新年祭ですよ!(2)
だいぶ薄暗くなってきた頃、揃いの制服を着た兵士がまわりの人たちに声をかけながら歩いてきた。すると、彼らが通ったあとは、モーゼの十戒のように人が二手に分かれていく。
「そろそろ並ぼうか」
「見物客で道を作るらしいの。アタシたちも行きましょう」
松明の火のパレードを見るために、わたしたちはまわりの人たちに倣って場所取りをすることにした。うわ、ワクワクする!
おしゃべりしながら待っていると、ドォン!という音とともに花火が上がった。こっちの世界にもあるんだ!
次々と夜空に花開いていく花火を見ていたら、遠くから歌声とともに灯りが近づいてきた。パレードが始まったのだ。
しゃんしゃんという鈴の音と、男の人たちの低い音色で構成されるその歌は、あたりの雰囲気も相まって、なんだかすごく荘厳だった。
「なんて歌?」
「んー、これは太陽神を待つ歌ね」
サジさんに訊くと、簡単に訳してくれた。
「闇夜を司るトゥーリが来るぞ
なぎ払え 追い払え
灯りを掲げ いざ参らん
迎えよ 我らが神マルクトを
生まれ変わりし我が幸い
希望の光よ 疾く来たれ」
なるほど、松明の火で闇を追い払ってるのか。たしかに歌に合わせて松明を振ったり掲げたりしてるや。
「闇神は破壊と再生の神でね、朔の夜、太陽神は闇神に飲み込まれるの。そして新年、闇神から新たに生まれ出でると言われているわ」
「そうなんだ。でも今の歌だと追い払っちゃうけどいいの?」
「あれは一番だからね。二番だとちゃんと産んでるよ」
わたしの言葉にラズさんが笑って二番目の歌詞を教えてくれた。
「闇神トゥーリ その胎に
新たな光 宿すとき
灯りを掲げ いざ参らん
迎えよ 我らが神マルクトを
生まれ変わりし我が幸い
闇夜を斬り裂き 今産まれん」
え、闇の神様って女神様なんだ?
ちょっと意外だった。
ということは、新年祭は死と再生、男と女、古い年と新しい年、最初と最後といった対照的なものを並べたお祭なんだね。
そんなことを思っていると、わたしたちの前に松明の行進が到着した。他の人に倣って手の杖を差し出すと、松明の灯りを移してくれる。
ぼうっと激しく燃えだした松明を掲げると、何故か炎の色が七色に変わった。えっと思ってまわりを見ると、カイたちのは普通の炎だ。
『お。お嬢さん、アタリだね! ほら、列に加わりなよ!』
「え?」
近くにいたおばさんが、どんとわたしの背を突く。困ったわたしに、サジさんが説明してくれた。
「色が変わったのはアタリらしいわ。行進の列に加われるらしいわよ」
そう言われて見ると、ちらほら七色の松明を持った人が列に加わっていた。目の前を通りがかった兵士さんが、ニコッと笑って手招きする。
言葉がわからないわたしは一瞬躊躇ったけど、まわりの人に背を押されるまま、せっかくなので参加することにした。
『闇夜を超えて 我らは行く
君が光 探し行く
灯りを掲げ いざ参らん
迎えよ 我らが神マルクトを
生まれ変わりし我が幸い
新しき佳き年を 寿ぎたまえ』
歌詞がわからなくて歌えなかったけど、初めて参加するお祭は、ひどく印象的で、とても楽しかった。
この一年--いや半年か。いろんなことがあった。異世界に連れてこられて、カイと出会って、旅をして、変な力がわかって、狙われて、恋をして、それが叶って--そして帰れないことがわかった。
帰れないことがわかる前にカイと生きていきたいって決めたけれど、それでも帰れないのはショックだった。
でも、気持ちを切り替えなくちゃ。わたしも生まれ変わるんだ。“川浪凪沙”にはもう戻れない。戻れないことをいつまでも悔やんでもダメだ。側にいて支えてくれる人がいるんだもの。こちらでもやってけるはずだ。
“川浪凪沙”がなくなるわけじゃない。家族や友達たちが育んでくれた“凪沙”の上に、新しくわたしが“ナギ”を作るんだ。
七色に輝く炎を見上げ、わたしは決意を新たにした。負けない。前を向いて歩く限り、必ず道はあるはずだから。




