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第七話 「騎士の国の愉快な仲間達(中)」



「姉上! 姉上!」

 

 シャナンが自分の執務室に戻って暫く仕事をしていると、弟王子テウタテスのけたたましい声と共に扉が開かれた。

 興奮した面持ちの弟が勢い良く入室し、その後ろに疲れ果てた顔をした灰色の瞳に赤味がかったこげ茶色の髪の長身の騎士が続く。

 扉前を守っていた騎士は、乱入を止められなかった事に申し訳なさそうな顔でシャナンに頭を下げた。


「お聞きしましたよ、姉上! アズルガートへの視察の提案が通ってアズルガートから迎えが来るそうですね!」

「ああ、もう、勘弁して下さいよ、テウタテス様……シャナン様からも、この暴君に何か言って差し上げて下さい……っつーか、俺を労って、ターニャ!!」


 入って来た図体の大きな男達は、ずかずかとシャナンとターニャの元へ歩み寄りながら、それぞれの台詞を言った。

 シャナンが苦笑している横で、対照的にターニャは怒りを露にした。

「ショーン・グレンファー!! 両殿下の御前で、お前は又そのような口の利き方を! お父上である前騎士長スタントン・グレンファー様がお聞きになられたら、どんなに嘆かれることか!!」  


 ターニャが今にも自分を斬りかかろうと手を剣の柄に置いているのを見て、ショーンは体同様に大きな手で、女性にしては大きく剣だこもあるターニャの手を愛しげに撫でて、もう片方の手を彼女の腰に回し、体をぐいっと引き寄せた。

 長身でしなやかな筋肉の付いた中性的な体のターニャも、彼女の更に頭一つ分背が高くがっしりして大変大柄なショーンと並ぶと、普通の女の子のように見える。

「もー、この世にいない人の話はいいからさー、つーか親父と俺同じ口調だし? そんな事より、ターニャ。今日の夜、暇? 飲みに行こうぜ? いや、夕食でもいいし、寧ろ、もう、俺んち泊まってく?」

「何故私がグレンファー聖騎士爵邸に泊まらねばならぬのだ! 意味がわからん! 触るな、この無礼者!」

 ターニャは、へらへらと笑うショーンの手を振り払い、剣を抜いてその鋭い先をショーンの首に当てた。

「今直ぐ、お前のその恥ずべき行いを両殿下と両陛下と女神とスタントン様に謝れ!」

 ショーンは両手を「降参」とばかりに挙げて、早口言葉のような台詞を怒った顔で言うターニャの顔を覗き込んだ。

「えー、マジ? 俺、そんなに謝らなきゃいけねーの?」   



 二人の日常茶飯事なやり取りを横目で見て笑ってから、シャナンは自分の手をいつの間にか握りながらじっと見詰めている弟を見上げた。

 銀色の長い睫に縁取られた切れ長の青緑の目は潤んでいて、頬もうっすら染まっている。心なしか呼吸も荒く、不自然に顔も近い。

 アズルガートとの縁談が来てから、弟が今まで以上に自分に執着してべったりな事を再確認し、シャナンは眉を寄せた。

 

「……随分と騒がしく入ってきたけど、テウタテス、この時間は騎士達と訓練じゃないの?」

 訝しげにシャナンが言うと、テウタテスはシャナンの手を強く握り締めて叫んだ。

「そんなこと、どうでも良いのです、姉上!!」

「え、そんなこと……?」

 シャナンは明らかに不愉快な顔をしたが、弟はその事に気付かない。

「俺も行きます、姉上!!!」


 その場にいたテウタテス以外の三人は驚いて言葉を失い、少しの間の後にショーンが皆の代表で口を開いた。

「……は? 行くってどこにっすか?」

「アズルガートに決まっているだろうが!」

 馬鹿にしたような視線を自分の護衛騎士に向けて、フンッと鼻を鳴らした後に、また潤んだ瞳で情熱的に姉を見詰める。

 態度の違いに常に雲泥の差がある。

 基本的にテウタテスは姉以外のほとんどの人の扱いはぞんざいで、特に愛する姉の特別な人であるショーンに対しては大変酷い態度の王子だった。嫉妬心から、自分の護衛騎士というよりは憎い敵というような認識である。


