わたし、異世界トリップしちゃってます⁉︎
血まみれの剣を握ったおっさんは、訝しげな表情を浮かべてこちらを見た。警戒はされているようだけれど、丸腰なわたしを見て無害とでも判断したのか、漲っていた殺気が薄れたように感じる。いや、単なる願望かもだけど。
「$€*%°?」
虎に大丈夫だとでも言うように、空いてる左手で背後へ追いやると、おっさんは一歩わたしの方へ足を進める。まだ右手の剣はそのままなのが怖い。非常に怖い。今すぐやめていただきたい。
そんなわたしの心境はいざ知らず、おっさんはその剣の切っ先をこちらへ向けてきた。ありえない。わたしの夢のはずなのに全然都合よくいかない。
「%€☆、○*^|? $€*%°°¥☆⁉︎」
そのとき、わたしは気付いた。
--おっさんの言葉が、わからない。理解できない。
「嘘⁉︎ 普通ここは言葉通じる設定でないの⁉︎ 異世界トリップ物ってそこは融通効くもんでしょ⁉︎」
そう、普通は何故か言葉が通じる設定がセオリーなはず。たまにはそうでないものもあるけれど、夢でまでそんなしちめんどくさい設定はないような気がする。だって話が進まないもの。
ゾッと背中を冷たいものが駆け抜けた。
もしかしたら。
認めたくなくて現実逃避してたけど。まさか。
--これは、夢じゃ……ない⁇
「$€*%°°¥☆⁉︎」
呆然とするわたしに、おっさんは容赦なく剣とともに聞きなれない言葉を叩きつける。
琥珀色……いや金色? 見たことのない色彩の双眸がわたしを睨めつけた。鼻先に金臭いにおいが漂う。
--夢じゃ、ないんだ。
なんだかストンとそれは胸に落ちてきた。うん、なんか納得。だってボヤけてないもの。視覚に、聴覚に、嗅覚に訴えてくるこの景色はリアルだと思った方が頷ける。
えっと、わたし、冗談抜きに噂の異世界トリップしちゃってます⁇