カイの料理は壊滅的⁉︎
わたしとカイを乗せたクロムは、空高く滑空していた。ケープがあってもちょっと肌寒いので、カイの体温があったかい。鎧の部分はちょっと硬いけど。
[ひ〜! す、スカートめくれるぅ〜〜‼︎]
「ちょ、ちょっと待て! いや、あの!」
なんてことでしょう。スカート穿いてたらそりゃめくれるよね! 久しぶりで忘れてた! そして押さえたくても押さえられない! クロムにつかまってるからね!
慌てたのはわたしだけではない。背後のカイもとっさにスカートを押さえようとして、でも場所が場所だけにためらわれたようだ。あわあわした感じで声を上げる。
「俺がおまえを押さえるから、裾を押さえとけ!」
カイがなにか叫んでわたしを支える腕に力を込めた。あれか、シートベルト発動か。かなり怖いけど、カイとクロムを信じて、一瞬手を離して裾を脚の下に巻き込む。
「カイ! [できた!] ありがとう!」
「そ、そうか……」
スカートじゃなくてパンツ系の服が欲しい。せめてレギンス。今心底そう思った。あとで元の服をワンピの下に穿いとこう。
そんな感じで旅立ち直後はゴタついたが、その後は順調に進んだ。空から見る地上はなかなか壮観だ。高い建物がないせいか、とことん見晴らしがいい。雲の影が流れる草原なんてなかなか見れないと思う。
クロムはしばらく飛んでいた。この速さから考えると、だいぶ遠くまできてそうだ。
「そろそろ昼だ。休憩するぞ」
カイが空を仰いでなにかを判断する。太陽が真上にきてるから、お昼って言ったのかな? いや、単なる願望でもあるんだけど。
すい、とクロムが高度を落として地上に降りる。そこはずいぶんと開けた場所だった。近くに泉がある。
カイはへろへろしているわたしの肩を押して岩に座らせると、薪を集めだした。立って手伝おうとしたが、膝が笑っているのを見て、やっぱり座らせられる。すみません。
カイが集めた薪に、なんとクロムが火をつけた。ふっと息を吐いたら火が出るとかすごい。
わたしが感心してると、カイはテキパキと料理を始めた。泉の水を汲み、火にかける。鍋に干し肉の塊を入れると、パンを枝に刺して焚き火から少し離れたところに刺してあぶり出した。
「できたぞ」
「おいしそう! [いただきます!]」
泉で手を洗っていると、カイが器に入れたスープと、枝に刺したままのパンを渡してくれた。手をぬぐって、わたしは手を合わせて有難くいただく。スプーンでスープを口に……て、え⁇
[味がしない……]
スープはなんの味もしなかった。干し肉の塊が入ったお湯。まさにそれだった。干し肉から塩味や旨味が出てるかと思いきや、それも皆無。ていうか干し肉固いし。そうか、煮えてないから固いし味もスープに溶け出てないんだ。
「すまんな、俺は料理は苦手なんだ」
マズそうな顔はしていなかったと思うが、器から口を離して中を覗いたのがいけなかったのだろう。カイが申し訳なさそうに頭を掻いた。
[お塩とか野菜とかないですか?]
せめて塩味がほしい。鞄を指すと、中から食材や調味料を入れた袋を取り出してくれた。中には岩塩、干し肉、パンが出てきた。以上……以上⁉︎ 野菜とか胡椒とか、ないの⁇
とりあえず岩塩を取り出す。あとナイフとカッティングボード。パンを刺してた枝で干し肉を取り出す。とりあえず塊のままだと味も溶け出しにくいような気がしたので細かく刻む。その方が早く柔らかくなりそうだし。
「カイ、これ、食べよう?」
「食べれる草が欲しいのか? 野菜? そうだな、これとかは食用になったはずだ」
ネギみたいな草が手近にあったので、食べれるかどうか確認する。するとカイは食べれるらしい草やキノコを探してきてくれた。近場に森もないのにこのキノコ、どこに生えてたの? 土もついてないし。気になったが食べれるならどうでもいい。
洗った草とキノコも、刻んで鍋に入れる。干し肉がほぐれたところで、一度味見してから岩塩を少し削って味を整えた。急ごしらえだけど、さっきのお湯よりは断然マシだ。ちゃんと味がする。
勝手ながらリメイクさせてもらったスープを一口飲み、カイがしみじみと呟く。
「同じ料理とは思えんなぁ……うまい」
噛みしめるように味わってるところを見るに、スープは口にあったようだ。
わたしは最初の独創的なスープに思いを馳せながら昼食を食べた。……夕食も自炊なら、最初からやらせてもらおう。




