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同じ生き物とは思えん。

お久しぶりでございます。


殿下視点です。


※今回の注意事項

変態がいます。

 魔物の領域の調査を始めて、三日。

 私は、大きな疑問に囚われていた。


 私が今まで見てきた女とは、一体何だったのだ?


 先ほども言ったが、調査を始めて三日が経った。

 その三日で、異常の原因が特定されつつあった。

 専門の調査隊ならいざ知らず、寄せ集めのメンバーでこの速度は驚異的だろう。

 こんなにも早く調査が進んでいるのは、ひとえに三人の女性の力によるものだった。


 初日。

 ハンター組合から情報を持ち帰り、まず簡単な調査をするため領域に入ることにした。

 目的は領域内の様子を把握することと、食料調達。


 主目的は後者だな。この国は魔物の肉も食べる国だ。一部は高級食材として高値で取引される。

 いくつか狩って食糧を確保する。余った分はハンター組合で買い取ってもらい、野菜や調味料などを街で購入する。

 準備整えて、私、エレアノーラ、オリビエ嬢、サイア嬢と、お目付役のレッテル先生の五人で魔物の領域へと踏み込んだ。


 先頭に立つのはエレアノーラだ。

 接近戦の得意な私が後ろを歩くというのは少々落ち着かないが、四人の中で最も戦闘経験が豊富なのがエレアノーラなのだから仕方がない。

 ろくに調査もしていない場所で指揮官が前に立つわけにもいかないからな。

 エレアノーラを先頭にして、細心の注意を払いつつ、歩みを進めた。

 だが……。


『魔物は居るんですけど……』

『何もすることがありませんね』


 オリビエ嬢の言う通り、私たちは何もすることがなかった。

 視界に魔物が入った瞬間、どんな魔物だろうとエレアノーラの魔法で仕留められてしまうからだ。

 姿を隠して近づいてくる魔物さえ正確に把握し、向こうが攻撃してくる前に仕留めていた。

 それでも手加減しているほうだろう。

 魔物の方向を見向きもしていないのだから、本当は視界に入れる前に仕留めることもできるだろうからな。

 あえてそこまで近づけているのは、私たちにも状況を把握させるためか。

 まるて近寄れば魔物が死滅する結界に、我々全員が守られているかのようだった。


 以前騎士団に同行して魔物の領域に入ったことがある。

 そのときは常に魔物を警戒して全方位に神経を張り巡らせ、ゆっくりと歩みを進めていた。

 戦闘中も常に周囲に気を配り、新しい魔物出現に警戒し続ける。

 ただそこに居るだけでも、神経がすり減るようだった。


 だがエレアノーラが一人居るだけで、魔物の領域を散歩でもするかのように歩き回れた。

 さすが、としか言い様がない。


『少しはお役に立てましたでしょうか?』


 そう言いながら僅かに口元を緩める姿は、その苛烈な行動とは裏腹に、どことなく可愛らしいものに見えた。




 二日目。

 本格的に調査を開始。

 昨日は浅くまでしか入らなかった魔物の領域を、もう少し奥まで入ってみることにした。


 一日目と同様エレアノーラが先頭に立ち、特に何事もなく進んでいた。

 とはいえ何もしなかったわけではない。

 何かおかしなところがないか、森自体に変わったところはないか、調べながら進んでいた。

 そして特に何も見つからいまま、予定していた引き返し地点に到着したときだ。


『……木の様子が変わってきたように思います。もう少しだけ、奥に進ませていただけないでしょうか』


 突然、サイア嬢が申し出てきた。

 ろくに調査をしていない状態で奥に進むのは危険だが、サイア嬢の真剣な目に折れることになった。

 結果的に、それは大正解だった。


 予定の地点より本当に少しだけ進み、木や草のサンプルを収集。

 帰還後、その他にも集めていたサンプルと併せて解析。

