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【挿話】守るべき人、守りたい人(1)

 迷い人のことを調べるために立ち寄った港町で、俺たちは厄介ごとに巻き込まれた。

 領主の娘と、その婚約者間での揉め事だったので早々に立ち去ろうとしたのだが、お人好しなナギが首を突っ込み、結果街から出られず軟禁される羽目になったのだ。


 元々内容的に関わり合いになりたくなかったのだが、その相手が何者かわかった時点で俺は領主の娘からナギを引き剥がそうとした。

 イザフォエールの領主。それは傭兵稼業をしている間に何度か噂に登った人物だった。そしてなにより、かの人物はこの世界では貴重とされる“魔法使い”だったのだ。

 彼は領主であり、魔法使いであるため、やりたい放題やっても誰も咎め立てできないという話だった。そんな奴がナギの存在を知ったら……想像するだに恐ろしい。


 本人が出てくる前に逃げ出さなくてはならないのだが、そんな婚約者から逃げ出したいお嬢様は、ナギを盾に俺たちを巻き込んでくれた。俺たち、というかターゲットは男である俺か。そりゃたしかに嫌だろうが、ワガママで人の都合を考えない所業に、頭が痛くなる。これだから貴族は嫌なんだ。


 ライナ・ハーウェルという名のお嬢様は、婚約者から逃げるために俺を使おうと、あれやこれやと絡んでくる。正直鬱陶しい。連れであり、女であることが気に入らないのか、ナギのことはとことん無視するのも腹立たしい。

 ナギは完全にとばっちりだった。なのにことあるごとに気にかけようとする。おまえな、こんな奴らの心配なんてしなくていいんだよ。貴族なんかと関わってもいいことなんてない。


 屋敷に強制連行された俺たちだったが、どうしても俺とナギを引き離したいお嬢様は、部屋を分けるだけではなく、物理的な距離もあけさせてきた。館の二階と三階に部屋を分けるとか、客にすることじゃねえだろ。

 ナギも見かけが幼いとはいえ、成人した女性だ。部屋は分けた方がいいのは重々承知していたが、もうその存在があの家にバレている今の状況で、側にいないのは不安だった。前みたいに目を離した瞬間に襲われる可能性だってあるのだ。

 以前の状況を思い出しかけて、俺は慌てて頭の隅に追いやった。イヤイヤイヤ、思い出すな俺。


 とにかく悩みに悩んだ末、俺はナギの部屋を訪ねた。

 しかし、悩んだ時間が馬鹿らしくなるくらい、ナギはあっけらかんと俺を部屋に通した。ナギ、おまえ、少しは警戒しろ。いや、別にそういうつもりは露ほどにもないんだが。

 挙句ベッドまで譲ろうとするので、ちょっとした小競り合いになった。クッションを抱きしめてあどけない顔でベッドを勧めてくるのは本当にやめてほしい。


 翌朝、俺は別の意味でナギの部屋に行ったことが功を奏したことを知った。


「カイ様、昨夜はどうして部屋にいなかったんですの!」


 お嬢様は顔をあわせるなり俺に詰め寄ってきた。いなかった……って、きたのか、部屋に。

 深窓の令嬢らしからぬ行動に呆れていると、お嬢様は矛先をナギに向けた。そしてナギの実年齢に驚いている。

 うん、たしかに驚くよな。こいつ、初見だと十二、三にしか見えないし。ただ、思考や行動は大人のものなので、そのギャップに驚くのも最初だけだ。意外と物事をよく見てるし、頭の回転も悪くない。言葉の読み違い以外ではよく空気も読むし、気も利かせるしな。


「まさか……まさかやっぱりそういう関係なんですの!?」


 しばらくナギに絡んでいたお嬢様が、おかしな方向に妄想を働かせはじめたので割って入ると、今度はこっちに絡んできた。

 ああ、心底めんどくせぇ。


 その後、お嬢様は領主と会えと言ってきた。娘が勝手にその力を振りかざしてるとはいえ、大元は領主の権力だ。こっちにねじ込んで門を開けさせた方が早いだろう。

 俺はそう判断して、お嬢様の要望を受け入れた。本人が嫌がっているということは、この婚約に乗り気なのは父親の方だ。ったく、馬鹿娘の手綱くらいちゃんと握っとけ。


 俺はイライラしたまま領主と対面する。普段いつ襲撃を受けてもいいように武装はしたままでいるのだが、無理矢理それを解かされたこともイライラの原因だ。魔法で作られた収納鞄へ、腹立ち紛れに乱暴に武器も防具も突っ込む。


 対面してみてわかったのだが、馬鹿娘の親は馬鹿親だった。人の話を聞かないところなどそっくりだ。

 それでもどうにか話を切り上げ、この街から出る算段をつけると、とうとう恐れていたことが起こった。


「だ、旦那様! ザルツェ・ウェリン様がお見えです! お嬢様を迎えに来たと……」


 イザフォエールの領主が現れたのは、執事が突然の来訪を告げるのと同時だった。


「やあ、我が花嫁殿におかれましては、ご機嫌麗しゅう! 今日も白薔薇のように可憐だね! 君が来ないので、わし自ら出迎えにきたぞ」

「あ、い、イヤ……カイ様!」

「誰だ、貴様は!」

「この騒ぎに巻き込まれた通りすがりのものです」

「その割には、ライナから親しく名前を呼ばれておるではないか! 貴様、我が婚約者に不埒な真似を……!」


 --馬鹿娘の親は馬鹿親だったが、婚約者も馬鹿だったようだ。なんで揃いに揃って人の話を聞かない!


「わたくし、昨夜はカイ様と過ごしましたの!」


 挙句、お嬢様がさらに燃料投下をする。悪質なその嘘に、場は騒然とした。

 そして、最悪なことにイザフォエールの領主は魔法を使い、ナギがそれを受け止めようと俺の前に飛び出てきた。


 幸い、攻撃はバルルークのじっちゃんの守護石によって阻まれたが、それがなかったらと思うと恐ろしい。

 ナギの浅慮な行動に文句を言おうとした、そのときだった。


「《開け、移動の陣よ》! こい! ライナ!」

「いやぁっ! カイ様!」


 婚約者から逃げようとしたお嬢様は、こちらに手を伸ばし--自分が逃げるためにナギを移動陣に押しやったのだった。

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