「冗談ぶっこくのも大概になさって下さい!! この、しすこん王子!!」

 ショーンが叫んだ。王后に「口の利き方を知らぬ騎士」と呼ばれているだけの事はある口の利き方である。

「なんでテウタテス様が視察に行く必要があるんですか! 嫁ぐのはシャナン様ですよ! あなた様のような、でかい図体の凶暴で尊大で我侭な男を嫁に欲しい王子なんかいませんよ!」


 口の利き方だけでなく、恐れも知らないらしい護衛騎士をテウタテスは睨み付けた。

 父似の大柄な体格と母似の神秘的で美しい容姿とで圧倒的な存在感の王子が睨めば、通常なら恐れ戦くものだろうが、彼を赤子の時から知っていて近くで育って来たショーンには通用しない。

「誰が嫁に行くか!! この馬鹿が!! 俺は姉上が結婚するなんて絶対に認めるものか!! 縁談なんかぶち壊しに……もとい、大切な姉上の嫁ぎ先になるかもしれない国を見ておきたいと思うのは弟として当然だろうが!」  

「……なんか私、今、聞き捨てならない言葉を聞いた気がするわ」

 本音駄々漏れなテウタテスの台詞に、シャナンは不審そうな目で彼を眺め、ターニャも真面目な顔で頷いた。  


「行きたくないのなら、お前は付いて来なくて良いぞ」

「え、何、俺、クビ?」

 目を瞬かせる自分の護衛騎士を、テウタテスは馬鹿にしたように笑った。

「大体、俺に護衛などいらないだろう。俺の身を襲える者などいるものか。そのような、うつけどもなぞ、返り討ちにしてくれるわ!」

 ふはははは、と不敵に笑う王子を眺めながら「なんか今の台詞、最後の方の言い方がエト王国訛りで王后様みたいだな」と護衛騎士二人が思っていると、ドガッという鈍い音がした。

 音の出所を見てみると、可愛い猫型の文鎮がテウタテスの頭に突き刺さっている。


「テウタテス!! この愚弟!! 命を掛けて自分を守ってくれている護衛騎士に向って、なんてことを言うの!」

 シャナンの手には、次の凶器なのであろう分厚い本が握られている。

 護衛騎士二人は「ああ、あの本の角が当たったら痛そうだな。文鎮も痛そうだったが」と思いつつ、口を噤んだまま成り行きを見守った。


「あ、姉上……」

 テウタテスは呆然と姉を見ながら、とりあえず頭に刺さっている重い文鎮を取ってみる。いつもながら、結構な打撃だった。姉の怒りをこれ以上買わないように、大人しく手の中の文鎮をそっと元置いてあった書類のに戻してみた。

 姉の美しい瞳は怒りに燃えているし、気の所為だろうが、その見事な金の巻き毛もうねりを上げて自分を絞め殺しに来そうだ。


「護衛がいらないなどと、奢り高ぶった事を!! あなたはこのケルトレアを治める王になる身なのよ! あなたの身はあなただけのものではないということが、ちっとも解かっていないようね? さっきも、騎士達との訓練を『どうでも良い』なんて言ったわね!? そこにお座りなさい、テウタテス!! たんまりと、お説教してあげるから!」

