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プロポーズのやり直しを希望します!

「……指輪」

「え?」

「指輪を買って。そして、もう一度今のをやり直して」


 ついでのようなプロポーズに腹を立てたわたしは、それでもその後の強い気持ちに心を動かされてしまっていた。うん、自分でも馬鹿だなーって思うんだけど、やっぱり……プロポーズは特別だ。されたら舞い上がるし、するならきちんとしてほしい。


 そう、今わたし浮かれてる。顔も真っ赤になってる。

 自分でもチョロすぎだと思うけど、なんかもうね、ぐだぐだ悩んでたのが一掃されちゃったよね。いろいろ悩んでたけど、ストンと覚悟が決まっちゃった。

 好きになったんだからどうしようもない。離れられないなら初めから選択肢なんてない。批難されても叱責されても、わたしはこの人と生きていきたい。


「帰ろう、カイ。ニーニヤでバルルークさん待ってるよ。ナザフィアに帰ろ?」

「ナギ……それじゃ」

「ナザフィアに戻ったらもう一度言ってね。待ってる」


 告げた途端、カイが感極まったように抱きしめてきた。


「わかった、帰ろう。そしたらすぐ贈る。どんなのがいいか? こういうのは疎くてな、サイズのこともあるし、一緒に見に行こう」


 むこうにいても、プロポーズされたらこんな感じなんだろうな。なんかぼうっとして、夢見心地というか、ちゃんと聞こえてたはずなのに、現実だと信じられないような気持ちでいる。

 マジか、マジかわたし。地獄から天国へ的なこの流れは、実は夢でしたー!とか言われても納得しそうだ。


 そのとき、扉が軽くノックされた。


「カイ? 話し声するけど、ナギちゃん起きたの?」


 サジさんだ。わたしは慌ててカイから身体を離そうとして……失敗した。カイが離してくれない。そうだった、この人意外と暴走するんだった。


「カイ!」


 抗議するように胸を叩くが、カイはどこ吹く風で知らん顔をしていた。


「入るわ……なにしてんのよカイ。ちょっとはアタシに配慮しなさいよ」

「悪い、ちょっと今は無理だ」

「無理ってなによ。……まぁいいわ。ローゼンの王宮保安隊が話がしたいそうなの。ナギちゃん、大丈夫そう? 無理ならアタシたちだけでカタつけちゃうけど」

「行くよ」


 途中聞いたことのない単語があったけど、多分話がしたいって言ってたから警察みたいな組織の人なんじゃないかな。そう思ってわたしは承諾した。思い出すのは怖いけど、どうなったかを知らないままじゃそっちの方が怖い。


「カイ、一緒にいてくれる?」

「もちろんだ。悪い、サジ通訳を頼めるか?」

「ナギちゃんのためなら。この部屋に通していいかしら? ナギちゃん横になってた方がいいんじゃない?」

「平気。起きるよ。着替えるから外で待ってて? カイも!」


 今更ながらパジャマがわりの服を着ていることに気づいた。

 服……そうだ、着てたのは破かれたんだった。思い出し、ぞっとした。許さん、あの犯罪者め! ハゲろ!


「あ」

「どうした?」

「お水ほしい。口ゆすぎたい。あと身体拭きたい」


 着替えさせられてるから多分身体は拭いてもらえてるんだろうけど、やっぱり気持ちが悪い。自分が許してもない相手に触られたりキスされたりするのは、本当に嫌悪感しかない。

 ぞわぞわする首筋を抑えていると、サジさんが頷いた。首筋を見て、カイが険しい顔をする。怖いです、相変わらず。


「今用意してもらうわ。保安隊の隊長さんは今ラズと話してるから、身体拭いてからでも平気よ。言っておくわね」

「ごめんね、ワガママ。よろしくお願い」


 サジさんが扉を閉めると、カイがすっと身を屈めた。首筋に触れる唇がくすぐったくて、熱い。


「他、どこ触られた」

「あ……」

「消毒。--あの男、本当に許さん」


 次々と触れる唇は、でも決して嫌なものではなかった。わたしがほしいキスはこの人のだけだ。

 熱く深いキスを受けながら、わたしはそう感じていた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 うがいと清拭をして、手持ちのワンピースに着替えると、だいぶ気分がよくなった。手短かに身だしなみを整えたわたしは、今二人の人物に謝罪を受けている。


『すまない、娘御よ。わしの部下が失礼極まりないことをした』

『兄上殿たちと婚約者殿にも申し訳なかった。ヤークトの人間として謝罪させてほしい』


 黒いローブを着たいかつい顔のおじさんと、青い制服を着たおじさ……お兄さん。


「ローブを着た方がヌェト・ヨークセントさんといって、あの男の上司で、魔法局の局長。こちらがナギちゃんを助けてくれた保安第五隊の隊長さんでノイエ・ユーグレナさん。二人ともアナタに悪いことをしたって謝ってるわ」


 サジさんが二人を紹介してくれた。たしかに二人とも頭を下げ続けている。


『フィスタールは今保安隊で尋問している。その後、魔法局で査問会議にかけられる予定だ』

『イェルクはお家再興のために出世欲が強くてな、常々どうにか魔法使いの後継を作りたいとは言っていたが、まさか見ず知らずの旅人のお嬢さんを攫うとは思わなんだ。怖い思いをさせて本当にすまない』

『少なくとも査問会議が終わり、罪が確定するまではフィスタールは外には出ない。責任を持って拘束するので、そこは安心してほしい』


 犯罪者が外に出ないと聞いて安心した。エリートとはいえ、性犯罪者だ。迂闊に放逐しないでいただきたい。わたしはナザフィアに帰るけど、他の被害者が出ないとも限らない。


「それにはどれくらいかかる? 相手は魔法使いだ。すぐ出てくるようでは、こちらは安心できない」


 わたしの手を握ったまま--そう、部屋からずっと繋いでいる--カイが詰め寄った。

 カイの懸念を通訳してもらうと、二人はさもありなんといったように頷く。


『尋問は数日だ』

『査問会議は半年ほどかかる。確約はできないが、内容が内容だ。多分減力か抑制の魔法陣と、移動制限の魔法陣を身体に刻むことになると思う』


 ノイエさんとヌェトさんが教えてくれる。

 つまり半年ちょっとで犯罪者は自由の身となるのか。ナザフィアにこないよう、強く念押ししとかないとダメだな。


「ナザフィアにはこないでね。会いたくない」

『ナザフィア大陸にはこないようにしてくれ。妹は会いたくないと言っている』


 わたしの言葉をラズさんが伝えてくれると、ノイエさんとヌェトさんはこくこくと頷いた。

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