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【挿話】兄弟たちの邂逅

 バルルークのじっちゃんから譲ってもらった移動陣で、俺はウルフレアの城門前にやってきた。サジやタイスも同行すると言い張ったが、サジはギルドの仕事が、タイスはメルルがまだ目覚めてないため断った。


 ディルスクェア本家はウルフレアの貴族街の中程にある。比較的王城に近いその場所は、伯爵家としては破格の扱いを受けていると言ってもいい。それもこれも、複数の魔法使いを生み出し、軍事に貢献してきたからだ。


 俺は記憶を頼りにウルフレアの街中を走る。二十年近く近寄らなかった街は、記憶とだいぶ変わっていた。


「……兄上っ!?」


 中央広場の噴水まで来たときだった。前方から歩いてきた男が、通り過ぎ様腕を掴んで訊いてきた。

 俺と似た色彩の男は、呆然とした表情で俺を見ている。


「まさか--ロイ?」

「やっぱり兄上なんですね!?」


 確証はなかったものの、そう問いかけると男は食いつくように声を荒げる。

 どうやら男は四つ下の弟のロイユーグのようだった。兄上兄上と慕ってくれていた頃の面影はほとんどなく、俺にとってそこにいるのは見知らぬ他人にしか見えなかったが、弟の方は異なる感想を持っているようだ。


「なぜ、いまさらウルフレアに帰ってきたんですか! いまさら……っ」


 突然つかみかかってきた弟は、思いの丈をぶちまけるかのように俺をなじりだした。


「ロイ、悪いがおまえと話している余裕はない。急いでいるんだ」

「兄上! 兄上はいつもそうだ! いつだって僕を置いて行くんですよね!」


 道端で突発的に始まったいい年した男たちの兄弟喧嘩は、人目を惹くに値するようだった。ざわざわと、あっという間に人垣ができてゆく。


「とにかく、話は後でだ」

「いいえ! 昔は見送るしかなかったけれど、今はそうはいきません! 見逃すわけにはいかない!」

「だから、ここで話すわけにもいかないだろうが! 俺は急いで行かないといけないんだ! 文句があるならおまえもついてこい!」


 こうしている間にもナギの身になにがあるかわからない。焦燥感に煽られながら怒鳴りつけると、ロイはきょとんとした顔をした。


「ついて--」

「家に行くぞ」


 つかまれていた腕を振りほどき、人垣を掻き分けるようにして貴族街の方へ進むと、ロイは黙ってついてきた。発展しなかった喧嘩に、つまらなさそうに外野が散っていく。


「あの家に娘が一人連れてこられなかったか?」


 ギャラリーを抜けた後、ロイに訊いてみる。ハージナル・アゼレートはディルスクェア家にいると踏んでいたが、もしかして違うかもしれない。ウルフレアに来たことはたしかでも、その後の足取りは追えていないのだ。


「いえ……僕も仕事でこちらへ来たので、まだ家には戻っていなくて」


 俺の質問に、ロイは困ったような顔をした。そういえばナギが、こいつはラクトピアで騎士をしてるとか言っていたか。


王都レオリアで事件があって、その犯人を追ってるんです」


 ラクトピアの王都レオリアから犯人を追ってウルフレアへとは、穏やかでない。


「黒いローブの男で……いえ、それはもとより……兄上! あの日、何故家を出たのですか!? 僕は--」


 言いかけたロイの言葉は、最後まで俺の耳には入らなかった。視線の先の人影に目を奪われたからだ。


「ナギ!」


 屋敷の付近にいた人影は、たしかに俺が探していた最愛の人だった。


 ナギは黒いローブの男に腕を掴まれ、ぐったりしていた。ぴくりとも動かない姿に総毛立つ。

 動かない彼女の奥に、ハージナル・アゼレートが見えた。髪型や雰囲気は違うが、色合いやあの眼鏡は奴だろう。

 ハージナルは膝をつき、満身創痍とまではいかないものの、傷だらけだ。


 俺たちが駆けつけるのを感じたローブの男がこちらを向いた。黒い髪が揺れ、金の瞳が覗く。


「くそっ、なんでおまえがいるんだ! 《解除、シヴァ》!」


 ナギを捕まえていたのはイェルク・フィスタール。ヤークトの王城で捕らえられているはずの魔法使いだった。

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