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人生最大の試練が始まった。

お久しぶりでございます。(定型文)

今回も三本ほど連続で更新します。

が、時系列は入学当時まで戻るので話しはほとんど進行しません。

しばらく殿下視点です。


 私はアークレイル・クロエフォルン。

 クロエフォルン王国の第一王子にして、第一位の王位継承権を持つ者だ。


 そんなものは捨ててしまいたいのだがな。


 何故かと言えば私には相応しくないからだ。

 一応、指導者として必要な能力はそれなりにあるつもりだ。

 学術、剣術、魔法、作法、帝王学など、教師たちから要求されるレベルは満たしてきたはずだ。

 そして今後も怠るつもりはない。

 だが決して次の王には向いていないだろう。

 今日、改めてそのことを実感した。


 今日というこの日は、王立エイレイン魔法学園の入学式が行われる日だ。

 国中から才能ある貴族の令息令嬢が集まり、勉学に励む日々が始まる。

 これからの未来に奮起する者。

 圧倒され身を固くする者。

 野心を持って挑もうとする者。

 この場には、実に様々な新入生が居る。


 かくいう私もその一人だ。

 具体的には先ほど挙げた二番目だ。

 いやそれでは足りないな。


 私はあまりの恐怖に身が竦みきっているのだからな!


 聞いてはいた。

 覚悟もしていた。

 だが改めてこの目で見ると……。


 なんと女という生き物の多いことかッ!!


 この学園に通う生徒のおよそ半数が女性。

 右を見ても左を見ても女が居る。


 つまり私にとっては恐怖そのものに囲まれているということだ!!


 そしてその全てが私を見ている。

 だから叶うことなら今すぐやりとげたいことがある。


 私は自室に戻りたい!!


 戻ったあとは当然二度と出ない。一生部屋から出ない。

 なんと素晴らしい事か……。

 昔話に現れる伝説の『ヒキコーモリ』という存在になれるなら何だってしよう。

 女性関係以外ならな。

 といった事を大声で言いたいほど、私は女性が怖い。


 何故こんなこと(女性嫌い)になってしまったのか。

 かいつまんで言えば、私の世界は()によって作られ、()によって壊されたからだ。


 母によるとこの国の国王、つまり私の父は女性と遊ぶことが大変に得意らしい。

 王としての役目もあるため数人程度(母は正妃。それとは別に側妃が五人)の事なら構わないが、数十人となるとさすがにマズい。

 父に教育を任せると同じ道を歩むだろうと考えた母は、私から女性という存在全てを完全に隔離。

 姿を見るどころか存在まで完璧に隠され十五年を過ごし、僅か一月前にその存在を知らされた。


 その話を聞いたときのことは、あまり覚えていない。

 話を聞くにつれて私の自分の足下が壊れていくような感覚を覚え、気が付いたらベッドの上。

 情けないことに気を失うほどの事だっていたようだ。


 母は他の人間とはどこか違うと考えたことはある。

 だが幼い頃から『母とはそういうものだ』と教え込まれていたので、そう信じ切っていたのだ。

 今考えると洗脳じみていたな。


 そして初めて母以外の女性と対面することになり、私の壊れた世界は恐怖という形で再構成された。


 男性とは全く違う、視線や仕草かから伝わってくる“女”の感情。

 潤んだ瞳は自分の感情を叩き付けるかのようで、赤く染まった頬はその身を押しつけてくるかのようだった。

 しかも会う女性の全てがだ。

 はっきり言って獲物として狙われている気分だったうえ、何よりその相手は母と同じく女性。

 恐怖以外の何物でもなかった。


 全ての女性がそうではないらしいが、しっかりと教育されたはずの侍女さえふとした瞬間に“女”になった。

 怖かった。


 “女”として終わったという年配の老婦人。

 まだ“女”というものを感じさせないはずの少女。

 辛うじて会話は出来たが、やはり怖かった。


 結局、そういった“女”を感じさせにくい女性から慣らしていくことと、書物から女性というものの知識を仕入れることを一ヶ月徹底したおかげで、何とか同年代の女性とも会話が出来るほどになった。


 はっきり言って地獄の一ヶ月だったがな……。


 そして今日は入学式。


 “女”が多すぎるッ!!


