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【挿話】拾った責任は最後まで

 森でナギを拾ったものの、言葉が通じないというのはいろいろ大変だった。なにせまだ未成年だ。さらわれたなら親元に返してやりたいし、万が一売られたならそれなりの場所を確保してやりたい。今は特に依頼に追われているわけでもなく、時間は腐るほどある。今回も馴染みのギルドから頼まれたから引き受けたような依頼だったのだ。


 クロムの背に跨りながらナギの小さな頭を見下ろす。華奢な肩、細い手。誰かの守りがなければ途端に失われてしまいそうだ。

 さらさらの髪から花のような果実のような甘い香りが漂ってきてドキリとした。容貌は幼いが、たまに大人めいていて焦る。色彩のせいだろうか。象牙の肌に黒目黒髪というのは、いないわけではないがこの大陸では珍しかった。


 とりあえずニーニヤのギルドへ行き、ギルマスのじっちゃんに助力を請おう。あの人はイセルルート大陸で一番権勢を誇る、アゼルナート帝国の出身と聞く。イセルルート共通語は堪能だし、老齢を理由に今はほとんど実戦には出ないが、本人も強い魔法使いだ。ギルド同士の人脈も伝手もあるだろう。


 俺はナギを連れて職業ギルドを訪れた。

 顔見知りの職員に呼び出してもらってギルマスにナギを会わせる。


 ……予定ではこれで多少ナギの身元がわかるはずだった。


 ナザフィアとイセルルート、それぞれの大陸に位置する国々は、個々のクセはあるものの、その基本となる言語は同じで、「共通語」と呼ばれている。ナギはナザフィア共通語が通じない様子だったのでイセルルート大陸の人間だと思ったのだが、当てが外れた。イセルルート共通語も通じなかったのだ。


 ナギ、おまえはどこからきたのか。


 無邪気にこちらを見るナギの視線に、俺はため息を隠せなかった。

 ギルマスにナギの魔力について伝える。ギルマスは魔法使いだが、信用のおける人間だ。魔導師団に勧誘されるくらい強かったが、魔法使い嫌いで断ったというこの人に、ナギの魔力のことを話しても、ナギを悪用したり魔導師団に売ったりはしないはずだ。


 ちょうどいい、このままナギの預け先を探そう。数日ならまだしも、子ども連れで旅をするのは長期はきつい。


「どこか、こいつを預かってくれそうなところに心当たりはないか? ここでもいい」

「あるといえばある。ないといえばない。第一、うちに預けるとなると、あやつが問題ではないか?」

「……たしかにな」


 ギルマスの指摘に俺は頭を悩ませた。ギルドで預かってもらうのは手っ取り早いが、ここには少女を預けるにはいささか--いやかなり問題の人物がいるのだ。


「お嬢さんの事情を鑑みると、お主が保護するのが一番じゃな。普通の家庭に預けるには少々危うい」

「……たしかに、そうかもしれんが」

「不本意と顔に貼り付けるな。お嬢さんを拾ったのはお主じゃ。最後まで面倒を見るべきではないかな? --もちろんこちらでも素性は探っておこう。しかし、腕の立つ者がそばにいた方がよいかもしれんよ。あくまでも可能性じゃが--」


 ギルマスは深淵を探るような目をした。


「お嬢さんは“時空の迷い人”かもしれん」

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