わたしの現在地!
しんみりした空気のまま、食事は終わった。基本食事は楽しくにぎやかに食べたい派だが、今回はその気力が湧かなかった。
「地図、見るか?」
「地図?」
お通夜みたいな重い空気を一掃しようとしてか、カイが明るい声を出した。クロムにつけていたカバンからガサガサと折りたたまれた紙を出してくる。
それは地図だった。使い込まれていて、紙の表面は毛羽だっている。
「この世界は大陸がふたつあって、イセルルートとナザフィアという。こっちがイセルルート。こっちがナザフィアだ。ナギと俺が今いるのはここ、パルティア王国。ナザフィア大陸の東側にある」
カイは地図に大きく書かれた文字を指していく。
カイの説明と地図を照らし合わせた結果によると、この世界は二つの大陸で構成されており、そのうちイセルルートという名の大陸には、アゼルナート、ゼスト、ヤークト、スティルトの四つの国が、ナザフィアという大陸には、パルティア、ラクトピア、マナツィアの三国があるらしい。
そして今いるここは、ナザフィア大陸のパルティアという国だそうだ。
忘れないようにノートに記入していくと、カイがこれまた物珍しそうに覗き込んできた。ノートのツルツルした紙を撫でて驚いてるとこを見ると、あまりこっちの製紙技術はよろしくないのだろう。
[これはノートだよ。授業で使ってたの]
[ノート]
なんの気なしにカイに説明したら、聞きなれた日本語が返ってきた。驚いて顔を上げると、カイが笑った。
「そういう風にいうんだな、ナギの国では。では“ノート”に書き込んでいるこれはなんというんだ?」
穏やかに笑ったまま、シャーペンを指差してカイが訊く。
胸がギュッとなった。わたしがこちらの言葉を覚えようと四苦八苦しているのを見ていたカイは、ただ言葉を教えてくれたり面倒をみてくれるだけではなく、故郷を恋しがるわたしを慰めるため、同じようにわたしの国の言葉を覚えてくれた。
[シャーペン、だよ。こうやって中に芯を入れて使うの]
[シャーペン]
--初めて会った人がこの人でよかった。
涙を堪えたら、喉が締め付けられるみたいに痛かった。でも泣かない。泣きたくない。だって嬉しいのに泣くなんて嫌だ。嬉しいなら、わたしは笑いたい。
[ありがと]
ぎこちないわたしの笑顔に、カイの笑顔が深くなった。
お父さん、お母さん、お姉ちゃん。わたしは今、異世界にいます。お父さんは一人暮らしは許したけど、そんなの許した覚えはありません!って怒りそうだよね。帰ったらお母さんのお味噌汁飲みたいな。お姉ちゃん、またあのお店に一緒に紅茶買いに行こう。
アヤちゃん。アヤちゃんの好きなファンタジーだよ。竜もいるかもだね。帰ってからパジャマパーティーしてたくさん話そう。たくさんお土産話用意するよ。
--その日まで、わたし、頑張ります。ここで。
大丈夫、きっと帰るよ。この優しい人がいてくれるから、きっと、大丈夫。




