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一転して大ピンチ!

 誓約書を見たカイの顔色が、目に見えて変わった。多分わたしも青ざめてる。いつか知られると思ったけど、でもやっぱり知られたくなかった。


「それは……っ、あなたが勝手に書いたんでしょ! 人が寝てる間に偽造するとか、犯罪なんだから!」


 ヤバい、言いながら涙が出てきた。だってカイに知られたくなかった。自分の意思でなくとも、こんなの傷つける。大好きなあの人を傷つけたくなんてないのに。


 わたしの言葉にカイが顔をしかめた。どうしよう、なんて思われた? 嫌いになんて、ならないよね?


 ううん、それより今は陰険眼鏡からこの紙を奪い取って逃げ出すことに集中! 申し立てをするには誓約書があった方がいい……んだよね? 筆跡とか、偽造なのを示せるし。


 わたしは横眼で陰険眼鏡を眺めた。犯罪コレクターのせいで結構傷だらけだ。相当痛そう……あ、この傷をえぐってやれば、怯むんじゃない?

 うん、悪いけどそうさせてもらおう。犯罪者たちに情けは禁物だ。


「ハージナル・アゼレート。それは、俺がおまえをこの場で斬り捨てればなんの問題もないってことだな?」


 あわわ、カイが怖い! 過去最高に怖い! 地を這うような低い声に、据わった目線。あのね、もう視線だけで人殺せそう!

 底光りする金の目で陰険眼鏡をねめつけると、カイは体勢を低くした。


「……っ」


 ひゅ、と隣にいた陰険眼鏡の喉が鳴ったのが聞こえた。パッと目の前に深紅が散る。え、なにが起こったの?

 カイを見ると、そこにはだれもいなかった。え⁇


 びっくりして思わず腕を引くと、さっきまで拘束されていた腕へこめられた力が緩んでいることに気付く。そのままさっと引き抜くと、あっけないほど簡単にそれは自由になった。


「くっ……君をっ、舐めてたよ!」


 憎々しげに陰険眼鏡が吐き捨てる。ぶらんと両腕が力なく垂れた。わたしの力でも引き抜けたのは、どうやらもう腕に力が入らないらしい。


「ナギは返してもらう」


 ぐい、と肩を抱かれて気付いた。カイはわたしの隣にいた。いつの間に移動したの? 瞬間移動?

 呆然としているわたしと、心底悔しそうにカイを睨みつける陰険眼鏡。両肩口から血を流しているのは、よくわからないけれど、多分カイに腱を斬られた……んだと思う。


「あとこれもな。まだ神殿に出していないようでなによりだよ」


 力なく握られた掌から、くしゃくしゃになった紙を奪い取る。


「なんで……っ! なんでいつも僕だけが!」


 地面に崩折れ、吼えるように陰険眼鏡がわめいた。


 たしかにこの人の出自も育ちもこの人のせいじゃない。けれども、それでひねて間違った道を歩んだのは自己責任だろう。もういい大人なんだし。


 カイに促されるまま歩き出したわたしは、けれどもその先まで進むことはできなかった。


「きゃああっ!」


 陰険眼鏡の奥から突風が吹いてきて、転がるように倒れ伏す。いや、実際転がったんだけど。

 カイに守られるようにして伏したわたしは、次々と襲ってくる強風に目を閉じることしかできない。


『《斬り裂け、旋風》』


 はっきりと聞こえたその声に、カイがわたしを背に隠し、手にしていた剣を構え直した。先ほどまでまとっていた赫い光は、すでに気配をなくしている。

 ……て、この光が消えたってことは、魔法を防ぐ手段が失われたってこと⁇


「なんでだ! 封魔環を嵌めたのに!」


 ロイユーグさんが、信じられないといった様子で風の先を睨む。

 風の先には--金の目をした魔法使い。


 犯罪コレクターはにこりと笑った。


『ああ、ようやくその忌々しい光が消えた。これで思う存分私の力が揮える』


 すごく嬉しそうなそれは、こちらの魔法を防ぐ手段が失われたことを喜んでいるんだろうか。

 それにしてもあの人縛られて猿轡かまされてなかった⁇ なんで自由になってるの⁇

 意味がわからず目を瞠っていると、犯罪コレクターは機嫌よさそうに喋り出した。なに言ってるのかさっぱりわからないけど。


『魔法陣と魔石さえあれば、魔力を封じられたとて魔法は使えるのさ。媚香を取りに行ったときに仕込んだあれこれが、私を助けてくれる。ここに仕込んだ魔法陣のおかげで私は牢から逃げられ、の魔法陣によって封魔環の力は弱まった。貴様らには残念だろうがな』


 そう言いつつ、犯罪コレクターはなにかを口の中に入れた。


『さあ、とっときの魔石だ。私の花嫁以外はこれで死んでくれ。《斬り裂け、旋風》』


 くぐもったその言葉が発されると同時に、わたしたちに向かって恐ろしい数の風の刃が奔る。カイたちの前にしゃがみ込んでいた陰険眼鏡もその風に巻き込まれ--


「っっ!」


 鮮血を散らしつつ、その首が、腕が、脚が飛んだ。


「カイ……っ」


 怖くなってカイの名を呼ぶのと、カイたちが斬り裂かれるのは同時だった。


 そして、その瞬間--あたりに皓い光が奔った。


 くるりと円を描いたそれは、襲ってきた風を飲み込み、目も開けられないほどの皓さをもって、わたしも、カイも、ロイユーグさんも、犯罪コレクターさえも巻き込んで。


 爆発したのだった。

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