「……あ、姉上……」

 条件反射的にテウタテスは指差された長椅子に座り、恐怖に震えている。

 護衛騎士二人は、自分達はどうすれば良いのか、とシャナンに目で問うてみると、王女はちらりと二人を見て、扉を指差した。

「ターニャとショーンは、テウタテスが叱られて情けない姿を見ない為に、外で待っていなさい」


「畏まりました、シャナン様」

 シャナンの言葉に、ターニャが真面目な顔で頭を下げてくるりと背を向けて扉に向い、ショーンもそれに従う。

「ま、待て、ショーン! お前の仕事は俺の護衛だろうが! 今がその時だ! 身を守れ!」

 テウタテスの悲壮な叫びの後に、ドガッという鈍器を使った音が背後から聞こえたので、ショーンは嫌々振り返り、テウタテスに向けて合掌した。

「テウタテス様、俺を恨まないで下さいよ? ……どーぞ、ご無事で……」





 シャナンの私室から追い出された護衛騎士二人は、言われたとおりに、シャナンのテウタテスへのお説教が終わるのを扉の外で並んで待っていた。


「はぁ……。マジでテウタテス様、シャナン様に付いてアズルガートに行くのかよ?」

「あの方は、一度やると仰ったことは必ず成し遂げられるからな……」

 ショーンの溜息交じりの台詞に、ターニャは眉を寄せて頷き、ショーンはがっくりと肩を落とした。

「だよな……。監禁して出られないように封印魔法かけたとしても、意地でも扉を打ち破って、船底にへばり付いてでも行くよな」

「ああ」

 その様子が、二人にはいとも簡単に想像出来た。

 というか、二人は前例を知っている。 しかも、一度や二度ではない。あまり楽しい前例ではないので詳しく思い出したくはなかった。

 


「……俺、テウタテス様と一緒に船底にへばり付いて行くのは無理」

「どう考えても、アズルガートにたどり着くまでに息絶えるだろうな」

 ターニャが真面目な顔で頷くと、ショーンは恨めしそうな顔で彼女を見た。

「お前、そんなあっさりと……。ひでーよ」

「客観的に事実を述べているだけだ」

 相変わらずの冷たい言葉に、ショーンは益々肩を落とした。


「船底にへばり付いて行かないで、普通に船に乗って付いて行くのをディアン陛下がお許し下さるといーけどな……」

 姉への愛に燃えているテウタテスを止めるのは無理だと諦めて、ショーンはアズルガート王国へテウタテスに付いて行く事を仮定して考える。

 行くなら行くで、普通に行きたい。出来るだけ、問題を起こさずに行きたい。出来るだけケルトレアの印象を悪くしない為にも、テウタテスの暴走を止めなければならない。そう考えながら、荷の重さに又溜息を吐いた。


「多分、お許し下さるだろう。陛下は聡明でお優しく素晴らしい王だからな。船底にへばり付くと分かっているテウタテス殿下とお前を、むざむざ見殺しになどなさらないだろう」

 ターニャが言った言葉に、彼女には慰めるつもりなど全く無く、ただ事実を述べているだけだと解かっていても、慰められた。

「そーだよな。ディアン陛下なら解かって下さるよな。……でもよー、土地鑑の無いトコであの無計画に動き回るテウタテス様の護衛かよ。はぁ……気が重いな」

「敵対国ではなく、これから同盟を結ぼうという国だが、行ってみないと何が潜んでいるか分からないからな」

 いつも真面目な態度の騎士の言葉に、普段不真面目な態度のショーンは少し真面目な顔をしてターニャを見た。


「ああ、気張ってかないとな」

「うむ、油断出来ないな」

 ターニャは眉間に皺を寄せて頷いた。

 こんな色気の無い台詞を言う渋い表情さえも可愛いと思ってしまう自分は、どうしようもなく馬鹿だな、とショーンは思った。

「逆に、テウタテス様と俺がシャナン様の側にいるのは良いかもな。ターニャも他国でシャナン様を守るのは大変だろ? シャナン様はテウタテス様ほど無茶されないから守り難くはないけどさ」


 体格の良い男が多い騎士隊でも目立つほど背の高いショーンが、女性としては長身のターニャの顔を覗き込みながら微笑むと、ターニャは真面目な顔のまま真っ直ぐに見詰め返した。