 その結果、森の奥へ進むにつれて、植物の魔力含有量が増大していることがわかった。


 私はもちろんエレアノーラでさえ気付かなかったのだが、どうやら植物限定でそのようなことになっていたらしい。

 見た目には何も違いがなかったし、魔力量も丁寧に調べてようやくわかる程度の違い。

 それを、サイア嬢は自身の勘だけで気付いた。

 日頃から真摯に植物と向き合っていなければ、絶対にわからないだろう。

 その力には、尊敬の念を感じずには居られなかった。


 そして、魔物の脅威度が上昇したのは、その魔力に長時間当てられた結果、魔物の力が増大、あるいは変質したのではないかという推論が立った。

 植物の魔力含有量が増えているのはごく僅かだが、それは今回調査した範囲に限っての話。

 奥に行けば行くほど魔力含有量が増加する傾向があるため、奥では確実に魔物に影響するほどの量になっているとのサイア嬢の見解だった。


 だが何故魔力含有量が増えたのか、その原因までは掴めなかったらしい。

 そのことを申し訳なさそうにしていたが……。


『貴方は正しく結果を出した。そのことを誇ることは許しますが、卑下することは許さない。私に仕えるつもりなら、ただ胸を張ることだけを志しなさい』

『エレアノーラ様……』


 エレアノーラの激励に跪く姿は、まさしく主従のそれ。

 サイア嬢の笑顔は見ているこちらも嬉しくなるような可憐なものであったし、それを見るエレアノーラも、どことなく満足そうであった。




 三日目。

 この日は二手に分かれて調査することとなった。


 エレアノーラとサイア嬢は、昨日と同様に魔物の領域の調査。

 調査範囲を変え、植物のことを中心に調査を進める。


 私とオリビエ嬢は街に行くことにした。

 街で何をするのかといえば、私たちを尾行してきた者たちについてだ。


 彼らは初日から今日に至るまで、常に私たちを監視していた。

 魔物の領域には入ってこなかったが、それ以外は昼も夜も関係なくだ。怪しいどころの話ではない。

 そのため、彼らのことを調べようということになった。


 だが私は諜報に関する技術を学んでいなかった。

 だから彼らのことを調べたい気持ちはあったが、どうやって調べるかとなると全く案が浮かんでこない。

 そこに手を差し伸べてくれたのがオリビエ嬢だ。


『情報を得ること自体は私が行います。殿下には、その手助けをお願いしたいのです』


 自分の力不足を痛感することになったが、気を落としている場合ではない。

 今が無理なら次に生かせばいいだけのこと。

 その技術を学ばせてもらおうと気を取り直し、調査が始まった。


『ひとまず街に出て食料の買い出しをしましょう。相手の油断を誘います』


 調査対象とは全く関係ない行動を行い、気を逸らすというわけだな。

 初日にも訪れた店に入り、通常通り食材を購入。野菜や調味料など、魔物に領域では採取できないものだけを選んだ。

 会計を済ませて店を出ようとしたところで、何故か店員から紙を渡された。

 連れの女性から預かった? オリビエ嬢が何故こんな物を店員に渡す?

 気になりながら紙を開いてみると、そこには、


『殿下はフェルッテ子爵にご挨拶に行ってきてください。終わったら籠に戻っていただいて結構です』


 とだけ書かれていた。

 ……調査で、挨拶?

 その前にオリビエ嬢はどこに行った?

 監視の目は相変わらずあるようだが……。


 わからないことだらけだったが、とにかく指示通り動いた。

 面倒な挨拶を終えて籠に戻ったころにはそれなりの時間が経過していたのだが、オリビエ嬢の姿はなかった。

 もしや何か不測の事態が、と一瞬考えたが……、


『戻るのは日が暮れる頃になりそうです。殿下には美味しい夕食の準備をお願いします』


 食材の保管庫の扉に、またしても書き置きがあった。

 ……一体いつの間にこんな物を用意したのだ?

