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【挿話】きみを探して

 ナギを残しておいても、タイスもメルルもいるから大丈夫だと思っていた。

 だから--こんなことになるとは思っていなかったんだ。


「すまん……すまんカイ!」


 顔色を変えているタイスが謝罪するが、俺はあまり聞いていなかった。


 気を失って倒れているメルルを見つけたのはパン屋のおかみだったという。友人が倒れてるのを見つけた彼女は、慌てて黒猫亭に飛び込んできた。

 倒れていたのはメルルだけだった。そのメルルも、まだ目覚めてはいない。メルルの近くに落ちていた紙から、どうやら眠り粉を吸わされたらしいと、駆けつけた薬師が判断した。


 ナギがいない。わかっているのはそれだけだ。

 ナギの行方がわからなくなってから、俺は街中を手当たり次第に探した。ナギの魔力量は桁違いに多く、魔力も独特なものだ。しかし、いくら目を凝らしても街中に彼女の魔力は視えない。

 ナギは、ニーニヤにはいないのだ。


 そんな中で、今すぐにでも外へ飛び出して探したいのをぐっとこらえているのは、ひとえにギルドの調査待ちだからだった。

 ニーニヤほどの規模を持つ街は、城門部分に結界石が埋め込まれている。普段の出入りは門兵によって管理されているが、たまに魔法陣による移動をする人間がいるため、その痕跡を残す目的でこの石はあった。

 門の出入りも、結界石による痕跡も、ともに職業ギルドが管理しているため、事件があった際は街の出入りを制限するとともに、出入りした人間を洗い出すのはギルドの仕事だ。


 多分、ナギを攫ったのはディルスクェアの関係者だ。

 しかし、確定はできない。飛び出しかけた俺に待ったをかけたのはタイスだった。たしかに一理あると、歯がみしながらギルドの知らせを待つことにした。腹の底から焼け付くような怒りがこみあげるが、無理やりねじ伏せる。


「カイ! リストを持ってきたわよ!」


 ノックもせずに部屋に飛び込んできたのはサジだった。いつも丁寧に編み込んでいる髪も、今は乱れに乱れている。


「届け先の話によると、多分攫われたのはお昼前だ」

「この街にいる可能性は?」

「ない。お昼前後の出街者のリストを見せてくれ」


 タイスとサジと手分けしてリストをめくる。さほど多くないリストにその名前を見つけるのは容易だった。


「魔法陣移動者にナギちゃんの名前があるわね。陣の所有者は……ハージナル・アゼレート。目くらましで本当の所有者は違うかもだけれど」


 結界石のリストに名前が載るのは、入街の際に身分証を提示し名前と痕跡が一致している人間と、魔法陣を展開した魔法使い、ならびに魔法陣の購入時に魔法紙へ名前を書き入れた人間だけだ。

 魔法紙に書き入れた移動陣は所有者名がないと動かないし、魔法使いの魔法陣にはその者の痕跡が残る。その名前を偽ることはできないが、他者にやらせることは可能なため、このリストも完全ではない。だが、移動陣に組み込まれた移動先がわかるため、有事の際には活用されている。


 サジが見つけ出したその名前は、聞き覚えのあるものだった。からかうように、誇示するように、わざわざ誤魔化すことなくあの男は名前を記した。


 ホースクルの司書がナギを連れ去ったのは、ウルフレア。パルティアの王都であり--ディルスクェア本家がある場所だった。


「ナギの居場所はだいたい把握した。取り返しに行ってくる」


 腹の底に溜まる怒りを吐き出すように、俺はタイスたちに告げた。

 居場所がほぼ特定できたなら、ここで待つ必要はもはやなかった。取り戻しに行く。ウルフレアなら、クロムで行くより魔法陣を購入して移動した方が手早いか。王都なだけあって、ウルフレア行きの移動陣は、かなり高価だが普通の魔法陣屋でも売っていた。


「カイ、あの家に行くなら、これ持っていけ」

「なんだ」


 立ち上がった俺に、タイスが包装された箱を手渡した。メルルと一緒に見つかったものだ。


「俺が渡すのもおかしいが、嬢ちゃんからだ。ものがものだし、念のため持っていけ」


 中身は、守護石だった。あいつの瞳の色をした、小さな石。

 紐で包まれるように編み込まれたそれは、掌に握りこむと、ひんやりとした感触を伝えた。ナギの肌のようになめらかなその手触りに、胸が詰まる。

 荒事をこなす傭兵は、お守りがわりによく持っているが、俺にはシヴァがあるから守護石はほとんど使ったことがなかった。破邪の剣とはいえ、シヴァは解放しないとその力は発揮されないので何度か痛い目は見てきたものの、特別な依頼を抜かして守護石を持つことはない。

 だが、ナギの前でシヴァを解放したことはなかったため、彼女なりに気を遣ってくれたのだろうか。それともタイスたちも解放したシヴァは未見だから、彼らのアドバイスだろうか。

 

 でも……ナギ。こんなものより、おまえがいてくれる方がよかったのに。


「ウルフレアへの移動陣なら親父殿が持ってるわ。ギルドへ行きましょう!」


 俺のもの思いを断ち切るように、手早くリストを掻き集めたサジが声をあげた。

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