闖入者はおかしな双子でした!
入ってきたのは双子のおっさんだった。鏡で映したかのように見た目も行動も同じだった。
「「女の子がきてるんだって⁉︎」ですって⁉︎」
……ん、なんか微妙に語尾が違った。同じ声だからか、ハモって聞こえる不思議。
「うお、女の子〜!」
「やぁだ、カワイイ〜!」
こちらを見てテンションアップするおっさん双子。あれ、なんか反応が違う。なんか片方だけ……仕草がオネエっぽい。内股で悶えてるし。顔立ちも服装も同じだから、差異が異様に目につくコンビだ。
呆気に取られてると、双子はわたしの両手を握ってきた。
「カワイイねぇ、キミ。この濡れたような黒髪も、夜空のようなその瞳も素敵だね。オジサンといいことしない⁇」
オネエっぽくない方がなんか熱っぽく話しかけてきた。顎に手をかけられたところで我に返る。
[ちょ、やめてください!]
「あれ、この大陸の子じゃないの⁇ それもまた一興。オジサン燃えてきちゃうよ!」
「バカモン! 客人に手を出すでないぞ、ラズ‼︎」
握られた手を振りほどく前におじいちゃんが叱ってくれた。隣にいたカイが背中に隠すようにわたしの前に出る。背の高いカイが前に出ると、わたしの視界はカイの背中で埋まった。好奇心でぴょこりと頭だけ覗かせて、双子を観察する。
双子は、カイより年上のようだった。一つくくりにした蜂蜜色の長い髪に、青い目。笑うと目尻にシワが寄るけれど、それもまた魅力にするような甘い顔立ちの人だ。
「出たな女好き。失せろ、ナギに近づくな」
「あれ、カイひさしぶり〜。なにこの子、お前の子?」
絡んできた方とカイはお友達なのかな。なんかカイの声が若干イヤそうだけど、双子はめちゃくちゃ嬉しそうだ。
「んなわけあるか。預かりモンだ」
「え、彼女⁇ お前もサジと同じく幼女好き⁇ 初耳だわー。引くわー」
「相変わらずねぇ、ラズ。カイ、ひさしぶりね。一年ぶりくらい?」
片割れがカイと親交を深めていると、もう片割れであるオネエっぽい方が割って入った。おっさんがシナを作ってる様に、内心ちょっと引く。
「……サジは思ったよりおとなしいのな」
「え? ああこの子に対して? うん、遠目ではちっちゃい子!って反応したけどねぇ、近くで見ると全然幼女じゃないし。カワイイけど、対象外だわ〜」
オネエは残念そうにため息をつくと、わたしの目線まで身体を屈めた。双子もカイまでとは言わないが、背が高い。背が高い三人に囲まれて圧迫感があったのだが、それが少し薄まった。
「はじめまして、可愛らしいお嬢さん。アタシはサジエール・ゼウェカ。こっちはラズウェル。見ての通り双子よ」
「ナギ、こいつはサジだ。サ、ジ。で、こっちがラズ」
「サジ」
オネエは“サジ”って名前っぽかった。で、もう一人が“ラズ”なのかな? カイがそれぞれ指をさして教えてくれたのでどうにか把握する。
[川浪凪沙です。はじめまして]
「ナギちゃんね。いやぁ、幼女じゃないのがざんねーん! んん? でも成人してこの可愛さっていうのも貴重かしら⁇ どう? アタシとデートしてみない⁇」
オネエ--サジはパチンとウインクしてみせた。すごい、睫毛も蜂蜜色だ。
なんだか人当たりがよくいい人そうなオネエにわたしがほだされかけていると、双子をカイが押しのけた。
「やっぱりおまえもそっちにいくのかよ! ……て、待て、今なんつった⁇ ナギが成人してる⁇」
「そうよぉ。ホント残念。どう見ても成人してるわよ。わかんないの?」
「わかるか変態。てかナギ、おまえ十二、三じゃないのか⁇」
慌ててカイがわたしの肩に手をかけた。な、なに? なんでしょう⁇
「そっか〜、ナギちゃんは成人してるのか! いいね、成人してるなら範囲内だね! オレはラズウェル。ラズって呼んで! で、改めてオレといいことしようよ。たしかにちょっと見た目が若すぎるけど、まあたまにはロリ気分も悪く……いやちょっとタンマ! カイ、お前の力で胸ぐら掴まれたらマジ首絞まる……!」
「こんの、変態双子が!」
カイとラズはとても仲良しのようだった。クラスの男子のやり取りを思い出すようなじゃれっぷりだ。
「ラズ、サジ、いい加減にせんか! カイ、ナギさん、すまんなうちの馬鹿息子が」
カイがラズの首を絞めていると、おじいちゃんが二人を止めた。鶴の一声で三人が止まる。
「……とりあえず、今日は宿に戻る。なにかわかったら連絡をくれ」
「宿は“黒猫亭”かの。追って連絡を入れさせてもらうぞ」
ラズの襟首から手を離したカイは、疲れたようにため息をひとつついた。