表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/122

まずは一杯いかがですか⁇

 入国手続きを済ませたわたしたちは、まずイセルルート大陸の最新地図を手に入れた。目指すのはヤークト国。“炎の魔法使い”エディ・マクレガーが活躍していたらしいローゼルト王国があった場所だ。


「馬車を乗り継ぐとして、一月……ってとこかしらね?」


 地図とにらめっこしていたサジさんがため息をこぼした。


「そんなにかかるの?」

「そうよう。カイとの旅はクロムちゃんに乗ってったから移動が早かっただろうけど、この人数は乗れないでしょ?」


 たしかに。いくらクロムの身体が大きいとは言え、大人が四人も乗れないよね。


 船旅になるとわかったとき、クロムは置いてってしまうのかと思ったんだけど、バルルークさんが連れてったほうがいいと助言してくれて一緒に行くことになった。

 なんでもサジさんとラズさんが同行できるのは一年が限度らしく(そりゃギルドのお仕事あるもんね、あの二人は)、一年が経ったら迎えの船がパルティアから来るそうだ。もしそれまでに調べ物が終わらなければ、わたしとカイはこちらに残ることもありえるため、わたしの護衛兼移動手段として連れて行ったほうがいいということだった。


「まあ、言葉の勉強をしつつ行けば、すぐにつくでしょ」


 ラズさんがにこやかに言い切った。う、ナザフィア共通語に加えて、イセルルート共通語も覚えるのか。こんがらがりそうでちょっと不安かも。


「大丈夫大丈夫、ナザフィア共通語と形式は似てるからさ」


 軽く言ってくれるけど、そのナザフィア共通語もおぼつかないんですけれど。

 でも、ここにきたのはわたしのためだ。わたしが覚えなくてどうする!


「がんばります!」

「あはは、やる気いっぱいだね! うん、手取り足取り、口移しで教えて……」

「普通に教えろ変態」


 一瞬にして迫ってきたラズさんを、カイが右手だけで封じる。ほっぺたを潰されたラズさんは、ふがふがもがいていた。


「痛い、痛いよカイ! お前の力でやられたら顔の形変わっちゃうだろ! イセルルートのお嬢さんたちがオレのこと待ってるんだから、顔はヤメて!」

「顔以外ならいいんだな? どこにするか?」

「しゅみましぇんでひた!」


 今度はほっぺたをつままれたラズさんは、即座に白旗をあげていた。カイ、遠慮なし。


「まずは宿をとって、これからの計画を立てましょ。無事に着いたことを祝って、今日は飲むわよ!」


 ふふふ、と忍び笑いをしながら、サジさんはわたしにウインクをした。ウインクが嫌味なく爽やかに決まるとか、スペック高いな。オネエだけど。


 ※ ※ ※ ※ ※


 その後わたしたちは“潮騒亭”という宿屋に部屋を取った。双子が一部屋、カイが一部屋、わたしが一部屋である。

 わたしたちがいるゼストという国は、幻獣ティガンこそ珍しいものの、騎獣チェナスという足の速いカバみたいな動物で移動するのが基本らしく(馬とかじゃないんだ!)、クロムは騎獣チェナス屋というところで預かってもらえることになった。カバと隣り合わせで座る虎とか、なんか不思議な光景だなぁ。


「さ〜あ飲むわよ!」


 そして今、わたしたちは宿屋の隣の酒場にいた。


「「これからの旅を祝して、かんぱ〜い!」」


 飲む前から陽気な双子が、お酒の入ったジョッキを掲げる。このジョッキ、もちろんわたしとカイの前にもある。


「ほら、ナギちゃんも! 大人だし、飲めるよね?」


 正直、お酒はほとんど飲んだことがなかった。入学当初に誘われて飲んで、翌日に友達に「二度と飲むな!」と怒られて以来、飲み会でも飲んだことがない。それこそお酒の好きなアヤちゃんと、アヤちゃんの部屋で二度飲んだきりかも。

 そういやアヤちゃんにも、「あたしと二人きりのとき以外は飲んじゃダメ!」ってお説教された気が……酒癖、悪いのかも、わたし。


 しかしながら、今更飲めないとは言いづらい空気である。少しくらいなら平気だろう。わたしはちょびっと口に含んでみた。雪で冷やされている琥珀色のお酒は、甘くて飲みやすい。蜂蜜みたいな味のお酒だったけど、飲みなれていないわたしには、なんのお酒に近い味なのかはわからなかった。梅酒? カクテル?


 あれ、そういえばカイ甘いの好きじゃないとか言ってなかったっけ? 飲めるのかな、これ。


「カイ、甘いのいいの?」

蜂蜜酒メルドか? 甘いが、まぁ飲めないことはないな。飲むなら麦古酒ヴィダ・エステルの方が好きだが」


 カイはジョッキに入っていた蜂蜜酒メルドを一気に呷った。

 それを聞いたラズさんが、すかさず店員さんを呼ぶ。


『お姉さん、こいつに麦古酒ヴィダ・エステル持ってきて! あと、オレにも麦酒エステルね!』

『じゃあアタシは葡萄酒ヴァンドを。あ、それに腸詰肉メッティも追加で』


 後学のために一口ずつもらうと、葡萄酒ヴァンドがワイン、麦酒エステルがビールっぽい感じだった。


「カイ、これ苦い……」

麦古酒ヴィダ・エステルは度数高いもんね〜。ナギちゃん、それザルの飲み物だからやめときなよ」


 渋い顔をしたわたしに、ラズさんがケラケラと笑った。

 カイは黙ってわたしが返したジョッキを口に運んでいる。お酒、強いんだ。


「ナギちゃん、それより腸詰肉メッティでも食べなさいな。お腹になにか入れとかないと、酔いが早いわよ」


 サジさんに勧められて、ソーセージを口にする。以前に買ったものとは違って、ハーブの香りがしない、スパイシーなソーセージだった。チョリソーみたいな感じ。辛いからお酒が進むのかな?


 蜂蜜酒メルドを飲みながらおつまみを食べる。こっちの世界に来てから初めてだなぁ、こういうのって。カイもなんだかリラックスしてる風だし、イセルルートに来てよかったのかも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