とある転生少女の災厄
捉え方は貴方次第?
私は世に言う転生者だ。
私の記憶が戻ったのは5歳の時、母の3回目の再婚相手とその子供達との顔合わせをした時だ。
母が失礼のない様に、とその前日からみっちり礼儀作法を私に仕込み、寝ていなかったのでついうっかりうたた寝をしてしまった時だった。
唐突に前世の記憶が蘇って来てしまった。あの時はビックリしてつい泣いてしまったが、とても混乱したのだ。
目の前に綺麗な男女と綺麗な子供達が居て、綺麗な女の人が「どうしたの」って聞いてくる。その異様な光景に。
だけど、母の再婚相手はとても良い人で私が泣き止むまで側に居て慰めてくれた。
そんな事もあって私が母の再婚相手に懐くのは早かった。
まぁ、何処にでも転がってる様な話だ。
ーー
私は去年高校に入学し、今年で高校2年生になる。
私の通っている高校は、この辺じゃ有名な進学校で、入学出来た時は母に、「流石私の子だわ」と褒めてもらった程だ。
私も入学出来た時は驚いた。
私の通うこの進学校には、人気投票制と言う制度が存在する。
人気投票制とは、文字通り学校に通う生徒内で、好きな人に投票する制度だ。
投票した後その中から、上位6人は生徒会入りする事が決まった制度で、進学校で生徒会になったという実績を作る時に、大変お世話になる制度だ。
ちなみに今年の生徒会メンバーは、5人が男で1人女という逆ハーレムみたいになっている。って言うか、生徒会の人間を自分の取り巻きにしているともっぱら評判だ。
何故こんな説明を突然したのか驚いた事だろう。理由は簡単だ。私の義理の兄がその生徒会の副会長をやっているからだ。つまり人気投票で第2位。流石私の兄様だ‼︎
ふと思ったがこう言う事を言うから、私はブラコンだと友達に思われているのだろうか?
もしそうなら気を付けなければ!
ーー
さて、私には好きな人がいる。
放課後の図書室の一角に座っている、黒髪の男子生徒で、眼鏡を掛けたモッサリ系男子だ。
初めて見掛けてから、毎日時間のある時にアタックしてたのが功を奏したのか、暫く前から付き合っている。
だが、恋には障害が付き物だ。つまり何と言うか、ライバルがいるのだ。
私の恋のライバルは、生徒会で逆ハー状態の女の子、名前は愛理 姫架というらしい。
姫架ちゃんは、とても可愛らしい子だ。
いつもキャピキャピしていて、好きな事は好きとハッキリ言う子だ。
姫華ちゃんは毎日、彼に会いに来る。調理実習で作った手作りクッキーや、彼の探している珍しい本を持って、
だから、私の恋人は姫架ちゃんに乗り換えてしまった。まぁ仕方ないのかもなぁと思って、今は落ち込んでいるところ。
*
『私』は、昔から違和感を感じていた。
それが何なのかよく分からないけど、とても気持ち悪い感じのする違和感だ。
『私』の感じていた違和感の正体を知ったのは、5歳の時、母の再婚相手とその子供達を見た時の事だ。
突然、色んな情報が頭の中に湧いて来て、気持ち悪かったけど耐えた。でも、その後女が「どうしたの」と言った時、耐え切れずに泣いてしまった。
気持ち悪かった、何もかもが、何故日本人だと言うのに髪が黒くないのか、何故この女は自分の事を母だと言うのか、何故この女は『私』に優しく話し掛けて来るのかが、理解出来なくて気持ち悪かった。
だって、違うのだ。『私』の母は、白髪混じりの黒髪で、怒ると恐いけど普段は優しい人で、私よりも先に死んじゃったけど、ずっと『私』の心の支えだった人だ。
そんな時に女の再婚相手が、「大丈夫、落ち着いて」と背中をさすってくれたけど、この男も気持ち悪くて吐きそうだった。
だって変なのだ。何故人でありながらこれ程までに綺麗なのか、何故自分の子供よりも幼い『私』に、こんな欲の籠った目を向けてくるのか、気持ち悪くて吐きそうだった。
