迷子なんです!(時空間的に)
眼鏡さんは一瞬で元の表情に戻ると、先ほど出入りしていた扉の先へ案内してくれた。窓がないせいか、扉の向こう側は暗かった。ぽつんぽつんと燭台が壁にかかってあたりを照らしている。ゆらめく影が若干不気味だ。
「どうぞ、すでに中におりますので」
「おう。ありがとな」
軽く片手をあげて、カイは磨かれたドアノブに手を伸ばした。
「よぉ、ギルマスのじっちゃん。元気にしてっか?」
「仕事に忙殺されとるわい。このクソ忙しい中呼び出しおって、くだらん内容ならたたむぞ」
「んなこと言うなよ。イセルルートの共通語が喋れる上に口が固い信用できる奴って、なかなかいないんだよ」
中にいたのは物語に出てくるドワーフみたいな小柄なおじいちゃんだった。白い髭が三つ編みにされているのが可愛い。
「イセルルート?」
「ああ。依頼先でさらわれたらしい子どもを保護したんだが、言葉が通じない。向こう側の人間かと思ってな。……ナギ、この爺さんはここのギルマスだ。ギルドマスター、わかるか?」
どうやらおじいちゃんを紹介してくれているようだが、こちらも自己紹介したほうがいいかな? とりあえず頭を下げておく。
[川浪凪沙です。はじめまして]
『バルルーク・ゼウェカじゃ。可愛いお嬢さん』
おじいちゃんは胸の前で拳を握ってみせると、ニコッと笑った。こちらの挨拶ってあれなのかな? 慌てて真似をする。
『お嬢さんはどこからきた?』
『た?』
カイが話す言葉とは響きがだいぶ違う言葉だったので、リスニングが追いつかない。
「……イセルルート共通語は通じないようじゃな」
「マジか。ナギ、ほんとおまえどっからきたんだよ?」
おじいちゃんの言葉に、カイがため息をついて肩を落とした。な、なんだろう⁇ わたしのこと……だよね? 言葉についてなにか確認したかったっぽい?
首を傾げたわたしの頭をぽんぽんとして、カイがおじいちゃんに再度向き合った。
「ナザフィア共通語もイセルルート共通語も通じないとなると、ちょいと出自が怪しくなるな」
「……言われなくてもわかってる。じっちゃん、これから先は他言無用で頼む。……ナギは魔法使いだ、多分、相当高位の。魔力量が半端ねぇ」
「!」
「魔法を使うところを見てないからなんとも言えねぇが、国や魔法使いの連中に知れたら大変なことになるレベルだ。今回受けた依頼先で拾ったんだが、奴らがどこからかさらってきたんだと思ったんだよ。でも、どこからきたのか追えないと、こいつを親のところに返せない」
「大層な迷子じゃな」
おじいちゃんは三つ編みにした髭をしごいた。そのままニコッとわたしに笑いかけてくれる。
「どこか、こいつを預かってくれそうなところに心当たりはないか? ここでもいい」
「あるといえばある。ないといえばない。第一、うちに預けるとなると、あやつが問題ではないか?」
「……たしかにな」
カイは再度ため息をついた。