 なんだここは! 領域脅威度S級の魔物の巣窟か!!

 こんなところで三年間も過ごせというのか!!


 書物の中では同じ学園に通う一般庶民の娘が自分勝手に振る舞う横柄な王族の男に惚れるなどというものもあったが、今私はそんな王族になりたい。

 そして自分勝手に学園を今すぐ潰したい。可及的速やか且つ徹底的に。もちろん国中の学園をだ。

 だがここは書物の世界ではない。

 成人もしてない私には何の権限もない。

 本当に残念だ……。


 ……などと愚痴ばかり言っていても仕方がない。

 今日から始まる三年間の試練。

 仮にも王族に生まれた以上、死ぬ気で乗り越えることが王族としての責務だ。


 幸いにもこの一ヶ月で、周囲の助力もあって女性というものに対する知識はそれなりに得たつもりだ。

 それによるとどうやら、私という人間は本当にこの身を狙われているらしい。


 不幸なことに整ってしまった容姿は“女”の琴線をこれでもかと揺さぶってしまうのだそうだ。

 おぞましいほど醜い容姿でなければ人の外見などどれも大して変わらんだろうに、そんなものの何が重要なのか。

 全くわからん。


 そして美醜に興味のない者だったとしても、今度は王族という権力の象徴に群がるのだそうだ。

 腹を空かせたのキラーアントの巣に新鮮なオークキングを放り込んだ光景を想像しろと言われた。

 怖すぎる。


 そういった理由から、私は女子生徒全てから狙われる可能性があるそうだ。

 であれば対処は一つだ。


 誰一人近寄らせなければいい!


 茶会にも出ないし食事は席を共にしないし会話も極力しない。

 さすがに全ては無理だろうが、可能な限り避けていればいい。

 全くのゼロだと不信感を持たれるそうだからな。王族としてそれは好ましくないので仕方がない。


 さて、それではまず第一の試練からこなすことにしよう。

 これから入学式が執り行われるのだが、式の行われる講堂に移動する前に、寮内で生徒同士が挨拶を行うという風習があるそうだ。

 そしてその挨拶は、基本的に身分が下の者から挨拶を行い、上の者がそれに返すと言う暗黙のルールがある。

 私は王族なので一番上。待っているだけで全ての生徒から挨拶される。


 そして挨拶をする側の生徒にも順番がある。

 こちらは身分が上のものから挨拶を行うのだ。

 多少の間違いは仕方ないという考えの元、公爵家や侯爵家の者は我先にと来るだろうし、逆に男爵家の者はギリギリまで動かないだろう。


 今回のことは私にとって重要なことだ。

 同学年全ての生徒から挨拶をされるということは、今の時点から危険人物を把握できるという事!

 危険を把握しているかそうでないかで、今後の生活は全く異なるものになるだろう。

 これただの挨拶ではない。

 決して気を抜いてはならない、最初にして最大の戦いなのだ!!


 ……の、はずだったのだが。


 何故誰も挨拶に来ない?

 私にだけではなく、誰も挨拶をしていない。

 それはわかる。私がまず挨拶を受けなければ、王族の先を取ってしまったということで不敬になるとでも思っているのだろう。

 たかだかそんな事、私は気にしないがな。他の者は知らんが。


 だが誰一人として挨拶に来ないのはどういうことだ?

 まず来るなら公爵家か侯爵家だろう。

 二つの爵位は上位なだけあって人数は少ないが、だがゼロというわけではないはずだ。

 誰か一人くらい挨拶に来ると思ったのだが。


 こんなことなら生徒のことも調べておけば良かったな。

 この一ヶ月は精神的に余裕がなかったせいで、そこまで頭が回らなかった。

 まぁ私から順序を崩すわけにはいかんからな、ただ待っているだけなのだが……っ!!


