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偽名コンビ、図書館に行く!

 わたしたち偽名コンビは、まず腹ごしらえをすることにした。お店の選定もメニューの選定もカイまかせだ。よろしくお願いしまーす!


「カイ、よろしく頼む」

「そんじゃ名物料理でも食うか」

「名物料理、食べよう」


 名物料理とかいうメニューを頼む。しばらくして出てきたのは野菜と一緒に炒められた大きなミートボールだった。クリームソースがかけられ、マッシュポテトが添えられている。なんだか昔アヤちゃん家で食べたショットブッラールみたいな見た目だ。


「おいしい〜」

「昔イセルルートから伝わったとかいう料理だが、今のナザフィアでは家庭でもよく食べる定番料理だ」


 ミートボールを頬張りつつ、欲しい調味料を考える。この料理からして、胡椒は必ずあるはずだ。ひき肉、もしくはミートチョッパーなんかもあるのかな。まあなきゃ包丁で刻めばいいか。ナツメグもあるといいな。そしたら卵と牛乳を用意すればハンバーグがたべれる。


[あー、でも冷蔵庫がないから生物はマズイか]

「なんだ?」


 ハンバーグに思いを馳せていたが、生物を持ち歩けないことに気づき、がっかりする。


[ミートボールがあるなら、ハンバーグもあったりする?]

「ファン・バーグ?」

[えっとね、このミートボールのおっきいやつ]


 説明したが、ハンバーグは存在しないらしい。なんてことだ。ないと思うと食べたくなる。いつか再現してやるから、待ってろハンバーグ!

 まずは携帯できる胡椒の購入からかな。用事が終わったら買い出しに連れて行ってもらおう。

 ちらりとジョッキを傾けるカイを見る。この世界はあまりガラスや瀬戸物が少ないみたいで、ジョッキは錫か木、食器は木製が多かった。グラスはなさそうで、わたしも持ち手のついたジョッキでお水を飲む。ぬるい。氷もあんまりないのかなぁ。あちらの世界の便利さを改めて感じる瞬間だ。


 食事を終えると、カイはわたしを連れて街の奥、立派な建物がある方へ向かった。何旒かの旗がはためいているが、なんだろう? お城にしては簡素だしなぁ。

 疑問に思いながら中に入ると、石造りのそこは、どうやら図書館だったらしい。埃っぽい独特の臭いがした。


「図書館……」


 異世界の図書館の雰囲気は、あちらの世界と変わらなかった。どこも図書館という場所は、静けさを要求されるようだった。

 わたしはすべての壁を覆い尽くす書棚と、それから溢れんばかりにぎっちり収納された書籍に目を奪われた。ああ、文字が読めれば手当たり次第読むのに! よし、勉強頑張ろう。


 わたしが決意も新たにしている間に、カイが入り口のカウンターに座る司書へ二人分の身分証を提示する。うつむいていた司書さんが、厚い前髪の奥の眼鏡を押し上げた。カードとわたしたちを一瞥して、もごもごとくぐもった声で告げる。


「……ディルスクェア。ああ、あの一族の方ですか。なにかお探しの書籍はございますか?」


 本名を呼ばれたカイは、ちょっと怯んだようだった。カイ、もしくはお家かな? どちらかが有名なのだろうか。本名隠してるし、あまり触れられたくないんだろうな。偽名を使う人はなにかを隠したくて使ってるんだし。


「いや、自分で探すので構わない」


 微妙に嫌そうに宣言すると、カイはつかつかと奥の方へ進んで行った。カイは背が高いのもあって、歩幅が広い。普通に歩いては追いつけないので、わたしは小走りで追いかける。


 カイが探している本はなかなか見つからなかった。文字が読めないわたしは戦力にはならず、おたおたとカイの後をついてまわった。い、いたたまれない……。


「あった」

「あった?」


 ようやくお目当ての本に行き当たったようで、カイは一冊の古びた本を引き出すと、閲覧コーナーへ足を進めた。革表紙のそれは、なんだか重厚だ。なんの本だろう。


「過去の“時空の迷い人”についての記述があるだろう本だ。ラクトピアの内乱について書かれている。“治癒師”エレアノーラはラクトピアの内乱で活躍した迷い人だからな」

「ラクトピア内乱?」

「このパルティアの西にある国だ。エレアノーラは内乱で傷ついた人々を癒したとして名高い」


 ページをペラリとめくりながらカイが言う。


「エレアノーラの戦後の記述はあんまりないな」


 眉間にしわを寄せながら、カイが小さな声で呟いた。聞き取りづらかったので、カイに顔を寄せる。


「……うん、ああ、ここだ。“治癒師エレアノーラは、戦乱がおさまるとナリス・フィーゴに嫁いだ。そして三男四女に恵まれ、幸せな人生を送ったという”ーーこれだけじゃあまりわからないな」

「これだけじゃあまりわからないな?」


 カイはその部分を指で示してくれた。そこには綺麗に揃った活字が並んでいた。活字があるということは、印刷技術は発達してるんだね。蔵書量多そうだし、それもそうかな。インクがかすれたりしてるから、そこまで高い技術でもないのかもだけど。

 わたしがひっつき虫と化して指を目で追っていると、カイが口元だけで笑った。


「“治癒師”エレアノーラ。戦乱、おさまる、ナリス・フィーゴ、嫁いだ」


 ゆっくり単語を指し、小さな声で読み上げてくれる。あ、勉強に付き合ってくれるんだね!

 わたしは嬉しくなった。


「探し物はありましたか?」


 不意に声がかけられて、ビクッとなる。振り向くと、そこにはさっきの司書さんが、本を抱えて立っていた。

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