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お仕事したいんですが!

 メルルさんとタイスさんに挨拶を済ませると、もう挨拶まわりは終わりだと言う。


「する前に挨拶済ませとかなきゃいけない義理がある人間はさほど多くないからな。あとは会ったときにでもすりゃいいさ」


 全部がここに集まってるのは助かるな、とカイは笑う。


「あとは夜にじっちゃんとこでシャリルさんに挨拶するのと、実家に手紙を出して終わりだろ。あっちに顔出すのは危険だしな」


 お父さんとかに挨拶しとかなくていいのかな、と思ったのを見透かしたようなタイミングでカイが言葉を続ける。そんなのでいいのか。不義理をすることで嫁として認めません!とかになったらどうしよう⁇

 ……いや、カイの実家は特殊だったんだ。あそこに顔出して幽閉されたらたまったもんじゃない。


「でも、わたし、一番最初に挨拶しなきゃいけない“家族”にまだきちんと報告してないよ?」

「ん? ああ、でもあいつはあの場にいただろう。多少離れてたけど、まぁ聞いてたと思うぞ」

「でも挨拶してないの。カイの家族でしょ? ちゃんと報告したい。ダメかな?」


 わたしの懇願に、カイが歩き出した。城門を抜け、街の外へ行く。街道を逸れて迷いの森の近くまで来たところで、カイが指笛を鋭く鳴らすと、しばらくしてクロムが姿を見せた。


「クロム!」


 抱きつくと、クロムは嬉しそうに頸を曲げて顔をこすりつけてきた。


「あのね、クロム。聞いててわかってるかもしれないけど、わたしね、カイのお嫁さんになることにしたの。わたしもクロムの家族にしてくれる?」


 クロムにそう報告すると、ベロリと顔を舐められた。痛いよクロムさん!

 わたしをひと舐めしたクロムは、尻尾と前足でわたしを抱きかかえるように囲んだ。これは喜んでくれている……んだろう。多分。


「そろそろ返してくれ」

「がぅ!」


 クロムにだっこされていたら、横からカイの手が伸びて抱き上げられた。連れ去られたのが不満だったのか、クロムが不機嫌な声を上げた。


「カイ!」

「今日はほとんどナギに触れてないんだ。そろそろ限界」


 なにを言い出すかと思えば!

 わたしを抱き上げたまま独占欲をあらわにするカイに、思わず赤面してしまう。なんなの、なんなのもう! こんなのされたら嬉しくなっちゃうでしょ! でもそろそろ下ろしてくれてもいいんですよ! 子どもじゃないんだし!


「そろそろ下ろして」

「キスしてくれたら下ろすよ」

「はい!?」


 たまにカイは暴走モードになるけど、今まさにそのモードに切り替わっているらしい。どこだ、そのスイッチ。そしてなぜオンになった。


「ナギ?」


 うわ、すっごいイイ笑顔!

 うーん、キス、ね……。たしかにわたしからしたこと、ないかもしれない。


「うー。あのね、キスしたらお願い叶えてくれる?」

「いいよ。叶えられるものならなんでも」


 よっし、女は度胸! 愛嬌だった気もするけど、女だって度胸は必要だ。

 わたしは意を決めてカイのほっぺたにキスをした。


「したよ!」


 どうよ! やればできるでしょ! 恥ずかしかったけどね!

 ドヤ顔でカイを見ると、不承不承といった様子で訊いてきた。ほっぺじゃ不満ですかそうですか。


「お願いってなんだ?」

「あのね、働きたい」

「ダメ」


 カイさん一刀両断。

 しかしここで断られるわけにはいかない。お金が欲しいんだ、わたしは。


「なんで? お願い、なんでもいいの。メルルさんたちがよければ、宿のお手伝いとか、ダメ?」

「なんでいきなり仕事探し出したんだ?」

「だってずっとカイにださせてるもん。ここで生きてくならお仕事したい。欲しいものがあるの」

「俺が買うよ」

「誰かに買ってもらうんじゃダメなの。自分で買いたいの」


 この前誕生日の話をしたときに思ったんだ。わたしもカイになにかをあげたい。もらってばかりじゃなくて、プレゼントがしたい。まぁまだなにをあげるかは決めてないけど、先立つ物は必要だ。


「なにが欲しいんだ?」

「秘密」


 だってまだ決まってませんし!


「……家にいるんじゃダメなのか」

「お家にはお手紙出して追われないようにしてくれるんでしょ? イセルルートの変態眼鏡はここまでこないだろうし、もっさり眼鏡はラクトピアにいるし、力のことさえバレなければ大丈夫かな〜なんて」

「過信は禁物だ」

「そうだけど……一生お家の中はイヤだよ。お願い、この世界のこと知りたいの。いろんなことをしてみたい」


 ワガママかな、やっぱり。狙われてる身で軽率だとは思う。


「お願い、せめて式までの一月! バルルークさんのところで下働でもいいです!」

「……じっちゃんとこか、黒猫亭でなら。もう少ししたら麦踏祭があるし、宿も食堂も混むだろう。この時期姐さんたちは人手が欲しいってこぼしてたし、厨房の手伝いや裏方なら大丈夫だと思う」

「ありがとう!」


 やった! これでカイへのプレゼントが買える!

 嬉しくなったわたしは、カイに抱きついた。


 街に戻り、メルルさんに訊いてみると、すぐさまOKがでた。臨時で人を雇おうかタイスさんと相談していたらしい。

 すぐにでも来て欲しいとのことだったので、わたしはバルルークさんのところでお世話になりつつ、手が空いてるときは厨房の手伝いをするということになった。

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