 籠で待機していたレッテル先生に聞いても戻ってきていないと言っていたので、恐らく出かける前に用意したのだろうが……。


 非常に気になったが、とにかく指示通り動いた。

 一人で料理をすること自体は問題ない。というかこちらに来てからは何度も料理している。

 良い気分転換にもなるしな。喜んで引き受けよう。

 今から準備するなら手の込んだ物も作れそうだが、さて何にするか……。

 今日はシチューにするか。

 昨日狩ってきたブラックラビットの肉があったな。そのまま食べるのには堅すぎる肉だが、今から煮込めばほどよい柔らかさになる。

 パンも焼こう。固めに焼いて、シチューに浸して楽しめるようにするか。

 サラダは――




「ただいま戻りました」


 はっ。


 唐突にオリビエ嬢の期間を告げる声が聞こえて、我に返った。

 目の前にある作ったばかりの料理。なんと十品。

 作りすぎた……晩餐会をするわけではないんだぞ……。

 だが後悔はしていない。デザートのゆずシャーベットは渾身の一品だと言える出来映えだ。

 通常の部隊では食材の無駄な使用は厳罰ものだが、購入した物以外はむしろ余っているからな。問題あるまい。


「あら殿下、ものすごい料理ですね。晩餐会でもするのでしょうか?」


 ……問題ないのだ……。


「……つい、興が乗ってな」

「まぁ、殿下にも可愛らしい一面があるのですね」


 否定したいところだが、この状況で何を言ってもな……。


「それより無事で何よりだ。飲み物はいるか?」

「美味しそうな料理ですので追求はしないでおきますね。冷たい物でお願いします」


 話を変える前にしっかりと釘を刺してくるが、気にせず冷茶を出す。

 既に話の主導権は取られているが、最後までおくびに出してはいけない。こういったことは今後にも影響するからな。

 手遅れな気もするが……。


「ありがとうございます」

「いや、今日は任せきってしまったからな。ご苦労だった」

「とんでもありません。殿下が何も聞かずにいてくれたからです。決して、任せっきりなどではありません」


 諜報の経験はないが、さすがに私でもわかるからな。囮にされたことくらいは。

 だったら私の動きもオリビエ嬢に影響してしまう。オリビエ嬢の言う通りに行動することこそ、上手く行くというものだ。


「結果がどうだったのか、聞かないんですか?」

「エレアノーラたちが戻ってきたら話すのだろう。二度手間になるだけだ。それに、何か問題があったわけではないのだろう?」

「はい、つつがなく完了しました」

「ならいい」


 こちらに来てから毎日夕食後にその日の総括を行っている。

 そこで聞けば十分だ。


「そうですか。お気遣い、ありがとうございます」


 微笑みながらそう言って、冷茶を飲むオリビエ嬢。


 ……また、だな。


「……やはり、お聞きになりますか?」


 疑問が顔に出てしまったのか、オリビエ嬢から再度問いかけられるが、今生じた疑問は別のことだ。

 これは聞いていいものかどうか……いや、気にしているだけでは何も変わらんからな。思い切って聞いてみるか。


「今日行った調査についてではない、個人的なことだが、構わないか? 加えて、オリビエ嬢やサイア嬢、エレアノーラにとって失礼なことを言うかもしれない」

「失礼……ですか? よくわかりませんが、私で良ければ」


 さすがに予想外だったのか、疑問をありありと顔に浮かべるオリビエ嬢。

 だが気にせず話し始める。私にもよくわかっていないからな。


「君たち三人は、なんというか、優秀すぎるのではないか? 私の知る学園の女子生徒は、何も出来ない者ばかりだったのだが」


 三人に比べると、学園の女子生徒は酷すぎるのだ。

 何か課題が出れば『わからない』。

 自主研究は『興味ない』。

 実技は『怖い』。

 その言葉を言い訳に、何もしようとしない。

 学園に何しに来ているのか、本気で疑問に思った。


 だがエレアノーラたち三人は、どんな仕事でも完璧すぎるほどの結果を出してしまう。

 それ自体はいいことなのだが、私の知る学園の女子にはそんな者は居ない。

 三人と学園の女子。とても同じ女性とは思えなかったのだ。


「そういったわけで、あまりの違いに驚いてしまったというか、疑問が頭を離れなくなったのだ。失礼ついでに白状するが、『君たち三人は本当に女性なのか?』とまで考えてしまった」


