孤独な殺人鬼
55歳にして独身。これといった職に就いた経験もない。学歴は中学止まり。友人はいるにはいる。付き合いはほとんどない。俊也の日常は単調だ。朝6時起床。午前中は公園で過ごし、昼過ぎは部屋にこもる。テレビを見るわけでもない。読書もしない。常日頃から母が監視の目を光らせている。俊也はそれが鬱陶しい。母との二人暮らしは父が脳梗塞で21年前に他界してから続いている。
弟の公彦はすでに独立していた。父他界の3年前、彼は「こんな家には居たくない」と捨てぜりふを残した。当時、付き合っていた女がいて、結婚を決めていた。公彦は彼なりに計算があった。いずれは家庭を持ち、安定した生活を送る。県営住宅。八畳の部屋がふたつ、狭い台所、風呂に水洗便所。家族4人が済むには窮屈過ぎた。自分1人が働き、家計を支えることにもうんざりだった。
母の文代は88歳。彼女の人生は息子2人の世話と心配に大半を費やしている。酒飲みですぐ暴力を振るう夫から息子たちを庇い、自らが殴られ、蹴られた。顔にあざをつくったまま、調理し、息子たちに食事を与えた。父のご機嫌を伺う日々が続いた。文代はそうすることが正しいと信じていた。公彦が家を出てからは俊也にその鉾先を向けた。