 そんな、あまりに気の抜けた考えをあざ笑うかのように、


「(これが、誰も挨拶をしなかった理由かッ!!)」


 彼女は、現れた。


 心の奥底まで見透かすような金色の瞳。

 見ているだけで深淵に連れて行かれそうな、闇夜色の髪。

 それらを形作る、精緻な容貌。


 そんな、この世ならざるモノが現れ、目が合ってしまった。


 その瞬間、全身に形容しがたい何かが走った。

 痛みでもない、衝撃でもない、痺れでもない、熱さでも冷たさでもない。

 何でもなく何でもある、訳のわからない感覚が、彼女を目にした瞬間、全身に駆け巡った。

 動悸が激しい、呼吸が荒い、思考がまとまらない。

 ただ立っていることしか出来ない。


 だが彼女のほうは私と目が合ったことを確認したかと思うと、一歩一歩ゆっくりと私に近づいてきた。


 それと同時に私の頭はようやく動き出した。

 そうだ、私はこれを知っている。

 いくつもの書物に書いてあったが、男は女と出会ったその瞬間、体中に衝撃が走る場合があるのだそうだ。

 であれば、間違いない。


 これは恐怖だ!!


 それもこの世で感じることの出来る、最凶最悪の恐怖に違いない!!


 書物の中でもほとんどの男はその感覚を理解できないものとして捉える。

 初めは気のせいだったかと普通の対応をするのだが、次第に自分が自分でなくなっていく感覚に恐怖し、女と距離をとる。

 しかし最後は恐怖、特に究極の武器として謳われる“女の涙”に負け、女の所有物となってしまう書物の中の男たち。


 くそっ、これが女性というものの真の恐怖なのか!

 これほどの恐怖を覚えてしまえば、書物の中の男たちもやがては屈していくのも無理はない。

 だが私は仮にも次代の王としての教育を受けた者。

 そう簡単には屈しはしない!


 彼女が目の前に来る頃には、私の心は落ち着きを取り戻し決意を固めていた。

 恐らく彼女は相当に力の持った家の者なのだろう。

 周囲の様子を見れば、誰も挨拶をしに来なかったのは彼女を待っていたからだというのはすぐにわかる。

 一体、どこの家なのか。

 そしてついに、彼女は恐ろしいまでに洗練されたお辞儀をしながら、その名を名乗った。


「お初にお目にかかります。サースヴェール公爵家長女、エレアノーラと申します。どうぞ、お見知りおきくださいますよう」


 ――サースヴェール公爵家。


 最強の剣であり最強の盾とも呼ばれる彼の家は、国境沿いに位置する領地を持ち、度重なる他国の侵入を一度として許したことがないほどの武家。

 そのうえ自領内には、世界最高のSSS級(測定不能)に指定された魔物の領域も存在する。

 そんな外面、内面どちらからも危険に曝されている領地にも関わらず、領内の治安は非常に良好。

 強力な公爵家の戦力により市民の生活は保たれている。


 しかも国内最大級の魔物ハンターギルドのおかげで、魔物を狩って得られる貴重な素材も安定して輸出されており経済状況も優秀。

 農業関係は標準レベルだが最近では新たな食品の開発を活発に行っていて、王国の食文化にも影響を与えつつある。


 そんな彼の家は第二の王家とも呼ばれるほどの名家。


 確かにサースヴェール公爵家に比べれば、他の家がどれほど力を誇示しようと脅威には見えない。

 彼女が挨拶を行うまで、誰も挨拶を行わないのも道理だ。


 そして私がこれほどの恐怖を感じたのも道理!


 私がこの学園で最も注意を払わなければならない人物は彼女で間違いない。

 どうやらこの三年間、ただ逃げ回っているだけでは自分の身を守れそうにないようだ。


 いいだろう、サースヴェール公爵家の者よ。

 やれるものならやってみるがいい!

 仮にもクロエフォルンの名を持つ者が、そう易々と下ると思うなよ!

 私のこの身が欲しくば、そなたもその身を賭してかかってくるがいい!


 この三年間、私は必ず貴様から逃げ切ってみせる!!



3/15 誤字修正しました。

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