ほうちょうを持った手 (原作:グリム童話) 二次創作
グリム童話の原作を最近読んだので、衝動にかられて書いてしまいました。
原作っぽい雰囲気醸し出そうと努力してみたのですが、
もう出来栄えとか、原作への敬意とかそのへんがオザナリ過ぎるうえに、
というか童話としても成立してません。
子供が読んでも「はあ?」という表現だらけです。
そのうえやっつけ仕事感も丸見えで、心が海の様に広い方でなければ読んでて苦痛になるかもしれません。
そのへんの雰囲気のうえ、原作を知っててそのイメージを壊したくない方
や、もう色んな小説読んで文章力を気にされる方は見ないほうがいいと思います。
それでも、「俺(私)は平気だ!」っていう方だけ拝読してください。
今よりもずっとずっと昔の話です。
ある国のとあるところに、母親と兄弟三人、娘一人で住んでいる家族がありました。
母親の名をゾフィア。長男の名をジェームス、次男の名をフリード、三男の名をジョン。
娘の名をメアリーといいます。
それはそれは貧乏な家でした。家族は毎朝早くから母親を残してめいめいが仕事に出かけていました。
とりわけ一人娘のメアリーには非常に厳しい仕事が押し付けられていました。
それは毎朝遠い遠い鉱山の中に眠っている泥炭を切り取って持ち帰ってくることでした。
そもそも、メアリーにこんなに酷い重労働を誰が押し付けるのでしょう。
実は母親のゾフィアが、本当は出来もしない無理難題をメアリーに味あわせていたのです。
ゾフィアは元々はどうしようもない街娼でした。
男に色目を使い、騙し、金を荒稼ぎして、欲望の果てに、真面目そうな炭鉱夫を夫にして結婚したのです。
ですが、ゾフィアに愛がなかった訳ではありません。
いつも自分の言うことには逆らわず、黙々と仕事を続けていた夫に、
「ああ、なんて哀れで臆病な男なのかしら。なんだか私がしっかり傍にいないといけないんだわ。」
と、まるで飼い犬を見るかのような眼差しでしたが、それでも夫のことを心配していました。
毎日酷く罵りをこめても、「どうせ一生結婚して暮らしていく男なんだ。」
そういう風に言い聞かせて夫婦生活を送っていたのです。
しかし、ある日仕事の過労で夫が急に死んでしまい、ゾフィアのもとには男の子三人が残されました。
生活は厳しく、ゾフィア一人では稼ぐことは出来ませんでした。
とはいえ夫の残してくれた息子たちのことを見捨てて売りにだすなどとは、
既に母親になっていたゾフィアには出来なかったのです。
そしてゾフィアは仕方なく新しい夫を迎えることにしました。
家にはお金を稼いでくれる男が必要だったのです。
ですが、それが間違いでした。
再婚した男は酒のクセが悪く毎晩の如くゾフィアや三人の息子たちに暴力を振るいました。
おまけに、仕事から帰ってくると家事を懸命にこなしているゾフィアをあらん限り罵倒しました。
「おまえみたいなアバズレは、働きもしないで畑ばかり耕してる。金をもってこい!!」
そう言って何度も怒鳴りつけ、乱暴しました。
その度に殴られるので、息子のうち長男のジェームスは母親を庇い、いつも顔を腫らしていました。
ゾフィアは毎日泣きました。辛すぎる時は決まって家の外に向かって叫びました。
「何故自分だけがこんなに不幸なの!ああ、神様どうかあの暴力亭主を殺してくれ!」
すると、次の日再婚した男はぽっくり死んでいました。
どうやら酒の飲みすぎで肝臓がズタズタになっていたようです。
ゾフィアはやれ嬉しやと喜びましたが、急にお腹が痛くなったので街の医者に駆け込むことにしました。
「奥さん奥さん、あんた妊娠してるよ。」
医者は、直ぐにでも出産の準備をしなきゃ、とゾフィアに言いました。
その後、ゾフィアには玉のように可愛いらしい赤ちゃんが産まれました。