 ……そういえば一人は違ったな。だがまぁ似たようなものだろう。


「それはまた、なんと言いますか。殿下も苦労されているのですね……」


 不快な表情をするどころか、私に対して気遣うような表情になったぞ……。


「念のため確認ですが、課題を出された場合は『私には難しすぎてわかりません。だから一緒に課題をやりましょう』という言葉を、甘い声で言われたのでしょうか?」

「その通りだ」

「自主研究は『私は興味ないのですが、殿下と一緒であれば興味が持てるのです』と何かに思いを馳せるように言われ」

「よくわかるな」

「実技は『怖いです。でも殿下が守って下されば、なんだって出来ます』と震えながら上目遣いで言われたと」

「見ていたのかと言いたくなるほど察しがいいな」


 全く同じ言葉を何度聞いたことか。


「本当に殿下の周りには頭の弱い者しか集まらなかったのですね。心中お察しいたします」


 そうなのか……。


「そうなった原因はアイナ・ハリマーが居たからだと思われます。周囲の者は殿下と彼女は親しい間柄と認識していましたので、彼女のやり方を真似て殿下に近づこうとしたのでしょう。その一方で殿下に見向きせず学業に専念している者からすると、殿下とその周囲の者は邪魔でしかなかったはずです。あえて遠ざかっていたのではないでしょうか」


 言われてみれば、行動も言動も似ていた。

 そんなことが原因で、私の周囲にはそういう者しか集まっていなかったということだったのか……。


「ですが、それと私たちは別の話です」


 ん? ……そうだな、私の周囲に集まっていた者たちのことと、今こうしてオリビエ嬢たちが結果を残しているのは全く別のことだ。

 専門の調査員並の働きを学生がしているのだから、ただ“優秀”なだけで片付けられるものではないだろう。

 一体、何がオリビエ嬢たちをそうさせているのだ?


「隠す必要もないのでハッキリ言いますが、報酬が目当てです」

「報酬?」


 今回の任務には学生として来ているのだから、そんな物はなかったはずだ。精々、成績に反映される程度だと思われるが……。


「私たちが頑張れば、エレアノーラ様から褒めてもらえますから」


 ああ、そういうことか。

 事件解決の報酬は無くとも、そういう意味での報酬はあるのだろうな。


「エレアノーラが素直に褒めるとも思えんが、少しくらいは何かあるだろうからな」


 昨日、サイア嬢も褒められていたしな。全くの何も無しということはないだろう。


「はい。私としては何も無くてもそれはそれでアリなのですが、たまには普通に褒めて頂きたいですので。そして調子に乗って更に要求すれば、きっと無碍に扱ってくれるでしょう。あわよくば罵倒してもらえるかもしれません。一度上げて、その後思いっきり下げる。最高のご褒美になるでしょう!」

「そうだろうな。とにかく頑張ることだ。エレアノーラもきっと無碍に扱ってくれることだ……………………」


 オホン。

 何やら変な言葉が聞こえてきたのだが、きっと聞き間違えたのだな。

 いかんな。私は疲れているのか?


「すまないオリビエ嬢。少し聞き間違えてしまったらしい」

「そうなのですか?」

「ああ。エレアノーラに罵倒されたいなどと聞こえた気がした。すまんな」

「間違ってませんので、謝って頂く必要はありません」


 ……………………。

 罵倒が、ご褒美?


「あら? エレアノーラ様から聞いてませんでしたか? 私の“趣味”について」

「……『高度で特殊な趣味の持ち主』とは聞いたが」


  それが原因でエレアノーラに迫っているということだが……ま、まさか。


「闇夜に浮かぶ月のような瞳。その目から向けられる、エレアノーラ様の冷たい視線。相手に一欠片の興味も無さそうな無表情のまま、淡々と告げられる銀のナイフの如き鋭く切れる言葉。それらを向けられると、私は背筋が凍るような恐怖を覚えるのです。その恐怖はこの身を震わせ、心を振るわせ、そしてえも言われぬ高揚感に包まれるのです。まして、罵りの言葉を賜ろうものなら……っ。……そのことを想像するだけで、私は淑女としてはしたない感情を抱いてしまいそうになるのです……」


 前半と後半の内容が全く繋がっていない気がするのは私だけか!?

 蕩々と語る言葉とは裏腹に、頬は紅潮し目はここに無い何かをぼんやりと見つめている、完全に陶酔しきった表情だった。

 その姿は夢見る乙女とでも呼ぶべきなのか。他の女子生徒が似たような姿をしているのを見たことがあるが、それとは違って嫌な感じはしない。私に向けられたものではないからな。

 だがそれ以上に、触れてはいけない邪な気配が漂ってくるのはなんとかならないのか……。


「つまり被虐趣味です。雑に扱われたり、罵られることに悦びを覚えます」

「いきなり素に戻ってとんでもないことを言うな!! というかそこまで聞きたくなかったぞ!?」


 何が悲しくてそんな倒錯した趣味を聞かねばならん!

