犯罪コレクターVSディルスクェア兄弟!
「イェルク・フィスタール!? あれはレンツ・エースターではないのですか!?」
カイの隣でロイユーグさんが眉を顰めた。
「レンツ……? いや、あれはイセルルートの魔法使い、イェルク・フィスタールだ」
「そうですか……やはりレンツ・エースターは偽名だったのですね。兄上、僕が追っていた犯人は彼です」
犯人? 追っていた?
ロイユーグさんのセリフを聞いて、わたしは犯罪眼鏡を見た。こいつ、また犯罪に手を出したのか。他大陸にきてまでやるなよ。また誘拐か性犯罪なの?
そんな思考を読んだのか、犯罪眼鏡は端正な顔を歪めて、ギロリとわたしたちを睨みつける。いくらイケメンでも、誘拐監禁するような性犯罪者はごめんだ。絶対イヤだ。しかも脱獄した挙句のストーカー。なんなのその役満的な並び。イケメン台無し。
『《とまれ、躰》!』
誘拐監禁性犯罪脱獄ストーカーはまたあの酷い呪文を唱えたけれど、それはなんの効果も起こさなかった。これがカイの剣のおかげなの?
舌打ちする誘拐監禁性犯罪脱獄ストーカーをよそに、男二人は話を続ける。
「いえ、殺人です。身分証を見咎めた衛兵一人と、その近くにいた住民二人を風魔法で斬り殺して逃亡したんです。慌てて魔導師隊に応援を頼んだのですが、応援に来たのは下位の魔法使いだったため取り逃がしたんです」
ラクトピア王都の魔法使い、使えないな! エリートじゃなかったの!
そして誘拐監禁性犯罪脱獄ストーカーは、さらに身分詐称に殺人という犯罪を重ねていたらしい。なんなの。犯罪のコレクターなの。あと窃盗と詐欺でもすれば完璧なんじゃないの。
「騎士団と魔導師隊は仲が悪いんですよ、お恥ずかしいことに。被害に遭ったのが貴族なら対応は違ったんでしょうが、衛兵と貧民区域の人間ではダメなようで……」
ロイユーグさんは悔しそうに唇を噛んだ。え、でも王都で他国の魔法使いが起こした犯罪なのに、それを放置してて国の威厳とかそういったものはいいわけ?
異世界の事情に詳しくないわたしは、なんだか納得がいかない。訊けば魔導師隊の手落ちでなく、王都の警備を任されている騎士団の手落ちとなるため、こういった足の引っ張り合いはよくあることらしい。大丈夫か、あの国。
「ユーグとは、同期で同じ名だということから仲良くなったんです。僕は、団長にかけあってあいつを殺したあの男を追ってきた。兄上、あいつは僕の敵です」
ロイユーグさんと亡くなった衛兵さんは仲良しだったようで、ロイユーグさんは彼の仇を討ちたくて追っ手に志願して、ここパルティアまで追いかけてきたらしい。心底悔しそうなその表情に、在りし日の彼らの仲の良さが窺える。
ロイユーグさんは腰に佩いていた長剣をスラリと抜いた。カイの剣と違い、それは片刃だった。
「悪いがロイ、あれは俺の敵でもある。ナギに酷い仕打ちをしたことを、俺は許せそうにもない」
「僕も譲れません。なので半分こにしましょう」
半分こって!
薄く笑ったロイユーグさんは、まったく目が笑ってなかった。なんだろう、兄弟だけあってカイに似てるよ、この表情。怖い。
「変わらないな、おまえも」
「変わりましたよ。少なくとも今の僕には追いかける力がある」
じっと自分の顔を見るロイユーグさんに根負けしたように、カイが口元を緩めた。
「……置いて行ってすまなかったな。じゃあ、行くぞ」
「はい、兄上!」
白刃一閃。魔法が効かなくなった犯罪コレクターは弱かった。いや、カイたちが強かったの? あっという間に取り押さえられ、縛り上げられ、猿轡を咬まされた。
ようやく人心地つけたわたしは、カイの近くへふらふらと寄って行った。が。
「彼女の命が惜しければ、剣を置くんだ」
耳元で陰険眼鏡の声がした。ひやりと首筋に冷たくて硬いものが当たる。
あ、うん、あなたもいましたよね! 犯罪コレクターに集中してたせいで、ちょっとだけ忘れてました!
忘れてたから背後の警戒を怠っちゃって、うっかり人質になっちゃったんだけど、うっかりにもほどがあるわ、わたし。カイ、ロイユーグさん、ホントごめんなさい!