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ネゴシエーターって大変なんですね!

 さて、失敗は失敗である。嘆いても状況は変わらないなら動くしかない。もとより、女の子らしくしくしく泣いたまま、攫われたお姫様のように待つだけなのは性に合わない。泣いてもいいから最後は自分で動く。それがわたしのモットーだ。

 首筋に当たっているのが刃物ならば、きっとカイは動けない。


「こいつさえいれば、僕の望みは叶うんだ。その魔法使いさえおとなしくなったなら、こんなところに用はない!」


 興奮で手が震えているのか、さっきからチクチクチクチク痛いんですけど。

 しかし、刃物に怯えてる場合じゃない。頑張れ、わたし! これはナイフじゃない。うん、冷たいのは氷かなんか! そう、つららとか!


「あのさ、あなたのお父さんとやらに認めてもらうのに、わたしが死んだら困るんじゃないの?」


 わたしはひりつく喉をなだめつつ、どうにか震えないように声を絞り出した。

 陰険眼鏡にとってわたしは取り引き材料だ。殺してしまっては元も子もないだろう。


「だからこれ、少し離して」

「ダメだ!」

「これじゃ歩けないでしょ? どうやって行くのよ?」

「ひ、引きずって行けば……」

「できるの?」

「う……」


 この眼鏡、非力そうだったもんね。わたしもそんなに体重がある方でないけど、抵抗する成人女性を連れてくのって結構骨が折れると思うよ?


「これじゃわたしは動けないよ。いいわけ? わたしが死んでもダメ。生きたわたしを隣に据えて、見せつけたいんでしょ? あのお家は迷い人が欲しいんだもの。死んだわたしを連れて行っても意味ないよ?」


 あの家にとって、迷い人は子どもを産むからこそ価値がある。だからこそ狙われたんだし、だからこそわたしの命と存在は取り引き材料になる。カイはディルスクェアの人間である自分と、迷い人であるわたしが結婚するならば、お父さんは追っ手を寄越さないって言ってた。ならばそれに賭けてみよう。

 もとよりわたしが狙われたのはディルスクェアの血を継がせるためだ。相手はディルスクェアの人間ならば誰でもいいのだろうし、中でもことさら強く迷い人の恩恵を受けたカイとの子どもを産むなら、魔法使いが産まれる確率が高いと判断されるだろう。

 魔法使いが産まれるかなんてわからないし、カイとの子どもを酷い扱いになんてしたくないけど、「一族から魔法使いが産まれる」のが貴族としてあり続ける前提で、それが目的だとしたら、それほど酷いことにはならないかもしれない。


 とにかくここを切り抜けて、カイのお父さんに会おう。結婚を知らせる手紙が届いてないのならば、直接カイとの婚姻を願ってみよう。

 迷い人のわたしとくっつけて、魔法使いが産まれる確率が高いのは誰か。私生児として捨てられた陰険眼鏡と、力を持つ嫡出子のカイでは、選ばれるのはきっと後者。……ロイユーグさんとか、会ったことのないカイのお兄さんじゃありませんように!


「迷い人? 君は、なんの話を……」

「うるさい! ロイユーグ、君には関係ない!」


 焦れたように、陰険眼鏡はロイユーグさんに怒鳴りつける。そっか、ロイユーグさんはわたしが“時空の迷い人”だって知らないのか。そりゃそうだよね、会うのは二回目だし、この人は追っ手としてきたんじゃなさそうだし。


「だいたい君はなんの目的でそのお嬢さんを拘束するんだ。いい加減その人を離すんだ!」

「僕に指図するな! 異母弟おとうとのくせに!」

「はぁ!?」


 あ、そういやそれも知らないよね!

 初耳だったカイも驚いた顔をしている。ですよねー!


「本来ならっ! 僕が、僕が長男とされるはずだったんだ! オードリアスが魔法使いの血を引いていなければ、僕だって……っ!」


 オードリアスって、カイのお兄さん……なのかな?

 う、その人が魔法使いの血を引いてるなら、長男プラス魔法使いの血を引くお兄さんと、迷い人の恩恵を持つ次男のカイ、どちらが選ばれるかわかんないかも! やっぱりカイのお父さんに会うのは早計だった⁇ いや、カイとじゃなきゃイヤだってゴネてみよう。もしくは先に結婚しちゃうとか……って、無効の申し立てをするのが先だったっけ。ああもう! この眼鏡、なんてことをしてくれたんだろう!


「わめかないで! で、どうなの? お父さんに会うんでしょ? ここで叫んでても仕方ないんじゃないの?」


 耳元でわめかれるととてもうるさいです。四十前後のおっさんが、子どもみたいにゴネるな!


 叱りつけると、少し間をおいて首筋のチクチクが遠のいた。代わりに後ろ手に捻られたけど、刃物の危険度よりマシだ。


 わたしの首から刃物が遠ざかったのを見て、カイが剣を握り直したのが見えた。さっきの赫い光はもう薄れて消えかけている。

 そんなカイの動きを見たこいつは、わたしの腕をつかみつつ、懐から一枚の紙を取り出した。


「カイアザール、悪く思うなよ。君がなんと言おうと、この女はもう僕の妻だ。ほら、誓約書だってある!」


 あっ、このお馬鹿! なんてモノ見せるのよ!

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