長男のジェームスは新たに産まれた赤子が女の子だと知っていたので、とても喜びました。
「メアリー」という名前も物心ついたジェームスが考えた名前でした。
ゾフィアもジェームスが喜びながら名前を決めていたので、本当にその名前を、
産まれた女の子に名付けることにしたのです。
でもでも、本当はゾフィアは、メアリーのことをちいっとも愛していませんでした。
乱暴だった男の赤子を自分が産むことになったので、メアリーの顔を見る度に、
あの嫌な暴力亭主の顔がよぎり、本当の意味で愛せなくなっていたのです。
また少しずつ成長すると、メアリーはとても美しい女性になりました。
ゾフィアはまるで自分の幸福を吸い取って育っているかのようにみえるメアリーに深く深く、
嫉妬していたのです。
「あんなクズの遺伝を受け継いでるんだ。きっとロクな女にならないね。」
いつしかゾフィアはメアリーを憎むようになっていったのです。
そして、ゾフィアはいつも厳しい仕事をメアリーに押し付けました。
嫌なことがあると事あるごとにメアリーをいびり、
虐めてきたのです。
「今日はこのバスケットに山盛りとっておいでな。」
ゾフィアはメアリーにバスケットを放り渡すと、いつもの倍ぐらいは器の大きいのを見せびらかし、
にらみつけました。
「寄り道せずにとっとと帰ってくるんだよ。」
吐き捨てるように、メアリーに言うと、メアリーはにこやかに朗らかに笑ってみせて、
「わかりました。行ってきます。お母様。」
と、元気よく家を出ていきました。
「なんで、あんな元気なんだい。あの小娘は。癪にさわるよ。」
メアリーはとても心が綺麗で清楚な女の子でした。
どんなに虐められても、笑顔でした。
どんなにいびられても、笑顔でした。
「きっと、お母様は家事で疲れているから私に当たるんだわ。みんな仕事で大変なのに私だけ、
楽はできないわ。」
彼女は心からそう思っていたのです。
ですが、ゾフィアにとってはそれは不快で不快でたまりませんでした。
「今度はうんと大きなバスケットを用意してやるよ。取っても取っても足りないくらいのヤツを。」
ゾフィアにとっては、メアリーの笑顔がまるで自分を小馬鹿にしているように映っていたのです。
不幸な結婚生活はゾフィアの価値観をひねくれさせていたのです。
「おい、おふくろ!また、メアリーに泥炭を取りに行かせたのか!!」
ふと、家の扉を開けて長男のジェームスが怒鳴り込んできました。
「何をいうんだい。あの子にピッタリの仕事をさせてあげてるんじゃないかい。」
ゾフィアはシラをきったみたいな態度でふんぞりかえります。
ジェームスは余計に怒って言いました。
「あんな細腕で鉱山の泥炭堀りなんぞさせるもんじゃない!!」
「まあ、まあ、いいじゃないか兄さん。」
ひょろひょろと、怒るジェームスの間に次男のフリードが入り込んできました。
「ママだって疲れてるんだよ。家の中で大きい声をだして怒ることないよ。」
「フリード・・お前また、おふくろの肩をもつのか・・」
フリードは痩せこけてギョロギョロした眼を左右にちらつかせながら気まずそうに
「いやいや、いや、違うよお、兄さん。メアリーにぴったりの仕事じゃないか、
この間だって普通一人じゃ取れないくらいの量の泥炭をとってくるんだよ。
メアリーは凄い職人芸だよ。あれで今ウチの家計が助かってるんじゃないか。」
「そのとおりだよ。フリードの言うとおりだ。アタシもビックリしてるんだよ。
最初はそんな多くはとってこれないと思ってたらバスケット一杯はとってくるんだ。
あんな仕事大の男二人でもなかなか出来ることじゃあないんだよ。」
「そんなことは知ってるよ!だけど若い娘にあんな遠いところまで取りに行かせることはないだろ!
