やっぱり夢ではありませんでした!
窓から差し込む陽の光で目が醒めた。今何時だろう。時計代わりのスマホを探そうと枕元に手をやって気づいた。見慣れた天井がない。ここはどこだ。
[……っ!]
一瞬にして正気に返る。どうやら昨日の出来事は夢ではなかったらしい。あのあとさらに着替えた寝間着代わりのシャツの胸元を握りしめ、ため息をひとつつく。
[やっぱり、現実かぁ……]
万に一つの“夢でした!”というオチはありえなかったようだ。
現実ならば仕方がない。頑張るだけだ。幸い、努力するのは嫌いではない。
[目標は帰ること。そのためには情報収集が必要よね。で、やっぱりまずは言葉を覚えるのが先決か]
自分がやるべきことを改めて確認する。よぉっし、今日も頑張るぞ!
決意も新たに、わたしは昨夜メルルさんに教わった通りに身支度を整えた。
「カーイー」
「おう、おはよう」
「おはよう!」
カイと合流し、食堂へ行く。そうだ、お金のこと、今訊いておかねば!
[あのね、宿泊代と洋服代、立て替えてくれてるでしょ? 返したいのでお仕事紹介してください]
身振り手振りでお金を稼ぎたい旨を伝える。伝わるかなー。
必死でジェスチャーしていると、ようやくわかってもらえたようだ。まさにジェスチャーゲーム。意外と難しい。
「お金? ん? あぁ、代金のこと気にしてるのか。気にすんな、金にはさして困らん」
カイは手をひらひらとさせた。えー、紹介してくれないの? 仕事ないと不安なんですが。これからどうしたらいいの、わたし⁇
「そんなことより、これからギルドに行くぞ」
「ギルド?」
「そうだ、練習室をちょっと借りようと思ってな」
おお、どうやらギルドに行くらしい。ギルドって仕事斡旋してくれるのかな。お願いしてみよう。昨日のおじいちゃんとか偉い立場っぽいし。
「とりあえず飯だな、飯。姐さん、よろしく頼む」
「よろしく頼む!」
カイが手をあげると、メルルさんがお盆を持って近寄ってきた。見ると、ハムとチーズが挟んであるサンドイッチみたいなのと、サラダが乗っている。
「おいしい!」
「おいしそう、だな」
「メルルさん、おいしそう!」
「ありがとね、うちの人もそう言ってもらえると喜ぶよ」
カイに教わりつつ褒めると、メルルさんはニコニコ素敵な笑顔を返してくれた。
[いただきまーす]
地道に言葉数を増やしつつ、朝食にありつく。残念なことに“いただきます”に相当する言葉がないのか、はたまたカイにその習慣がないのか、ごはん食べるときの挨拶は覚えられなかったが、“おはよう”と“おいしそう”は覚えたぞ。身振り手振りとリスニングだけでも、意外とイケるじゃん、わたし!
ご機嫌でサンドイッチを頬張る。チーズもハムも、日本のよりもっと濃い味がした。サラダも野菜がシャキシャキしてておいしい。惜しむらくはドレッシングがないことか。サンドイッチもマヨネーズとかあるとよさそうだけど、そういうのないのかな。せめてパンにバター塗ればおいしさアップだろうに、返す返すも残念である。
「おいしい!」
「よかったな」
誰かと会話しながらおいしい食べものを食べるとか、最高!
異世界二日目のはじめは、ご機嫌に始まった。
……我ながら図太いな。




