新年祭ですよ!(1)
翌日、宿に戻ってきた双子と一緒に、わたしたちは街に出てみた。
年の瀬というだけあって、ヴィシャリカはすごい人混みだった。どこも一緒なのかと思ったが、マナツィアという国は違うのだとカイは言う。
「マナツィアは太陽神を奉じる宗教国家で、太陽神殿の力がことさら強いんだ。だから新年祭の前はむしろ皆静かに家に引きこもるな」
日本はあまり特定の宗教でどうこうっていうのがなくて、大抵お祭とかはイベント扱いされてるから、こういった話は面白い。
「なんで引きこもるの?」
「新年祭は太陽神が生まれ変わるのを祝うお祭なんだ。ただ、その前日、朔の夜は闇神の力が一番強くなる。闇神に目をつけられないよう、人々は家に篭って太陽神に祈るんだ」
「へぇ〜」
「マナツィアの話は聞いたことあるわ。アタシなんかはあまり信仰深くないから全然だけど、メセドなんかは太陽神の敬虔な信者だから、太陽の生まれ変わる新年祭は特別なものらしいわよ」
カイの説明に、サジさんが追従する。メセドさんって誰なのかと訊くと、ニーニヤのギルドにいたあの眼鏡さんだった。眼鏡……今のわたしには天敵を示すアイコンのようなものだけど、あの眼鏡さんはどんな人なんだろう。
「パルティアやラクトピアはそこまで深く受け止めてなくて、お祭色のが強いけどな。朔の日は額に太陽を表す朱をつけて過ごすくらいだ」
「そうそう、あれね、乾く前にうっかり服につけると大変なんだ!」
額に朱をつけるって、お守りみたいなものなのかな?
そう思ってあたりを見回すと、皆一様に同じ模様を額に描いてあった。
「あんなの?」
「あそこまで図案化されてない。単に塗りつぶした円を描くだけだ」
「でも、あれ可愛いわね! アタシたちも描いてもらいましょ! ほら、あそこに朱紋屋があるわ」
お花と太陽を足して二で割ったような図案は、たしかに可愛かった。
サジさんの誘いに乗って、四人で描いてくれる露店に入る。どうやらあの模様はヘナタトゥーみたいなものらしい。
皆と同じ模様を額に描いてもらい、お店を出る。うう、鏡が見たい。携帯用の鏡は持っているけれど、むこうの世界のものは極力隠すことにしているので出すことはできない。
ヴィシャリカの人たちに紛れて雑踏を歩いていると、そこここに杖が売っているのが目に付いた。
「あれはなに?」
指差して尋ねると、ラズさんがお店の人に訊いてくれた。
『お客さんたち、ゼストの新年祭は初めてかね? これは松明だよ。これに火をつけて、夜通し街を行進するんだ』
サジさんが通訳してくれたところ、なんと杖ではなく松明だったらしい。夜通し行進とかすごいな! でもちょっと見てみたい。
「アタシたちもやってみましょうか」
「いいの!?」
サジさんの提案に、わたしは一も二もなく飛びついた。このところ嫌なことが続いてたから、ここはひとつパアッと盛り上がりたい。
「でもまず腹ごしらえよね! ラズ、あそこの牛串買ってきて」
「あいよ〜。そしたらサジは飲み物よろしく」
双子がテキパキと手分けして食料を調達してくれたので、わたしは右手に果実水、左手に牛串という、いかにもお祭といった姿でそぞろ歩いていた。この牛串、ガーリックと胡椒が効いててすごくおいしい。
「楽しいね」
「それはよかった」
冬の昼間は短く、もうだいぶ日が落ちてきていた。




