玄関を開けると、そこは異世界でした!
玄関を開けたら、そこは異世界だった。
いや、なにを言っているかわからないかもしれないが、大丈夫、わたしにもわからない。
今朝、いつも通りに起き、いつも通りに準備をし、いつも通りの時間に大学へ行こうと自宅の玄関を開けたはずなのだが、いかんせん目の前に広がる世界がいつも通りではなかった、という。
「えっと、ちょっと待って。ちょ、コレどういうこと⁉︎」
独り暮らしのアパートのドアの外は、無機質なコンクリの廊下とおむかいさんのドアが見えたはず。右手には階段。
それなのに今わたしの目の前に広がるのは鬱蒼とした森。人工的に手入れされたそれではなく、自然のままの非常に歩きづらそうな森である。
慌ててわたしはうしろを振り返った。まだドアを閉めていないそこには、住み慣れたわたしの部屋があるはずだった。あるはずだった、のに……
「……どういうこと⁉︎」
そこにあったのは、目の前に広がるのと同じ、広大な森であった。
生い茂った木々はさほど光を通さず、あたりは薄暗い。風がないせいか、遠くから鳥の声が聞こえる他に音もしない。湿っぽい空気。落ち葉でやわらかい足元。苔むした木の根は太く四方八方に這い、聳え立つ幹はひたすらに高い。
森林浴などと洒落込むには適さない森に、わたしは思わず息を呑んだ。
「えっと、うん、コレは夢だね! そう、そうに違いない!」
夢でなければなんだというんだ。夢以外のなにものでもない。最近流行りの異世界なんとか的な夢だ。夢ならば醒めるはず。
わたしはギュッと目をつぶると、深呼吸をした。いち、にぃ、さん。
パッと目を開ける。が、自体はなんら変わりがなかった。視界に映るのは森のままだ。
「……無理か」
夢とはいえ、そううまくはいかないようだ。
「仕方ない、朝になるまで待つか」
わたしは諦めた。
諦めたわたしは、自分の装備を確かめることにした。夢なのだ、なんでもありに違いない。なにが起きるにしろ、情報収集と状況把握は大切だ。
半袖のカットソーにエアコン対策のカーディガン。ロールアップしたパンツに、履きなれたスニーカー。お気に入りのカバンの中には教科書とノート、筆記用具。ポーチ。スマホ。お財布と定期。読みかけの本。
「よかった、飲み物と食べ物はあるね」
お茶を詰めた水筒と、朝作ったお弁当、それに少しのお菓子があった。
「なんか、思ったよりいつも通りな内容……」
夢ならもっとこう、便利な持ち物はないものか。教科書とかいらんから、虫除けとか、武器とか。
わたしはため息とともにカバンを閉めると、カーディガンの袖を伸ばし、ロールアップした裾を戻した。虫除けがない以上、この森を歩くには肌の露出は避けたほうが賢明だ。怪我防止にもなるし。
「さて、歩くか!」
持ち物確認のあとは、探索よね。
わたしは伸びをひとつすると、現在地に足元にあった長い枝を刺して目標にし、歩き出した。