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調べ物にはタイムリミットがあるようです!

 その日はなにかを食べる気も飲む気も起きず、ただただ泣き明かした。

 一晩明けて、鏡に映るわたしはすごい顔だ。こんな顔、カイには見られたくない。

 うっすら首筋に走る赤い線から、身につけたドレスから、あの世界の出来事が夢でなかったことがわかる。


「あ」


 襟元から覗く金の鎖に気づき、わたしはそれを胸元から引っ張り出した。

 金の台座に星が入った薄青の宝石いし。カイからの贈り物だ。


 よかった、この指輪が戻ってきて。カイからの想いの結晶。わたしの、婚約指輪。

 あの世界のものだけれど、このドレスは陰険眼鏡が用意したものだ。身につけたくはない。でも、この指輪は別だ。カイがわたしのために用意してくれた、幸せな記憶の証。


 わたしは鎖ごと指輪を抱きしめた。指に嵌めるには、まだ胸が痛かった。

 カイ。大好き。会えなくても、この気持ちは変わらない。

 ねぇ、蒼星石フェリアラン。あなたが幸せな結婚を守護する石なら、どうかお願い。もう一度あの人に会わせて。わたしをカイと結びつけて。


 ※ ※ ※ ※ ※


 わたしがむこうの世界で過ごしたのは十ヶ月あまりだったけど、こちらの世界ではまだ三日しか経っていなかったらしい。

 わたしはタブレットを覗いてそれを知った。スマホを置いてきてしまったので、誰かと連絡を取るにはネットを介する必要があったからだ。とりあえずLINEをダウンロードして、こちらの端末で使えるようにする。


 まずお母さんに帰宅することの連絡を入れた。返事はすぐあった。変わらないお母さんの言葉に、思わず涙が零れる。

 次にアヤちゃん。こちらもメッセージを送った途端にレスがあった。ぽんぽんぽん、とスタンプが続けざまに送られてくる。こちらは一週間連絡をしなかったことに多少お怒りのようだった。


 会いたいな。ああ、会ったら謝らなくちゃ。だってわたしは一度こちらの世界を、みんなを捨てたんだ。結果戻ってきてしまったとしても、それは謝るべきだと思うから。


 連絡をし終わったわたしは、お風呂へ入ることにした。ボヤボヤしてられない。涙はまだすぐ出て来ちゃうけど、でも泣くのはおしまいだ。このまま喪失感に浸っていたら、もう立ち上がれない気がした。気持ちが折れる前に切り替えなくちゃ。

 だって、カイのところに帰る手立てを探すって決めたんだ。途方もないそれを果たすには、この部屋にこもってはいられない。気力を奮い立たせるために、わたしはよくお風呂に入っていた。


 お気に入りの入浴剤を入れて、久しぶりの我が家のお風呂に入る。こわばった身体が、ゆっくりとほぐれていくのは気持ちがよかった。

 湯船でぼんやりしながら、これからのことを思う。まずはあの世界に行った条件を探るのが一番だろうか。あとは、エディさんの痕跡をたどること。こちらはかなり難航しそうだ。なにせ二百年も前の人物だ。二百年……ああ、でもむこうの一年がこちらの三日とか五日だとかしたら、もっと近いのかな。


 ……ん? ちょっと待って。


 わたしは勢いよくお風呂から立ち上がった。

 むこうの十ヶ月がこちらの三日だとしたら。もしこちらへ帰った時間がランダムでないとしたら、うかうかしてるとあっという間に百年とか経ちそう! そしたら会うどころの話じゃないよ!


 あったかいお風呂に入っていたはずなのに、すっと身体が冷たくなった。心臓がばくばくいってるのがわかる。

 ダメだ、お風呂に入ってる場合じゃない! 一分一秒たりとて無駄にできない! ただでさえ一回り違うのに、うっかりしたら親子、もしくは祖父と孫になっちゃう! いやいや、次会ったとき子孫とかになってたらどうしよう!!


 慌ててバスタオルで身体を拭き、クロゼットを覗き込む。むこうの世界ではスカートだったけど、元々わたしはスカートを持っていない。高校の制服くらいだ。だから最初はスカートに慣れなくてめくれちゃったんだよね……って違う! カイとの記憶を思い出してひたってる場合じゃないんだってば!

 わたしは適当に服を選び、身につけた。

 早くアヤちゃんに会いに行こう。ファンタジー小説が大好きなアヤちゃんのことだ、もしかしたら相談に乗ってもらえるかも。


 当初の目的とは違う気持ちを抱えて、わたしは玄関を飛び出した。

 カイ、待ってて。できるだけ早く帰る道を見つけるからね!

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