お前もそう思うだろ!ジョン!」
ジェームスは腰をひん曲げて下向き顔で佇んでいる、太っちょのジョンを見据えていいました。
鈍そうな顔を醜く歪ませながら、ぼとぼととジョンは喋ります。
「ええと、ええと、オデよくわかんねえや。家のことは兄貴達でなんとかしてくれりゃあ・・いいし、
うん、えー、あ、メアリーはよくがんばってると思うんだ。」
話を聞いてる人を呆れさせるくらいゆっくりと緩慢にジョンが喋るのを聞き、
「もういい!!」と、ジェームスは家を出て仕事に出かけました。
長男のジェームスは、弟たちと母親のことが大嫌いでした。
メアリーが産まれてからというもの、次男のフリードは家に残っている財産目当てで母親にゴマをすり、
気をよくしている母親に飼われている飼い犬同然でした。
「あの、能なしマザコン男が!」
思い出すのも反吐が出るくらいです。
三男のジョンに至っては、何をやらせても鈍く、馬鹿でしょうもないので、
ロクな仕事をさせて貰えず、兄弟の中では稼ぎが一番低いのです。
とはいえ肝心なところは次男のフリードと同じで財産目当て。
おまけに、酷く消極的で臆病な性格が母親に逆らえず、常にジェームスをイラつかせていました。
「馬鹿でノロマな腰巾着め!」
吐き捨てたい気分です。
とはいったものの、一番今憎たらしいのは母親です。
正直、メアリーに八つ当たりをしている母の姿が暴力をふるっていた二番目の父親と重なったのか、
今では「金に汚い、酷く嫌な粘着ババア」と思うようになっていました。
ロクな食事をメアリーに与えず、自分は家にいて何をしているかといえば、
宝石やらなんやらの装飾を組み合わせたり、シワクチャの癖に未だに容姿に気を遣っているのも、
ジェームスには気に入りませんでした。
「いつもそうだ、何かと面倒なことがあると長男の俺にしわ寄せがくるんだ!
二番目の親父の時だって、いつも殴られるときは俺を盾にして逃げていた。
なんでもかんでも自分のことしか考えていないんだアイツら全員!」
ジェームスは仕事疲れもあってか、相当に怒り心頭でした。
ですが、それ以上に頭の片隅にはメアリーのことを心配する気持ちで一杯だったのです。
「あんなに綺麗で可愛いくて心優しいいい子なのに。こんな酷い仕事を押し付けられるなんて。
畜生。俺も今の仕事を稼いだら、あの子と一緒に泥炭を取りに行ってやれるのにな。」
ジェームスは美しく清らかなメアリーのことを愛していました。
子供の頃からメアリーのことを傍で見守ってきていたのですから、
メアリーの心が澄み渡る水の様に美しいことも、純粋無垢で人を疑うことをしらないことも、
よくよくわかっていました。
「メアリー・・いつか必ずたすけるからな。待ってろよ。」
それは兄妹の愛を感じさせる一言でした。ジェームスは何が何でも彼女を救いたいようです。
ふと、熱い想いにかられていたジェームスは立ち止まり、
「でも、彼女はどうやってあんなに沢山の泥炭を短い時間で取れるのだろう。」
考えたこともなかったことでした。
不意にジェームスに向かって風が吹きました。ひゅう、ひゅうと、
鉱山の方角に向かって吸い込まれるように吹いてきます。
「なんだか、不気味だな。」
急に怖くなってジェームスは道を引き返しました。
場所は変わって、
メアリーはいつものように鉱山に向かいました。
長い森を越え、歩いて、歩いて、草の根一本生えてないような荒れ地の果てに鉱山がありました。
「はあ、はあ、やっと着いたわ」
長い長い時間をかけて辿り着いたメアリーは、
いつもするように、鉱山の麓の岩を二度叩きました。
すると、中からこの世のものとは思えない程におぞましくて不気味な腕が現れて、
「やあ、きたな。」と、聞いたものが小便を垂らして身震いするような大きなしゃがれ声と共に、
腕が一本 にゅうっと出てきたのです。