 高度で特殊とは聞いていたが、そこまで知りたくなかった!


「中途半端な知識ですと今後誤解させてしまうと思いましたので、今のうちに対処しただけです」

「いらぬ気遣い痛み入る!」


 こんな人物と付き合うエレアノーラの心労は、一体どれほどのものなのか。

 そのエレアノーラはサイア嬢と魔物の領域。今頃は自由を満喫しているだろうな……。


「何やら遠い目でエレアノーラ様を慮っているようですが、ご安心下さい。サイアも私の同類ですので」


 …………こんな人物が、二人、だと。


「詳しいことは控えますが、サイアは昔、エレアノーラ様に無理矢理ナニカされたことで救われ、そして目覚めたとか。私と違って身体的苦痛を与えられたほうが、悦びが大きいそうです」


 犯人はエレアノーラかッ!!

 一体何をしているのだあいつは! 加害者になってどうする!

 いや、サイア嬢は救われたのか。であれば良いことなのだな。

 しかもその後始末もエレアノーラがしている。であれば何も問題は無いな。

 ああ、何も問題は無い。犠牲者などどこにも居ない。全ては丸く収まっている。


「今後はサイアと協力し、お互い足りないものに目覚める予定です。何ら心配はありません」


 これ以上何に目覚めるつもりなのかは聞かないでおこう。

 オリビエ嬢も心配ないと言っているしな。とにかくなんの心配もない。

 何一つ、心配ないのだ……。


「さて、料理を仕上げてしまうか。オリビエ嬢、済まないがテーブルのほうを頼めるか」


 疑問がが晴れたなら私のすべきことをするだけだ。料理は現実逃避……気分転換に丁度いいからな!

 もうじきエレアノーラも戻ってくる。せめて、美味い料理で迎えてやろう……。


「…………」

「? 何か言ったか?」


 台所に戻り皿の準備をしていたら、何か聞こえたような気がしたのだが。


「……いえ、なんでもありません。こちらはお任せください」


 気のせいだったらしい。


「ただいま戻りました」


 おっと、エレアノーラたちが戻ってきたか。

 急いで夕食の準備をせねば。

 役目を全うしたものにはそれに見合った報酬が与えられるべきだ。

 料理という役を貶すつもりは一切無いが、命の危険はあちらが上であることは間違いない。

 せめて、満足いく夕食を楽しんでもらわねばな。


 それからすぐに準備を終え、夕食が始まった。

 テーブルに並んだ料理は、誰もが喜んでくれた。

 エレアノーラでさえ頬が緩んでいたし、レッテル先生がフードを脱いだと言えばその喜びようがうかがい知れるというものだ。


 だが、一番喜んだのは他ならぬ私だろう。

 料理を作るのは好きだが、こうして誰かと共に食べる機会は全くと言っていいほど無かった。

 料理人に味見をしてもらうことはあったが、食べるのは自分一人だったのだ。

 だから私の料理に目を輝かせてもらったことなどなかった。

 それがこんなに嬉しいものだとは、全く知らなかった。

 これからも頑張ろう。頑張って料理の腕を磨こう……。


 私は一人、そう決意した。




(私とサイアがなんのために頑張っているのかはお話ししましたが、エレアノーラ様については何も言っていないのですが……。いえ、これ以上はいらぬお世話ですね。ある程度の予想はついてますが、まだエレアノーラ様の胸の内を正確に把握しているわけではありませんし。それに私としては、エレアノーラ様が幸せになってくださるなら、それでいいのですから……)




オリビエ『エレアノーラ様っ、私もお役に立ちましたわ』

エレアノーラ『乙』

オリビエ『もっと褒めて下さってもいいんですよ? いいんですよ?』

エレアノーラ『だまれ』

オリビエ『ああっ! 素晴らしいですわ!』

エレアノーラ『…………』

オリビエ『そのゴミを見るような目、たまりません!』

エレアノーラ『…………』

オリビエ『汚物は目に入れたくないと瞼を閉じる姿も素敵です!』

エレアノーラ『(どないせっちゅーのこれ!!)』



7/5 誤字修正。前書きに視点追加しました。

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