一人部屋? 二人部屋? 四人部屋?
ローゼンに着いたのはお昼くらいだったけれど、わたしたちはまず宿を確保することにした。
「ミルテの友達の家がさ、宿屋らしいんだ。声かけててくれるって言ってたから、多分部屋は確保できてると思うんだけど」
先頭を切るラズさんが、メモを見ながら言う。
ミルテさんはローゼンの住人だったそうだ。王都に着いたときに別れたのだけど、そのときに宿の手配をしてくれると約束したらしい。
「宿に寄ったあと、お昼を食べましょ。で、今日は観光でもしましょうよ」
「観光って……」
「せっかく来たのよ? たまには息抜きしないと!」
サジさんの提案に、カイが呆れたような声を上げかけたが、即座に封じ込められている。うーん、これはわたしもちょっぴりサジさんに同意なので、強く言えない。ごめんね、カイ。
だって観光なんて初めてだ。ナザフィアでは常に追いかけられてた気分で、どこかに立ち寄るとか、ゆっくり観光するとかはしなかった。
ナザフィアではカイの実家に追われている自覚があったのでそんな悠長なことは望めなかったけれど、大陸を行き来する人などほとんどいないと聞くし、イセルルートに着いた今なら、少しだけ望んでもバチは当たらないだろうか。だってこの大陸では、わたしたちのことを知る人間なんていないんだもの。
「カイ、ちょびっと、ダメ?」
「行くか」
駄目元でお願いしてみると、カイは即決してくれた。頭にぽんとわたしの好きな掌が乗る。
「せっかく来たしな」
そう笑うカイに嬉しくなって、わたしは自然と笑顔になる。カイが眩しそうに目を細めた。
「そこ。二人の世界を作らないように」
「あはは、まぁいいじゃん。さ、行こうよ。オレ腹減ったわ」
ジト目のサジさんを引っ張るようにして、ラズさんが歩き出したので、わたしとカイは慌ててその後を追った。
※ ※ ※ ※ ※
ミルテさんのメモにあった宿は“ラティリア”という名前だった。訊くと花の名前らしい。
辞書を片手にサジさんが教えてくれる。
「銀色の花びらを持つ花らしいわね。英雄王セレンが好んだ花だそうよ」
銀の花とか、ファンタジーだね!
どんな花なのか気になったが、山間に咲く花らしいので、王都ではまず見れないらしい。ここじゃ見れないって、この国には花屋とかないのかな? それとも運搬が難しいんだろうか。
『いらっしゃい! あ、ミルテが言っていた人たちね?』
宿の入り口をくぐると、カウンターにいた女性が笑顔を浮かべた。栗色の髪を編んでぐるりと頭に巻きつけている。ナザフィアと同じ風習なら、既婚者なんだろうか。こちらの風習はわからないので、単なる身支度かもだけれど。
『こんにちは、お世話になるよ』
ラズさんが甘い笑顔を浮かべて話しかける。馬車のときもそうだったけれど、こういう交渉みたいなことは、サジさんではなくラズさんの担当らしかった。
『二人部屋二つでいいんですよね?』
『ああ……』
『三人部屋と一人部屋って空いてないのかしら? もしくは二人部屋と、一人部屋二つ』
ラズさんと宿の人が話していると、サジさんが割って入った。一体なんの話をしてるんだろう?
「二人部屋二つでいいだろが」
「ダメよ! ナギちゃん女の子なのよ!」
なにを話してるのかと思ったら、どうやら部屋割りについてのようだった。
たしかに一人部屋はゆっくりできるけど、無職のわたしに贅沢は許されないだろう。となると、二人部屋か、四人部屋か。
「あの、わたし、二人部屋平気よ。お金かかるから、一人じゃなくても、四人とか……」
「ダメ! どうしてもっていうなら、アタシが一緒に……」
「なんでだよ。おまえも男だろうが」
「だね〜。サジ、そこはお前遠慮しろよ」
三対一で、サジさんは劣勢だ。ぐぬぬ、と言葉に詰まるサジさんに、ラズさんがトドメを刺す。
「とにかく、ミルテが手配してくれてたのは二人部屋二つ。他に空いてるかもわからないし、ワガママ言うなよ? てことで、一つにオレたち、もう一つにカイとナギちゃん。いいな?」
「よくな……」
「い、い、な?」
笑顔で押し切ると、ラズさんはわたしの方を向く。
「ごめんね、ナギちゃん。サジはふんじばっとくから、心置きなくカイといちゃついて」
「いちゃ……!」
『すみませ〜ん! 部屋に案内お願いできますか?』
ラズさんはわたしの返答を聞くことなく、宿の人に案内を頼んだ。