その手にはどこにでもあるような鋭い刃物が握られていました。
「いつも、ありがとう。あなたのおかげです。見知らぬ怪物さん。」
ところがメアリーはその明らかに異質で恐ろしすぎる光景に一切驚くこともなく、
天使の様な笑顔で答えるのです。
「なあに、礼はいらん。今日も炭取りにきたのだろ。いっぱい持って帰って、
みんなを喜ばせてやりな。」
まるで友達同士が会話をするみたいに美しい娘子と怪物が話しています。
いやはや、これは奇怪です。
「本当にやさしい怪物さん。ありがとう。私これで今日も家に帰るのが楽しみなの。」
くぐもった地鳴りみたいに怪物の笑い声が響きます。
「ふぉふぉふぉ、なあに。お前さんたちのことは、お前さんが産まれる前から知っておるよ。
家族みんなで幸せに暮らせるように手助けさ。」
「もう、なんてお礼をしたらいいか・・・必ず今の家計が良くなったら恩返しにきます。
何度も言ってることだけど、必ずきますから。」
メアリーはこの心優しい怪物に、実は、いつも助けられていました。
この泥炭取りだって、メアリー一人だけではそんな大した量なんてどう頑張ったってとれません。
そんなメアリーに、この怪物は岩でもなんでもすっぱり真っ二つに切れてしまう「ほうちょう」を
渡したのです。
すると、みるみるうちに岩は切断し、なかから必要な泥炭だけがとれるという魔法のような
優れものでした。
これを使えばどんなに硬い岩の中にあっても綺麗に純な泥炭だけを切り取ってしまえたのです。
「こんなに簡単に取れてしまうなんて。やっぱり神様って本当に居るんだわ。」
今日も、今日とて眼を輝かせて、たくさんの泥炭をメアリーは手に入れました。
「きっと、お兄様たちもお母様たちも、喜ぶに違いないわ。」
家族の喜ぶ姿を想像しながら、彼女は仕事を終え、麓の岩を二度叩いて、
怪物にほうちょうを渡して帰りました。
「また、来ますね。怪物さん。今度はお菓子ももってくるわ。」
「ふぉふぉふぉ、そんなお菓子は必要ないよ。ワシはお菓子は食べないのだ。」
「ああ、ごめんなさい。今度食べられるものを持ってきます。怪物さんは一体何を食べるの?」
岩の隙間を覗き込むようにメアリーは頭を屈ませて穴に近づきます。
すると、怪物の生暖かい吐息の様な風がびゅうと吹いて髪をかきあげたのです。
「わあ。」
「おお、すまんな。そんなに近づくと危ないぞ。ワシはお前さんをとって食べたりはせんが、
ちょっとばかし変わったものを食べる。お前さんには持ってきては貰えんものだよ。
無理はせんでいい。」
「へえ。そうなの。」
首を傾け、メアリーは不思議そうに言いました。
それからすぐにメアリーは、怪物に別れを告げて家を目指します。
長い長い道のりを戻るように、バスケット一杯に泥炭を抱えて歩きます。
家に着くと、皆メアリーをみて驚きました。
「そんな、馬鹿な」「有り得ない」
三人の兄弟と母親は口を揃えて言いました。
いよいよ、メアリーは大の男が五人でも取れるかどうかという量の泥炭を一人でとってきたのです。
流石にこれには兄弟たちと母親は、何かあると疑い始めました。
ゾフィアが寝静まると、夜中に母親と兄弟三人で話し合いが行われました。
まず、ゾフィアが
「こんなに大量の炭をとってこれるワケありゃあしないよ。
何か別の手か、男でも誘って手伝ってもらってるに違いないよ。」
「おい、おふくろ。何を言ってんだ。」
ジェームスが怒ります。
続いてフリードが
「でも兄さん。こんな量の炭を夕方までにとってこれるなんてやっぱり変だよ。
何かメアリーは特別な方法を使ってやってるに違いないんだ。」
続いてジョンが
「お、オデもそう思う・・・いつも仕事すごい早い。アレはおかしいんだ・・」
いつもながらの兄弟と母親の態度に辛抱たまらなくなったジェームスは
「そんなに言うなら俺が彼女より先に泥炭を取りに行くよ!