でも、ふと気がついたのだ。こうやって泣いているからこの男は『私』の側にいるんだ。なら引き剥がすには泣き止む必要があると、それに気が付いて直ぐに泣き止んだ。
それでもまだ心配する様に、側にくっついて来るので笑って「大丈夫だよ」と言ってみた。気持ち悪かった。
ーー
あれからの『私』の日常は、嘘の連続だった。
何せ全てが理解出来ない。勉強とかじゃない、勉強は分かるのだ。何せ2週目、それぐらい出来なきゃやってけない。
『私』が理解出来ないのはこの世界の常識だ。
この世界は可笑しい。まず一夫多妻や多夫一妻は当たり前、多夫多妻もそこら中で見かける。それに近親相姦と言う概念すらもなく、気持ちが悪いとしか言い様がなかった。
何故、『私』はこの世界にいるかと毎日自問自答したけど、応えなど出るはずもなく、唯、無為に過ごした。
時は経って、中学卒業まで後数ヶ月になった。
『私』には、特別行きたい高校とかはなかったけど、義理の兄と同じ高校は嫌だなと思い、別の私立の進学校に受験しようとした。
でも、何処から手回しされたのかは分からないが、何故か義兄と同じ高校に受験する事になっていた。
『私』は、義兄と同じ高校は嫌だから落ちる為にワザと問題の答えを何問も間違えてみたけど、何故か受かっていた。それも満点で。可笑しかった、何もかもが。
でも助けを求めても、助けてくれる人なんていない、と思ったから諦めた。
母親を名乗る女は、「流石私の子だわ」と褒めて来たけど、それを聞いてまた、気持ち悪くなって泣いた。
それから暫く経って、『私』は高校2年生になった。
『私』に友達はいない。友達を名乗る女は何人かいるが、勝手に名乗っているだけだ。
だから、休み時間や放課後はとても暇だった。休み時間はひたすらやる事が無くて暇で、放課後は家に帰る時間を遅くしたくて、時間を潰したかった。
だから、あそこに行くのは必然だったと思う。校内にあって、人が少なく、かつ暇が潰せる図書室は最高だった。
でも、『私』に予想外だったのはそこにいた人物だった。
図書室の一角を、まるで自分の所有する場所とでも言うかの様に、そこに座る黒髪の男。驚いた。
だってこの世界は、可笑しいのだ。この世界の人間は皆カラフルで、黒髪なんてこの世界で一度だって見た事がなかったから。
『私』は、彼と仲良くなりたかった。もう、遠くなってしまった過去に縋り付く為にも。
『私』は、いつもの『私』と違って積極的に人に関わろうとした。
彼と仲良くなるのは大変だった。多分、この世界でとても珍しい黒髪だったから、色んな事を言われてきたのだろう、警戒心が強かった。
それに彼は、前髪と眼鏡で顔を隠す様にしていたから、この世界では底辺に位置する顔ーー前の世界での普通ーーの容姿なのだろう。自己評価が低く、なかなか口すら聞いてくれなかった。でも頑張ったのだ。
そのお陰か仲良くなって、付き合う様にもなった。嬉しくて泣いた。この世界で初めて嬉しいなんて思ったから感動した。
でも、幸せは長くは続かないから幸せなのだろう。
図書室に1人の女子生徒が来る様になった。
初めは気にもしてなかったけど、彼女は毎日来た。ある日ふと思ったのだ、彼女は何をしに図書室に来ているのだろうと、だって彼女は図書室に来るけど本を読まないし借りない。ずっとウロチョロウロチョロしているのだ。
何故か気になって、彼女を観察する様になった。彼女は1人でブツブツと何かをいつも呟いて不気味だったけど、容姿は可愛らしい子で、周りに人が来るとニコニコ笑っていた。
変な子だなと思ったけど、害がないならと放置した。
それから暫くして、そんな事があった事すら記憶の中から消えていた頃、彼の態度がヨソヨソしくなった。
