街につきました!
一気に速度を上げたクロムは、そのままバサリと翼を広げた。まさか!
[……やっぱり空、飛びますよね〜!]
てか、鞍もあぶみも手綱もない状態で飛ばないで‼︎ 墜ちる‼︎ 冗談抜きでやめて‼︎
わたしは必死でクロムの身体にしがみついた。頼むからカイ様、わたしの胴を抱えてるそのぶっとい腕を離さないでくださいね……!
さっきまでセクハラだなんだと思ったことは棚に上げてわたしは祈った。
しばらくの間、クロムは暮れ行く青紫色の空を滑空していた。ぎゅっと目をつぶっているわたしの様子がおかしかったのか、密着した身体に伝わる振動でカイが笑っているのがわかる。
どれくらい飛んだだろうか。……地面に降り立った頃、腰が抜けていたわたしを責めないでほしい。平均的日本人なわたしは空を飛んだことがないんだよ。そこのおっさん! 笑いすぎだ!
ひとにらみすると、カイはニヤつくのをようやくやめてくれた。地面にへたり込むわたしの腕をつかんで立たせると、ぽんぽんと頭をなでてくる。子ども扱いされているようで憮然とするわたしに、カイは目の前の門を指差す。
「ニーニヤの街だ」
「にーにゃの街」
「まずはギルドだな。歩けるか?」
猫みたいな名前の街だなぁ。住民が猫だったりして。
街はぐるりと高い塀に囲まれていた。入り口は格子の鎧戸になっていて、門番なのか、武装した男性--こちらはまごうことなくおっさんだ。なにせわたしの父親くらいの歳に見える--が二人、両脇に立っている。
カイは片方の門番になにやらカードのようなものを提示した。そのままなにやら話している。
「話はついた、入るぞ」
「入るぞ」
カイはわたしの手を引くと、街へ入って行った。待って! クロムは置いてくの⁉︎
「[ちょ、ちょっと待って!]クロム!」
「あぁ、あいつは留守番だ。街には入れないからな。外で自由きままにやってるさ」
どうやら置いていくらしい。その相談してたのかな。
一瞬盗まれたりとかしないのかな、と思ったけれど、クロムは強そうだ。空も飛べるし、大丈夫なんだろう。
「クロム、[またあとでね〜]」
わたしはクロムに手を振った。初見は怖かったけれど、カイとのやりとりを見たり、不審者であるだろうわたしを背に乗っけてくれたりしたので、今は怖さより親しみを感じる。
わたしの呼びかけにクロムはパタリと尻尾を振ると、翼を広げてどこかへ飛んでってしまった。