もし男が待ってたらそこで懲らしめてやるだけだ!」
そう言い出すと、翌朝誰よりも早く鉱山に向かいました。
その間の今日はメアリーには別の仕事をしてもらうということで、
泥炭は一日ジェームスが代わりにとってくることになりました。
森を越え、川を越え、すっかり辺りが暗くなり、
生き物も植物もなーんにもない荒れ地を息を切らしながら歩きつづけ、
ようやく鉱山に着きました。
「ああ、なんて疲れるんだ。こんな道のりはこりごりだ。」
工場での立ち仕事が多かったジェームスは長い距離を歩いてすっかり動けなくなり、
麓の岩にのたれこみました。
「・・・ん?なんだ。この岩は・・」
見ればとてもとても大きなびっくり岩が目の前に拡がっているじゃあありませんか。
ジェームスはあまりの大きさに不思議な気持ちになり、思わずコツコツと岩を叩いてしまったのです。
すると、
「おお、今日は早いなあ・・娘。感心感心。」
地鳴りを起こして怪物の声が響き渡りました。
ジェームスは恐れの余り腰を抜かして地面にへたりこんでしまいます。
「なんだ・・この大声は?」
言ってみて、しまった。と、ジェームスは思いました。
もし、この怪物がメアリーのことを知っているなら、見ず知らずの自分が怪物に、
ここへノコノコやってきたことがバレたら、食べられてしまうかもしれません。
ガタガタ震えるジェームスに怪物が話しかけます。
「おお?なんだ・・今日は娘ではないのか。何をしにきたジェームス?」
「え・・?」
あれれ?どうやら怪物はジェームスのことを知っているようです。
昔二人は会ったことがあるんでしょうか?
もちろんジェームスは会ったことなんてありません。
「なんで名前を知ってるんだい・・。」
「ふぉふぉふぉ、ワシは何でも知っておる。おまえはゾフィアの息子だな。
兄弟が三人おる。そしてメアリーを可愛がっていることも知っている。
産まれる前から全部おまえたちのことを知っておるんだよ。」
不意に言葉の後に岩からこの世のものとは思えない大きな腕が にゅうと、出てきました。
「ひゃあ。」
ジェームスは女の子みたいに情けない悲鳴をあげて、眼を丸くひんむいてその腕を見ました。
とても不細工で太くておぞましい。鬼みたいに指が膨れてあがって、さあ大変。
「怖がることはないぞ。ワシはおまえが来るのを待っておったんだよジェームス。
今お前に必要なものを出しているだけだ。」
「これは・・刃物・・いや、包丁か。」
巨大な腕の中にきらりと黒く鈍く光るものがジェームスの目に映りました。
何故か、その光がジェームスの眼を捉えてはなしません。
「これを使えば、なんでも切り取ってしまえるんだ。岩だろうが地面だろうが何だって真っ二つだ。」
「そうか・・これを使ってメアリーは泥炭をとったのか!」
ジェームスは何故メアリーがあれだけ多くの泥炭を取れるのか、
これでよく分かりました。
それでもまだまだ不安です。
だって、こんな不気味な怪物とメアリーが話してるなんて想像できないんです。
「おまえ、メアリーを取って食べる気なのか?」
ジェームスは腹にぐっと力をこめてたずねました。
「ふぉふぉふぉ。ジェームス。ワシはそんなことはしないよ。メアリーを取って食べようなんて
微塵も思っちゃおらん。そんなことよりな。ジェームス。ワシはおまえさんが来るのを待って
たのだよ。」
怪物が何を言ってるのかジェームスにはよく分かりません。
そもそもなんでジェームスに用があるんでしょう?