 黙っていれば気品があり洗練されているにもかかわらず気さくでやんちゃな雰囲気を持つショーンは、家柄や地位からだけでなく容姿や人柄によっても女性に大変人気がある。

 しかし、数多の女をとろけさせる微笑も、天然騎士ターニャには全く通用しない。

 自分に少しも心を動かさない女に、どうして20年も片思いしているのだろうか、とショーンは自分が不思議で仕方がない。


「ああ、確かにそうだな。まぁ、私だけではなく他にも何人も護衛が同行するが、お前やテウタテス様の腕にはかなわないからな」

 そのターニャの言葉に、ショーンは頬を緩める。

 腕を認められているだけで、こんなにも嬉しい。というか、それしか認められている事が無いんだよな、と心の中でぼやいてみる。



「……ナーサも一緒に行ってくれれば楽なんだけどなぁ。無理かな」

 ショーンがぽつりと言うと、ターニャは少し目を見開いた。

「……ナサニエル殿は両陛下の筆頭護衛騎士なのだから、無理に決まっているだろうが。確かに……ナサニエル殿がアズルガートに一緒に行ってくれれば、何かと安心だが」


 仕事一筋でシャナン一筋で、男を異性として意識せず交際経験など皆無のターニャが、唯一少しだけ女らしい視線を向けるのはナサニエルだけだとショーンは心得ている。

 幼い頃から、ナサニエルの名を口にする時に少しだけ頬が緩んだり、ナサニエルと話している時は少しだけ女性らしい優しい雰囲気になる事を、ターニャは自分では全く気付いていない。

 このままずっと気付かないで欲しい、とショーンは思う。


 ナサニエルが長年片思いをしている相手がシャナンだという事も、ショーンは知っている。

 だから、シャナンが結婚してナサニエルが恋に終止符を打ち、シャナンと離れたターニャが寂しさを埋める為に自分の中のナサニエルに対する気持ちに気が付いたら、20年間も相手にされていない自分のほんの少しの可能性も消えてしまうことだろう、と思うのだ。

 一番の特別な存在であるシャナンを失った傷心の二人は、同士として慰めあうには丁度良いだろう。



 この世界では、女性の魔力が相手の男性より明らかに小さい場合は子供が出来ない。

 魔力の大きさは遺伝と関係するので、必然的に高い身分であればあるほど平均して魔力が大きい。

 地位のある者は人より有利である為に、長い年月をかけて魔力が上がる交配をしてきたからだ。魔力の大きい女性を娶る事を続ければ、必然的に魔力は高まるわけである。

 

 逆を言えば、身分が高く魔力の大きい男性は結婚相手が限られてしまう。魔力の大きな女性しか自分の子供を産む事が出来ないからだ。

 

 その点、ケルトレア王国最高位の臣民である聖騎士爵家同士ならば魔力も釣り合うし、二人は元々幼馴染として仲が良いのだから、あっさり結婚するかもしれない。

 更に、ターニャの父とナサニエルの父も幼馴染で親友同士なので、そちらの点でも問題がない。

 ショーンの亡くなった父も二人と親友だったので、ショーンもナサニエルと条件的には変わらないのだが、ターニャ自身に男として見て貰えていない点が問題だろう。


 自分の親友でその能力を大いに評価している次期騎士長のナサニエルなら、他の男に攫われるよりはずっと良いとも思う。

 ターニャが幸せならば、それで良い。幸せに出来るのが自分だったら、もっと良いのだが。

 自分も次期騎士長候補であるが全くその気は無いショーンは、ターニャの顔を眺めながら切なくため息を吐いた。



「つーかさ、ターニャ、お前なんで昔からナーサには『殿』が付くけど、俺は呼び捨てなんだ? 話し方も態度もナーサには丁寧で優しいし、扱いが違い過ぎるだろ」

 ターニャの少し柔らかくなった表情を見て、ナサニエルへの嫉妬を含んだ声で言うと、冷たい視線が向けられた。

「お前の日頃の行いの賜物だろう。敬称というのは、敬意を払っている相手に付けるものだ」

 身も蓋もない台詞に、ショーンはがっくりと肩を落とす。

「俺には敬意を払ってくれてないのかよー?」


「まぁ、お前にも多少の敬意は払っているが……。大体、お前も私を呼び捨てにするではないか。お互い様だろう?」

 真面目な顔で少し首を傾げる仕草が可愛い。ショーンは、なんだか色々とても悔しかった。

「多少、かよ……。俺がお前を呼び捨てにするのはなぁ……もーいーよ。クソッ」

「?? なんだ、そんな顔をして腹でも痛いのか? どうせまた食い過ぎだろう? 騎士たる者、常に戦える状態にしておかねばならぬのに、お前は意識が足りないぞ」

 目を瞬かせた後に、いつもどおり説教をするターニャに、ショーンはいじけて見せた。


「……お前は愛が足りねーよ」

「ぬ。どういう意味だ?」

 眉を寄せるターニャを、ショーンは怒った顔で見る。

「もういーよ! テディに癒して貰って来る!! そうだ、ナーサが駄目なら、せめてテディを連れて行くからな! 俺には癒しが必要なんだ!! 四六時中テウタテス様と一緒にいる俺の身にもなってみろってんだ!」

