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カールとガートランド

読んで下さってありがとうございます。

 ローランドは馬車を一台用意してくれた。


「ごめんなさい。ありがとうございます」


 私が申し訳なくおもいそう言うと、ローランドは「ちょっと待ってて」と言って、馬車の乗り合いの側にある出店で何かを買ってきた。


「どうぞ。リスカス名物の焼き栗だ。お嬢さんは、こんなものは普段食べないだろう?」


 差し出してくれた包みには、石で焼いた良い匂いの栗が沢山入っていた。勧められるままに食べると、ホクホクしていてとても美味しかった。


 さっきのキャンディといい今回の栗といい……、もしかしてと聞いてみる。


「エディソン様は、妹君がいらっしゃいますか?」


 目を瞬いて、ローランドは驚く。


「よくわかったな。妹君というほど上品なものではないが姉と妹がいるよ」


 やっぱりと思えば、自然と微笑みがこぼれる。笑えた自分が意外に感じた。


「やはり貴女は、笑っていたほうが魅力的で素敵だ」


 どこまでも女性に甘い人のようで、いつもなら芽生える警戒心もあんなことの後なのにさっぱり覚えない。

 手を借りて馬車に乗り込むと、エリアルの護衛の女ヴィスタは「同乗させていただきます」とリリスの前の席に座った。ローランドは苦笑しながら、リリスの斜め前に静かに座る。


「リリス様、ドレスはどうなさいますか?」


 忘れていたが、この街娘の服はアルテイル邸で着替えてきたのだった。このまま戻れば、屋敷のものが心配するだろう。エリアルのところとは違って、リリスの家は比較的常識的なのだ。


「あっ……」


 困ってヴィスタと目を合わせていると、ローランドが声をかけてくれた。


「もし、嫌でなければうちに来るといい。うちは生地を商うだけでなく、既製のドレスもつくってるから、貴女に似合う服もあるだろう。先程、失礼なことをしたお詫びと思ってくれればいい」


 ヴィスタに目線でどうしようと尋ねると、少し考えた後で頷いたので、「お願いします」とローランドに会釈した。


 小さな窓からローランドは御者に指示を出すと、心得たように馬車は街の中心の大通りを走った。


「ハールには柊の園で随分助けて貰った」


 二人が同室だったというので、落ち着いた私は、興味を引かれて色々と学園のことを教えてもらった。


 ハールとは高等科に入るときに一緒になったこと。ハールは優秀で二つ飛び級していたので同級だけどローランドのほうが年上なこと。


 ハール様がいつも姿絵を大切そうに眺めていたことを知った。

 だから、ハールの友達は皆エリアルとリリスのことを知っていたそうだ。


「美しい幼馴染が二人もいるなんて許せないって、皆でハールをうらやましがっていたんだ」


「あ……もしかして、ガートランド……?」


 思わず出てしまった名前にローランドは目に見えて動揺した。


「なんで――??」


「友達が、柊の園に通っていて――、ハール様の本のことを聞いて……」


 私は、顔が真っ赤になってしまっていたと思う。


 ローランドは馬車の天井を仰ぎみて、額を抑えた。


「学院内だけだと思っていたのに――」


 と呻くように嘆いた。その声の低さに、言ってはいけないことだったのだとリリスは気付く。それはそうだろう、最近周りに『薔薇の園のしじま』ファンが多かったから、ついつい普通のことだと思ってたが、あの世界は特別なものだ。


「ペギーめ……」


 ローランドは女性の名前を呪いのように呟いた。首を傾げると、ローランドは諦めたように説明してくれた。


「ペギーというのは俺の姉で、本の作者の一人ですよ。マルガレーテ・エリザ・ルクレス。結婚して暇だからといって、俺や俺の友達を使っていかがわしい本を書いてる」


 そう、ハールはカールだった。そして同室でカールの恋人の名がガートランドだったのだ。まさか、ガートランド本人に会えるとは思ってもみなかった。


「名前を変えてらっしゃるのですね」


「変えてなかったら人権侵害で訴えてやるのに」


 自分の姉だというのに、ローランドは忌々しそうに姉を訴えたいという。


「しかし、意外だな。あんたはそういうのに興味のなさそうな顔してるのに」


 頬に朱を走らせた私を興味深そうにローランドは眺める。


「個人の趣味ですよ」


 黙っていたヴィスタがそう言った。


「あんたもそっちか……。まぁうちは姉も妹もだからな。俺にはわからんが楽しい世界なんだろう」


 無駄だとわかっていると、諦めの境地でローランドは溜息を吐いた。


「さっきの公爵夫人も?」


 ただの興味だと言って、ローランドは聞いてきた。


「エリアルは、興味ありません。少しは読んだりしてたんですけど、旦那様のアルフォード様とお兄様のクレイン様の話を読んで真に受けられた方々に、邪魔をしないように言われたり、慰められるのが辛くなったとかで、今は読んでませんわ」


「ああ、王宮とか騎士団とかの本があるらしいな。しかも本名だって?」


「ええ。だから学院の話があると貸してもらったときは違和感がありました」


「嫌がったりしないのか? 女役にされてる男達は」


 さぁ? と首を傾げる。


 クレイン兄様は利用していたし、アルフォード様は気にしてないらしいし、王太子様に至っては楽しんでいると聞いた。他は知らない。


「多分、今の時間なら姉がいると思う。元気になるなら、喋っていけばいい。女は甘いものとおしゃべりが一番元気の元だからな」


 初めて会った人が、何故こんなに親切なんだろうと、私は不思議に思いながらも頷いた。

何故かシリアスが遠ざかりそうな気配が・・・。いえ、これはシリアスです。

公爵夫人のお茶会の方で、『柊の園』もやっちゃいます。R15ですがw。

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