「どういうことなんだ?」
「ふぉふぉふぉ。最初にいっただろう。ワシは何でも知っている。メアリーは家で虐められて、
おまえはそれを我慢しているのだろう?どうだ、ジェームス。
おまえさんこのほうちょうを使って腹の立つ奴等を切り取ってしまったらどうかね。」
怪物は本当に恐ろしいことを言いました。
「な、なにをいうんだ。そんな恐ろしいこと出来るわけがない!」
「ワシは何でも望みを叶えてやれるのだ。昔は別の国で神様をやっていたことだってある。
おまえさんごときの願いなら叶えてやれるのだ。今、お前さんは気に入らない奴らを残さず、
みなごろしにしてしまいたいんだろ?ワシにはよーくおまえさんの苦労がわかるんじゃよ。」
あまりにあまりに恐ろしいことを言うものだから、
ぞぞーっと、ジェームスの体から血の気が引きます。
「や、やっぱりおまえは怪物だ。化物だ。メアリーには今度からおまえには会わせないぞ!」
怖いことを振り切ろうと必死にジェームスは強がります。
「ふぉふぉふぉ。いいだろう。いいだろう。好きにするんだな。だがな、ジェームス、
おまえは必ずここに戻ってくる。メアリーをたすけるためにコレが必要になるんだ。
ワシは待っているぞ。先に起こることもワシには見えているんだよ。」
気づけばジェームスは怪物の声が遠くなるくらいにまで離れていました。
こんな怖い怖い場所に居たくありません。
急いで家に帰ろうと必死で駆け出します。
家に着きました。 つかなきゃよかったのにね。
メアリーが居ました。 へやのまんなかに
扉が開けたままでした。 かおもふくもぼろぼろ
言葉を失いました。 ちがでてるよ
いつも笑顔なのに なきわめいてるよ
「め、メアリー!」
顔もアザだらけで腫れ上がったメアリーが部屋の奥でさめざめ泣いていたのです。
「お兄様。お兄様。ごめんなさい。仕事に行ってきたの、今日。そうなの。」
たどたどしく、怯えながらメアリーは話します。ジェームスは気でも違ったように、
「何があった!一体、何が!」
気付いたら、強く肩を掴んでいました。
余計に怯えてしまうメアリーに、
「あ・・すまない。メアリー・・一体・・何の仕事を」
そこまでいって、
ジェームスはメアリーの下の方に眼をやったまま動けなくなってしまいました。
「・・・あれ・・?」
ちがでてるよ。
ちがでてるよ。めありー。
ちがでてるよ。めありー。でちゃいけないだろ?それは。
「お兄様・・。私、今日仕事に行ったの。お母さんに紹介されて、綺麗な服を着て、
男の人とお話をしてお金を貰う仕事だって・・聞かされてたの。・・・でもね。」
そこでメアリーは少し押し黙ってしまったのです。
相変わらずジェームスは動けなくなったままです。
瞬き一つすら出来ず流れている血を見るしかありません。
「私・・私にも出来ると思ったの。すごく優しそうな男の人だったんだけど、
急に、・・いきなり・・服を・・それで逃げようとしたら凄い顔で追いかけられて、
叩かれて、痛かったの。・・・・すごく痛かったの。私・・私・・」
腫れた顔からにじみ出る血を混ぜながら、すうっとメアリーの眼から涙がこぼれました。
「そしたらね・・。あの・・私・・なんだかよくわからないのだけど・・
なにか、すごく嫌な感覚が・・男の人が私に・・乗るような・・・
その時苦しくて・・辛くて・・・ねえ、お兄様、私おかしくなったの・・?
