか。
殿下ー、帰りはのんびりしてていいからねー。
今日くらいは優しくしてあげようかなーなんて思いつつ、三バカを物理的に引き摺って龍籠に帰った。
殿下は最後まで死にそうな顔してたけど。
あとでフォローしとくかな……。
そういえば今日(7/7)は新婚でイチャコラしすぎて怒られて親に強制別居させられたダメ夫婦がキャッキャウフフする日ですね。
というわけで(?)、次回はこちらもイチャついてもらいます。