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そろそろ年が変わるそうです!

 ローゼンからは馬車で行くかと思いきや、その後責任を感じているらしいヌェトさんがゼストの王都まで移動陣を組んでくれて、わたしたちは苦労せずヤークトを離れられた。

 魔石による迎えの船の手配はすんでいるものの、到着には一月ほどかかるので、しばらくゼストで時間をつぶすことになりそうだと言われたけれど、ヤークトから離れた今、特に異論はない。


「今日も雪だねぇ」


 そして今、わたしは宿の部屋でのんびりしながら、雪の降りしきる窓の外を眺めていた。ヤークトよりゼストの方が北に位置するせいか、ローゼンでは見なかった雪景色が、ここヴィシャリカでは普通にあった。


 雪対策なのか、合掌造りのようなとんがった屋根が続く街並みは、雪がないときは蒼一色で綺麗らしかったが、今は純白に染められている。けれど、これはこれで綺麗だなと、雪のあまり降らない街で暮らしていたわたしは思う。


「パルティアでも雪降る?」

「そうだな、パルティアではあまり見ないな。マナツィアではよく降るが、パルティアは比較的温暖な気候なせいか、雪はさほど降らない」


 そっか。でも実際住んでるとこが雪国だと、雪かきが大変そうだからいいのかな。


 ガラス越しにちらつく雪を見つめながら、わたしは昨夜聞かされた媒介について思いを馳せた。


 ※ ※ ※ ※ ※


「人の命?」


 ひどく言いにくそうに告げられたそれは、にわかに信じがたいものだった。

 わたしはカイを見つめる。


「ああ」


 なんて声をかけていいのか計りかねた表情で、カイは頷いた。

 人の命。つまりわたしが元の世界に帰るには、手に入れた魔法陣とわたしの魔力、そしてだれかの命が必要となるらしい。


 そう理解した瞬間、身体の力が抜けた。床に崩れこむ前にカイが抱きとめてくれるが、あまりの衝撃にわたしは立ち上がれなかった。


 そんなの無理だ。

 この世界で生きていこうと決心したものの、元の世界に未練がないわけじゃない。

 けれどその情報は、残っていた未練を払拭するには十分だった。だれかの命を犠牲にして帰るなんて、わたしにはできそうにもない。


「そっ……か」


 どちらの世界を選んでも、元から帰れなかったのか。

 血の気が引いた唇を噛むと、かすかに血の味がした。


 ※ ※ ※ ※ ※


 まさか媒介がそんな重いものだとは思わなかった。

 でも、世界を渡るということを考えると、それくらいリスキーな方法でないとダメなのかも知れない。


「ナギ」


 気遣わしげな色をにじませた声音が、わたしの名前を呼んだ。


「なぁに?」


 ともすれば沈みがちになる表情に笑みを浮かべつつ、わたしはカイを振り返る。


「雪が気になるなら、少し外に出るか?」

「行く!」


 デートのお誘いを受けて、わたしは窓辺から身体を引き剥がした。ぽんと勢いをつけて床に降り立つ。


「そろそろ新年祭だ。ラズたちとも話したんだが、せっかくだし、ヴィシャリカの祭を楽しんでから、アクウェカに戻るのでも構わないか?」

「お祭? どんなの?」

「新年を迎える祭なんだが、こっちのはどんなのだろうな。二人がゼウェカ邸から戻ってから訊いてみるか」


 宿の入り口に向かいながら、カイが提案してきた。

 サジさんとラズさんは、今二人でバルルークさんの実家だというお屋敷を訪ねている。最初はわたしも行くはずだったんだけど(なにせニセモノとはいえ、姓をかたらせてもらってるし)、下手に顔見知りを増やしても怖いということで、カイと宿でお留守番となったのだ。


「お祭はじめて!」

「そうだな。そのうち他の祭にも行こう。春の麦踏祭や夏の星読祭、秋の豊穣祭……たくさんあるぞ」

「たくさんだね」

「ああ。楽しいぞ」


 うん、たくさん連れてってね。たくさん思い出を作りたい。

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