学問の街・ホースクル!
太陽の光で目が醒めると、わたしはもふもふに包まれていた。寝てる間にクロムが包んでくれていたようだ。おかげで地面に直寝だったのに、そう身体は痛くない。
「おはよう、ありがとうクロム」
クロムにぎゅっと抱きつくと、くぅ、と甘えた声を出してくれた。あー癒やされる。
「起きたのか?」
「おはよう、カイ!」
クロムに抱きついてもふもふを堪能していると、カイがやってきた。手にまたブロック肉を持っている。……朝食か。朝食用ですかその肉。朝から肉食とはガッツリ系ですね。
あ、ちなみに昨日のお肉は、ほぼカイとクロムによって消費されました。クロムが生肉を頬張る様はまさに虎さんでした。まる。
「おはよう、ナギ。よく寝れたか? 野宿だったが、平気だったか?」
「そうだ!」
「あーっと、はい? いいえ?」
「はい! クロム頼む、ありがとう!」
首の動きと一緒に教えてくれたので、“はい”と“いいえ”だとすぐにわかった。最初クロムを指していたので、多分その前は“よく寝れたか”か“寝心地は悪くなかったか”かあたりかと思うから、とりあえずジェスチャーつきでよく寝れたことをアピールする。クロムベッドはあったかくてやわらかくて最高でしたよ!
「準備ができたらまた飛ぶ。行き先はホースクルだ」
「準備……行き先、行くぞ?」
「ホースクル。学問の街だ。パルティアで一番大きな図書館がある。そこで迷い人の話を調べる」
「ホースクル。学問の街。図書館調べる」
「そうだ。過去に帰った迷い人がいるなら、帰り方もわかるかもしれない」
ホースクルだか図書館だかというところに行くようだ。猫の次は馬か。いや、ニーニヤみたいに聞き間違いの可能性もあるかも。
とりあえずわたしはカイからお肉を受け取り、朝ごはんの制作に取りかかった。岩塩とローズマリー……もといイグゼを擦り込み、削ぎ切りにして焼く。それを生で食べられるらしい野草とともにパンに挟んで、簡単なサンドイッチにした。……調味料不足が嘆かれるところだ。目的地についたら調味料をねだろう。おいしいごはんは正義だ。
[いただきまーす]
カイとわたしはサンドイッチ、クロムは生肉を食べ、湧き水で顔や手を洗ったら出発だった。お化粧はもともとしないが、リップクリームと日焼け止めだけは塗っておく。……なくなったら焼けるに任せるしかないな。黒くならずに赤く焼けるタチなので、火傷が心配だけど。
昨日のようにクロムにしがみつき、飛ぶ。もちろんスカートの中が見えるような暴挙はもう起こさない。わたしは学習する子だ。
ホースクルという街はさほど遠くないところにあったようで、お昼すぎくらいには到着した。
[ほえぇ〜]
ニーニヤの街とまた違う、堅牢な塀がぐるりと囲んでいる門の前で、わたしは入り口を仰ぎ見た。紺を基調とした旗が、青空にはためいている。
何人か先客がいたので、列に並んで待つ。開店待ちみたいでワクワクした。どんなところだろう。
「カイアザール・ディルスクェアにナギ・ゼウェカ。問題はないな、ようこそホースクルへ」
「?」
カイが門番さんにカードを二枚出すと、門番さんはまじまじとカードをチェックし、通してくれた。
でも、今“ナギ・ゼウェカ”って言ったよね? 名前違うんだけど。
「……街の出入りには身分証が必要だ。ギルマスのじっちゃんに作成を頼んどいたんだが……あの人おまえの名前に自分の姓をおっかぶせてきたんだな。アゼルナート風だが、たしかにまだこの方が怪しまれずにすむ」
「ギルマス……バルルークさん?」
カイが金属製のカードを見せてくれた。どうやら青いのがカイの、赤い方がわたしのカードらしい。で、異世界人であることを隠すためにバルルークさんが名前を貸してくれたらしかった。
[異世界人ってバレちゃダメなんだね……]
わたしの名前でカードが作られなかったということは、多分そういうことだろう。偽名を使っているようで落ち着かない。てか、まさに偽名だし、“ナギ・ゼウェカ”って。……偽名。そういやカイの名前もなんか違った。
「あ! カイ、カイこれいいえ?」
「あ? いいえ? ……あー、もしかして俺の名か? あー、うん、そうだな、本名はカイアザールのほうだ。長いから使ってないがな」
バツが悪そうに鼻の頭を掻きながら、カイが答えた。……どうもこの人も偽名を使っていたらしい。この世界では普通のことなんだろうか。
なんだか腑に落ちない気分のまま、わたしはカイに連れられて門をくぐった。




