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初恋が実りました

読んで下さってありがとうございます。終わりました~(嬉)。

 その日は良く晴れた春の日で、私は隣に立つ真っ白の礼服を着たハール様の横に立っていた。


 エリアルが取り寄せてくれた高級なシルクで作られたウェディングドレスは、光沢があって太陽の光を受けて美しく輝いている。真っ白な生地にピンクダイヤと淡いピンクの刺繍糸で薔薇を刺繍している。

 デザインも縫製も請け負ってくれたのはエディソン洋装店、ハール様のお友達であるローランド様の店のものだ。幾重にも重ねられた薔薇を逆さにしたような形は珍しくて、見る人見る人の視線を好奇心の渦に染めている。胸元はクラリーチェ姫から頂いた義胸も入ったフルフルボリューミーな為(ハール様はいらないといってたけど、そこは見栄をはらせてもらった)余り胸元は開いていない。

 頭に載せたピンクダイヤのティアラもネックレスもイヤリングも少し色味の濃いピンクで、これ以上ない可愛らしさだった。


「素敵だわ。もう、ハールにはもったいないわ」


 抱きしめてくれるエリアルのお腹が少しだけ膨らんでいる。順調に成長していて安心した。


「エリアル、疲れたら座るのよ。冷やしちゃだめよ」


 私がエリアルにそういうと、「大丈夫、私もこの子も強いから」と笑った。確かに強そうだ。


 私達の結婚式はエリアルが挙げた王都の誇る大聖堂ではなく、王宮にある少し小さめの聖堂を借りる事にしたのだ。王宮で王様から祝福を頂き、その後に聖堂に移って神父様の立会いのもと愛を誓う。




「「「「「おめでとう、リリス」」」」」


「ありがとう!」


 その日は夜の王宮の小さなホールをかりて友達がパーティをしてくれた。


 ハール様と踊っていたけど、エリアルがアルフォード様と踊っているのをみてると冷や冷やした。妊婦さんが……、そんなに躍っていいのかしら……。


 クレイン兄様とシア様も来てくれた。人ごみが苦手なアルティシア様だけど、クレイン様に抱き上げられていて、その清楚さと美しさに会場は何人もの気絶者がでた。クレイン兄様、結婚しても衰えないその人気が怖いわ。


 セリナ王女はリサと変装してやってきたが、そこで出会ったシジマール侯爵の子息といい感じになっていた。あの方は誠実な方だから、きっと素敵な恋になるだろう。


 クラリーチェ姫も来てくれていた。こちらも変装しているが、騎士団の方に随分積極的に言い寄られている。亡くなった旦那様とは政略結婚であまりいい思い出がないといっていたから、この国で素敵な出会いがあればいいと思う。素敵な方だもの。幸せになってほしい。


 ローランド様も妹さんと一緒にパーティに参加してくれた。ハール様は友人達にシャンパンを掛けられて、着替えにいった。着替えも用意しているところがローランド様の気が利くところだ。


「リリス? リリス!」


 ハッと顔を上げると、ハール様が怒っているような瞳で私をみていた。何かしてしまったかしらとうろたえると、ハール様は溜息をついた。


「ハール様?」


 戸惑う私の手をギュッと握られたと思ったら、抱き上げられた。


「ちょっと、ハール! リリスをどこに連れて行くつもりなのよ」


 エリアルが側に寄ってきて、ハール様に立ちふさがった。


「エリアル。おれにもいい加減我慢の限界がある」


 ハール様はいつもよりも大きな声でそう言った。


 何かしてしまったかしらと、不安げに見上げるとチュッっとキスされた。


「我慢?」


 エリアルは、面白そうに笑った。


「ああ、もういい加減、おれを試すのはやめてくれ……」


「いつ痺れを切らすかと思ってたら、やっとね」


「やっぱりわかっててやってたのか」


「だって、悔しいじゃない。リリスを独り占めするなんて……」


 よくわからない会話を二人は交わしていたが、アルフォード様がエリアルを後ろから羽交い絞めしたと思うと「行って来い」とニヤリと笑ってハール様を促した。


「感謝しますよ」


 ハール様は、最近アルフォード様と仲がいい。エリアルの旦那様だからそれはいい事だと思うのだけど、この前「最近仲がいいのね」といったら「被害者の会なんだ」と訳のわからないことを言っていた。「なんの?」と聞いても教えてくれなかった。



 ハール様は、私を抱いて馬車に乗り込んだ。


「挨拶もしてないわ」


「いいんだ。皆わかってる……。それより、リリス、おれをみてくれないか?」


 切なそうな声で、そう言われた。いつだって私はあなたを見ているのだけど……と思っていたら、ドン!と音がした。馬車の窓から外をみると、花火が打ちあがっていた。


「最後のいやがらせか……」


 ハール様が何か呟いたけど、私は花火の美しさに見惚れた。


「綺麗ね。でもどうして? 花火は夏じゃ……」


「エリアルの仕業だろう。派手だな」


 何度も上がる花火は、夜空を美しい絵画のようにする。


「パーティまでしてもらって……」


「しなくていいのに……」


 ハール様は今日はなんだか変だった。


 パーティはサプライズだったのだ。本当は式の後、家族と極々身内だけのお食事会の予定だったのだけど、開けてみれば、王宮をかりてのサプライズパーティで、驚きの連続だった。


「本当なら、君はもうおれの腕の中で眠っているはずなのに……」


「もう眠かったのね。ごめんなさい。私はしゃいでしまって……」


「いや、リリスが楽しかったなら、おれも嬉しい」


 慌ててハール様はいった。


「でも、もう待てないからね……」


 ハール様の声にしびれるくらいの熱を感じて、私はやっと言っている意味に気がついた。


「あ……、明日じゃ駄目?」


 流石に日が変わりそうだし、朝早くからずっと色々なことがあったので、既に私は眠たかった。

 初夜の晩の花嫁の言葉としてはどうかと思ったが、もう限界だった。馬車の揺れと抱きしめてくれるハール様の体温が私を眠りにいざなう。



「……エリアルめ……」


 私の様子にハール様は、呻くようにエリアルの名前を呟いた。



 夢見心地に寝室に連れて行かれて、侍女のアンがお風呂にいれてくれたが、もう瞼は半分落ちていた。初夜のためにとクラリーチェ姫からプレゼントされた夜着はとても柔らかだった。シーツに包まっているとハール様が着替えてこられた。


「リリス、愛してる――」


「私も……」


 そう答えて私は眠りに落ちた。


「エリアルの高笑いが聞こえてくる……」


 ハール様の呟きは聞こえなかった。


 そして、今日私はハール様の妻となったのです。


「リリス、明日は許さないからね――」


 夢の中にはハール様が出てきて、優しい微笑みでそう言った。


昼に『公爵夫人のお茶会』にてハールへの暴行がばれたエリアルの話をアップします。よろしければ、そちらもどうぞ。

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