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狼VS羊の皮を被った狼!

 司書さんは口元に笑みを浮かべている。が、前髪と眼鏡で表情が隠されているので、なにを考えているのかはわからなかった。

 司書としてはレファレンスなどで来館者の手伝いをするのは当たり前のことだが、先ほどのセリフのせいかストーキングされた感じがして、若干気分が悪い。艶のない亜麻色の髪が鬱陶しいので、まとめて思いっきりラブリーなシュシュかなにかで結んでやりたい。そしたら少しは明るくなるだろうに。

 不快だったのはカイもだったようで、眉間にしわを寄せた凶悪な顔でジロリと司書さんをねめつけた。少しは隠して、その殺気!


「手伝いは不要だ、と言ったはずだが?」


 カイの不機嫌オーラにも、司書さんは動じなかった。口元に笑みを浮かべたまま、身じろぎひとつしない。


「ああ、そうでしたね。いや、あまりにも暇で」


 司書にあるまじきことをサラリと公言し、司書さんは笑みを深くした。ダメだ、なんかこの人話が通じなさそうで怖い。


「俺はディルスクェア家とは縁が切れている。媚を売っても無駄だ」

「そういえば本家の次男坊が出奔したともっぱらの噂でしたね」


 飄々と話す司書さんの言葉に、カイが唸るように低い声を出した。怖い、怖いよカイ!


「……貴様、何者だ」

「いえ、しがない街の司書ですよ。ハージナル・アゼレートと申します」


 カイが警戒心を剥き出しにするのとは反対に、司書さんは一切態度が変わらなかった。なんか野生の狼ともっさりした羊が対決してるような絵面だけど、羊が負けてない。狼が怖いのは仕様だけど、思いの外羊怖い。むしろこの場合、対決相手は羊の皮を被った狼で、ビビってるわたしのほうが羊だった。


「お目当ての本が見つかりましたなら僥倖ですね。……そうそう、“治癒師”エレアノーラならこちらの本にも記載がありますよ。どうぞ閲覧ください」


 手にした本をわたしに渡すと、司書さんはカウンターへ戻っていった。あの人“エレアノーラ”って言ってたけど、わたしたちの話を立ち聞きしてたんだろうか。小さな声だったのに。

 得体の知れないものに触れたように、わたしはゾッとした。


 カイは渡された本をパラパラとめくり、内容を確認すると無言で閉じた。そのままカウンターへ向かう。え、すみません、わたしあの人と対峙したくないんですけど。

 わたしはカイの広い背中に隠れるようにして入り口へ向かった。


「知りたい情報はありましたか? よろしければまたのご利用をお待ちしてますよ、カイアザールさん」


 無言で本を突き返すカイに、羊の皮を被った狼は、あくまでもにこやかに、でもなにかを含んだような声音で返事をした。


「カイ……」


 無性に不安になって、カイの顔を見上げると、カイは眉間にしわを刻んだまま、わたしの頭をわしゃわしゃと掻き混ぜた。

 頭をなでられつつ思う。あの司書さんにはもう会いたくない。わたしは異世界にきて初めて、苦手な人と遭った。

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