いつもは『私』が行くと、照れているのかちょっと赤くなりながら、「また来たの」って言うのに、最近の彼は私から顔を背けて「いらっしゃい」って言って来る。
『私』は知っているのだ。彼がいらっしゃい何て言う相手は、彼にとってあまり好ましくない相手が近くに来た時に、言う言葉だと。
だから、彼のその言葉にとても傷付いて、駄目だと思いながらも彼を問い詰めた。
彼は、「好きな人が出来たんだ、ゴメン」と言ってきた。
悲しかった、辛かった、絶望した、裏切られたと思った。
でも、分かってた。『私』は過去に焦がれて彼を過去に重ねてただけだと、
だから、捨てられて当然だと思った。
『私』は、「分かった」と言うしかなかった。
それでも、辛くて泣いた。
確かに、彼を過去に重ねて見ていたけど、好きでもない人と付き合ったりはしない。
つまり、そういう事だ。
『私』が珍しく落ち込んでいたからか、義兄が励ましてきた。慰められて、つい泣き付いてしまった。
振られて、絶望しても明日は直ぐにやってくる。
次の日、フラフラしながら学校に行ったら凄い噂が駆け巡っていた。
副会長の義妹の彼氏を生徒会庶務の女子生徒が寝取ったと言う噂だ。
この噂を聞いた時は、驚いたなんて物じゃなかった。
何せ、生徒会庶務の女子生徒は、面食いで有名だ。だが、彼はモッサリしていて、イケメンとかじゃない。
何かの間違いだと思った。あの女子生徒はとにかく、校内の女という女に嫌われているから、新手の嫌がらせかもしれない、そう思ったらそうかもと思って『私』の中で収まった。
暫く間、女子生徒達の同情が凄く集まってきて、学校に行くのが嫌になったけど、諦めて渋々学校に行く日々が続いた。
そんなある日、教室の『私』の机の中に紙が入っていた。何だろう?と思って中を見てみると、何やら書いてある。だが、字が汚くて読めた物じゃない。
何だか、面倒くさくなって紙を捨てた。
その日の帰り、教室に変な女と変な男達が入って来た。
放課後何処で時間を潰そうかな、と思ってた時の騒動だったから、面白いならちょっと見て行こうかな、という野次馬根性で教室から出なかった。
多分、それが間違い。
変な女が突然、『私』を指差して「その人よ」って言って来て、何が何やら分からない内に、変な男達に引き摺られて、別の教室に連れて行かれて、意味の分からない事を一方的に言われる。
意味が分からなかった。
でも、意味が分からない形に理解しようと、変な人達を観察していたら気がついた。
変な女に見覚えがあるなって、あの女は図書室でウロチョロしてた女だ。そう思ったら何だか不思議と繋がった様な気がした。
でも、私がこんな事をされる謂れはないし、こんな事をされる様な事をした覚えもない。
だから、素直に聞く事にした。
「何でこんな事するの?」ってそしたら、男達が「今更しらばっくれる気か」って怒りながら、言ってきて、何故だが命の危険を感じた。
それでも、彼等の一方的な話は続く。彼等は何かを『私』に怒っている様だが、何に怒っているのかが、彼等の話では要領を得なくて分からない。
いじめとか、紙とか、階段とか言ってくるけど、彼等は何を言いたいのだろう。
1人が話せばまだ分かりやすいのに、皆一斉に違う話を、それも感情的に訴えて来る。
『私』は何度か、「1人ずつ話して」って言ってるけど、喋ると切れられる。
何だか、彼等との会話は無理そうだ。
だから彼女に話し掛ける事にした。
おそらく、この事態の元凶と思わしき彼女に。
「何でこんな事を」って聞いてみた。そしたら、彼女は何やらブツブツ呟きながら、「貴方の所為、貴方が隠しキャラのルートに勝手に入るから」って、この子電波だろうか?もしくは本物?
そんなくだらない事を考えていたのが多分最後。
突然視界が真っ暗になって全てが暗転した。