 ショーンの台詞にターニャも怒った顔をした。


「またそのような不敬な口の利き方を!! お前はテウタテス様の御身を守らせて頂いている事に、誇りは無いのか! 騎士ならば誰もが羨む任務だぞ! ……大体、弟は聖五騎士を任されているのだから、お前の都合で勝手に動けるわけないだろうが」

「いーや、動かしてみせるね! 陛下とチャーリー様にお願いするもんね!」

「なんだその『お願いするもんね』とは。気味の悪い喋り方をするな! それに、陛下と父上にご迷惑をおかけするのはやめろ」

 嫌そうに眉を寄せられて、ショーンは憤慨する。

 なんで喧嘩ばかりしているのか、分からない。いや、自分がいつもターニャを怒らせるのを楽しんでいるからか、とショーンは自分の不器用さを心の中で嘆いてみた。


「クソッ! なんで俺の喋り方に一々文句を付けんだよ! さてはターニャ、俺に惚れてるんだろ? 自分で気付かないだけで、俺のこと愛しちゃっているんだろ? ぞっこんらぶなんだろ? なぁ、もう、そういうことにしとこうぜ?」

「それはないだろう。どう考えても、それだけはない」

 真っ直ぐに目を見つめながらそんな台詞を言うなよ……と、ショーンは涙ぐみそうになりながら項垂れた。

「……そんなに、ハッキリキッパリ否定しなくてもいーじゃんかよ。マジ、愛が足りねーよ……」


「どこへ行くのだ! 扉の外で待っているよう、シャナン様に命ぜられただろうが!」

 立ち去ろうとするショーンをターニャが止めた。

「俺は先に聖騎士城に帰ってるって、あの暴君に伝えといて」

 笑って、ショーンはケルトレア王国の誇る騎士の詰所である「聖騎士城」に帰ろうとする。

 「城」と付くだけあって、騎士の詰所は広大でもう一つの城のような場所であり、騎士達を束ねる騎士長は「聖騎士城」の「城主」とも呼ばれる。


「ショーン! 待て!」

「丁度今、陛下が聖騎士城にいらっしゃってるんだ。それでアズルガート視察の件が受け入れられたって話をテウタテス様にされたものだから、あのしすこん王子がシャナン様のとこに爆走して来たってわけ。俺は陛下の御前で良いトコを見せる折角の機会を逃したってわけ。暴君を追いかけた俺の苦労をターニャは労ってくれなかったってわけ」


 ふざけたように笑って言ったショーンに、ターニャは益々眉を寄せた。

「陛下が聖騎士城にいらっしゃっているからといって、お前はここでテウタテス様をお待ちして、殿下に付いて帰るべきだろうが」

 ショーンはちょっと肩をすくめて見せた。

「シャナン様の『愛のおしおき』がいつまで掛かるか分かんないだろ? 陛下が聖騎士城にいらっしゃる内に、テディを同行する事をお願いしたいんだよ。チャーリー様と陛下が一緒にいらっしゃる時に頼めば話が通り易いだろーし」


「しかし……」

 口ごもるターニャの肩を軽く叩いて、ショーンが笑った。

「大丈夫だって。シャナン様のおしおきを受けた後のテウタテス様は、しょんぼりしてるから、俺に直ぐに会いたかねーだろーし。大好きなお姉ちゃんに叱られて、いじけながら大人しく聖騎士城に帰って来るって。じゃ、頼んだ」


「ショーン!」

 立ち去る途中で責める様に名を呼ばれたショーンは、にっと笑ってターニャを振り返り、片目を瞑ってみせた。

「愛してるぜ、ターニャ! 又、後でな!」

 呆れたようにショーンを見送りながら、ターニャは溜息を吐いた。



「まったく困ったやつだ……」


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