森を出ました!
これ以降、日本語セリフは[ ]、異世界語セリフは「 」で表記させていただきます。
そこは森の終わりだった。近づくにつれ、どんどん明るくなる。
[……!]
とうとう森を抜けた。すこん、と視界が開ける。青空が見えた。筆で刷いたような薄い雲が幾筋も伸び、うっすら遠くがピンクや紫がかっているのは、夕方なのか。
森から出た先は街道のようだった。草が生い茂る野原の間に、踏み固められた道がまっすぐ伸びている。馬車かなにかがよく通っているのか、轍が深く抉れていた。
ガサガサとクロムが草を踏み分けて街道へ向かう。
「カイ、[これからどこに行くの?]」
「あ? ん? どこに行くのかが気になるのか? まずはギルドだ。わかるか? ギ、ル、ド。依頼の終了報告をしねぇとな。生け捕りにしてある山賊たちを回収してもらわねぇといけないしな」
「ギ、ル、ド?」
「そうだ。お前のいた国にもあったろう? ナザフィア大陸だけでなく、イセルルート大陸にもあるしな、ギルドは。まずはそこに行く。お前のことも訊かなきゃだしな」
カイはまくしたてるとクロムにまたがったわたしの膝をぽんぽんと叩いた。ちょっ、生脚じゃないとはいえ、乙女の脚に気軽に触れるでないよおっさん!
軽く睨むと、カイはニカッと人のよさそうな笑みを浮かべた。く、ほだされませんよ! 許可なく触るのはセクハラです。
「さて、ニーニヤの街までは多少距離があるもんでな、俺も乗らせてもらうぞ」
[?]
カイはこちらにむかって一言二言話すと、クロムの頸に手をかけた。そのままひらりとわたしのうしろに飛び乗ってくる。びっくりしたー! そっか、乗るぞとかなんとか言ってたのか、今のは。
「悪い、驚かしたか?」
「悪、あどかした?」
短いセンテンスだったので、聞こえたまま繰り返してみた。響きは英語っぽいので、短文で早口でなければなんとなく追える。
わたしが多少違うものの同じセリフを繰り返したのが面白かったのか、カイがふっと破顔した。お、なかなかいい笑顔じゃないですかー。
「ナザフィアの共通語を覚えようとしてるのか。偉いな、小さいのに」
「ナザフィア……エライ、小さい」
ゆっくり! もっとゆっくり頼みます!
あわあわしているわたしの頭を押し戻すと、カイは左手でわたしの胴体をぐっと抱きしめた。な、ちょっといきなりナニ⁉︎
「偉いけど、今は黙ってな。舌噛むぞ」
赤面したわたしだったが、すぐ理由は知れた。左手でわたしを拘束したカイが、残った右手でクロムの頸を叩くと、途端にクロムがスピードを速めたからだ。
あ、これはシートベルトでしたか、納得。