すごく怖いのに、悲しいのに、なんだか、頭がボーっとするの・・。
これって病気なの?」
既に虚ろな眼になっているジェームスにメアリーはすがるようにたずねます。
ジェームスはただ機械的に答えました。
もう何も考えられなくなっていたのは、ジェームスも同じだったのです。
「病気じゃないよ。メアリー。・・・すごく辛かったんだな。ゴメンな。傍にいられなくて」
ジェームスはただ、メアリーを強く抱きしめました。
「お兄様・・怖いよ・・怖いよ・・・私おかしいのかな。もう動けないの。」
そしてジェームスは優しく、我が子をあやすように言いました。
「大丈夫だよ。メアリー。もう、きっと君を苦しませることは起きないんだ。」
ジェームスはメアリーを抱きかかえて医者に連れて行くと、
再三文句を言われそうになったが、無視して鉱山に向かって走り出しました。
鉱山では例のおぞましい腕がほうちょうを握って待っていました。
ジェームスは恐れ知らずのようにぐんと近づきました。
「やあ、待っていたぞジェームス。」
「そのほうちょうをくれ。」
全く話さず、ジェームスは怪物からぷいとほうちょうを奪い取りました。
「ほうほう。どうやらワシの思ったとおりだ。お前には必要だっただろう?それは。」
ジェームスはじいっと穴があくまで、ほうちょうを眺めました。
すると、一言こう言います。
「どうやって使うんだ。」
「簡単だ。簡単。ただ切りたいと思って振ればよい。それだけの話だよ。そうすれば何でも切れる。」
地鳴りのような声が岩肌に響きながら荒れ地に吹く風のようにぐるぐると、
ジェームスの周りを飛び交います。
「なるほど・・よくわかった。」
その瞬間でした。
ジェームスは怪物の腕を切り上げ、あっという間に見えていた大きなうでを岩の中の何かから、
切り離してしまったのです。
「ぎゃあああああああああ!!!」
耳をツンザク程の怪物の悲鳴に、切られた腕が黒い煙を吐き出しながら、
岩があっという間に閉じて動かなくなってしまいました。
それから、ジェームスはゆっくり歩き始めました。
家を目指して、長い長い道のりを。
家に着くと、家には母親ゾフィアが待っていました。
「どこへ行ってたんだい。心配したんだよ。ジェームス。」
「そうか。」
機械みたいにジェームスは返答します。
「あの山は恐ろしいところなんだよ。昔から、化物が住んでるって噂なんだ。
なんでも人の願いを叶えてやる代わりにソイツの幸せを食っちまうってね。
アンタ、まさかそういうのに出会わなかったかい?」
「いいや。」
機械みたいにジェームスは返答します。
「ところで、メアリーの具合は?医者に連れて行ったんだ。」
ゾフィアは眉間一杯にシワをこめて、
「ああ、あの子かい。まったく困った子だよ。せっかく新しい仕事を紹介してやったってのに、
あろうことか客の顔引っ掻いて怒らせちまったんだよ。顔もいいし、気立てもいいから、
間違いなくいい稼ぎになると思ったのにねえ。もう少し教育が必要だね。
アタシの若い頃だったらあんなことはなかったのに。」
その言葉の後は、もう大変です。
怒りすぎておかしくなってしまったジェームスは、母親のゾフィアの髪根っこを
手で掴み引っ張りあげると、
首から下を綺麗に切り離して、手足をバラバラにして畑に捨ててしまいました。
次に帰ってきた次男のフリードを片っ端から八つ裂きにして、家畜の餌にしてしまいました。
最後に戻ってきた三男のジョンを体半分から真っ二つにして、ゴミダメに捨ててしまいました。
家にはもう、真っ赤なじゅうたんと、ジェームスとメアリーしか残りませんでした。
みんな不幸になってしまいました。
だから残された家族は二人の兄妹だけでした。
その後二人は一緒に暮らしました。二人だけの生活はすごく大変だったそうです。
不思議なこともあるもので、ジェームスが人殺しになったことは誰にも気づかれなかったのです。
また、ずーっと後にジェームスとメアリーが鉱山の麓の岩を調べにいったんですが、
大きな腕の骨だけ落ちていて、岩は開けっ放し、怪物の姿は影もカタチもなかったそうです。
おしまい。
書いた後の罪悪感と黒歴史感が半端じゃありません。
とにかく偉大な童話の二次創作とかやるもんじゃない・・
と、実感しました。
でも、感想としては、本当に童話って想像力が膨らむなあ・・
って思えたのが素晴らしいです。
もう駄文の半分以上妄想ですが・・よくこんなひでえモン書いたなあ・・
と、自分の首を絞めてやりたいくらいです。
なんというか、もし読まれて「糞すぎて許せねえ!」
って意見がありましたら、是非とも感想で書いてください。
これからの活動の励みになりそうです。