はじめまして、川浪凪沙です!
納得したと同時に涙が出てきた。声を出そうとしたら、代わりにひぃっく、と喉が鳴る。息が詰まってうまく呼吸ができない。
いやだ、どうしよう? だって、ちょっと待ってほしい。わたしは単なる女子大生で、特に特技があるわけでもない。知識が豊富なわけでもない。言葉も通じない。この様子だと常識だって通じないだろう。友人たちから神経図太いとからかわれるわたしだって、さすがにこれは困る。
ここはどこ?
どうしてこんなことに?
どうやったら帰れるの?
いつ帰れるの?
いろんな疑問がうわーっと湧き出てきて、瞬間的にパニックになった。地面にぺたりと腰を下ろしたまま、子どものようにわたしは泣き続けた。
大泣きしはじめたわたしを見て、おっさんが明らかに怯んだのがわかった。厳つい容貌がへにゃりと崩れる。
「@、@#&$$%°! ○+°%! ^|##*、/#&&€!」
慌てて剣を引くおっさんに、虎もどきがジロリと流し目をやると、パタリとその腕に尻尾をぶつけた。まるで「泣かしたな」と言わんばかりだ。
虎もどきに前に押しやられたおっさんは、わたわたとわたしの前までやってきて地面に膝をついた。
「/#&&€、$、/#&&€!」
泣いている子どもをあやすかのように、おっさんは左手でわたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。大きな手。ふと額に触れたその手は、わたしとは違ってとても硬かった。
撫でられたことにびっくりして顔を上げると、おっさんと目が合った。おっさんは、わたしと目が合ったことにびっくりしたような表情をした。
そんなおっさんの様子に、わたしはまじまじと目の前の二人--というか一人と一匹か--を見つめた。慌てたせいか、さっきまでの警戒した色はもはやその顔にない。困り果てたような表情だ。虎もどきも、襲ってこないどころか、なんだかおっさんの保護者のような、よくわからない雰囲気を醸し出している。
--なんか、悪い人じゃなさそうかも。
そう思った。根拠はない。根拠はないが、こういった勘は、今まで外したことはなかった。
おっさんはよく見たら意外と若そうだった。三十そこそこくらい?
褐色の肌に、短く刈り上げた銀色の髪。不思議な金色の目。ザ・ファンタジーと言わんばかりのカラーリングである。
鈍色のシンプルな鎧をまとった身体は、鍛え上げられている。剥き出しの腕はわたしの二倍はありそうだ。
多分、きっと強い。そして多分悪い人ではない。
よし、ここはひとつ腹をくくろう!
わたしはごしごしと涙を拭った。腹をくくったからには行動あるのみ。泣いてたってどうにもならない。
これが夢であっても、夢でなくてもやることは同じだ。だってわたしは日常に帰りたい。わたしの世界にはわたしの帰りを待っていてくれるだろう人がいる。家族、友達。残念ながら恋人はいなかったけれど、みんなわたしを待っていてくれるはずだ。
この夢が醒めるまで、帰れる方法を探して足掻こう。そのためには。
「あの!」
「⁉︎」
いきなり泣いていたわたしが声を出したので驚いたのだろう、おっさん--いや、三十くらいならお兄さんか? 雰囲気的におっさんぽいけど--はびくっとなった。
「はじめまして! 川浪凪沙です! 強そうなお兄さん、助けてください!」
そのためには、味方が必要だよね!