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第二十三話 「鳥使いの焼き菓子と不安定な椅子(中)」


「あー、だから、何度誘われても、俺はその『御山』に行く気はないって。……っつーか、お前ら、勝手に人の部屋で寛いで酒飲んでるって、どうよ?」


 その夜、仕事を終えてテウタテス王子の部屋の隣に用意された護衛用の部屋に帰って来たショーンは、アズルガートに着いてから毎日のように会いに来る若い鳥使いの夫婦が、長椅子に腰掛けて仲良く酒を飲んでいるのを見て、ガックリと肩を落した。 

 二人の肩に乗っていた鳥達が、キュイーと嬉しそうに鳴いて飛んで来て、ショーンの両肩に留まる。

 やたらと懐かれている鳥達の扱いはもう手馴れたもので、よしよし、と背中を撫でてやると、二羽とも嬉しそうに顔を摺り寄せる。


「遅かったから、先に始めさせていただきましたわ」 

 うふふ、と微笑む青味がかった黒髪に青い瞳の優しげな顔立ちの美女から差し出されたグラスを受け取ると、ショーンは仕方なさそうに彼女と彼女の隣に座る緑味がかった黒髪の自分と同じくらい大柄な男とグラスを合わせて、酒を呷った。

 男は既に大分酒を飲んだのか、少し赤い顔をしている。潤んだ目で隣に座っている妻を抱き寄せて膝の上に乗せると、ショーンが非難の声を上げた。

「ガルム!! いちゃつくなら自分の部屋に帰れ! 見せ付けてんじゃねー! っつーか、マジ、俺、可哀想!! なんで疲れて帰って来て、招いてもいない客が俺の部屋でいちゃこらしているのを見なきゃなんねーんだ!? 一人身には目の毒だっつーの! ああ、ターニャ!! どうして俺の愛を受け入れてくれねーんだ!!」

 机にうつ伏せ、ううっと嗚咽を漏らす。


「あらあら。ごめんなさいね。でも、わざとじゃないのよ。ガルムはこう見えてお酒に弱くて、2杯目でもう酔っ払っているの」

 嘘だろう? デカイ図体とゴツイ顔してありえない。そう思いながらガルムに視線を向けると、フリムを抱いたまま、ショーンを少々虚ろな目で見返しながら眉を寄せた。

「それだけ鳥使いの素質があるのに、何故鳥を持ちたがらないのだ? 戦力を上げたくないのか?」

 赤い顔で首を傾げて言うガルムの、いつもの寡黙で厳しい顔つきの彼との違いが意外で、ショーンはガルムの4歳年上の妻フリムに目配せをすると、フリムは、うふふと、嬉しそうに笑って夫の頬を撫でた。

 酔うと可愛いという理由で、いつも妻に飲めない酒を飲ませられている事をガルムは知らない。


「いや、確かに、鳥さん達はすげー有能だと思うぜ? 言葉を運べるのも、大きくなった鳥さんの背に乗って空を飛べるのも、驚いたし。ついでに可愛いしなー」

 両肩に乗る鳥達の喉元をちょいちょいと撫でる。

「そうだろう! 鳥の素晴らしさがわかっているではないか!! 流石、我が同胞!!」

 迫力のある見た目のガルムが、にこにこと嬉しそうに言うのを見て、ショーンは思わず笑ってしまった。フリムはガルムの頭を「可愛い」と撫でてから、両肩に鳥を留めているショーンを見て首を傾げた。

「本当に、どうして鳥を持ちたがらないのかしら? 折角、そんなに鳥使いの素質があるのに」


「だから、目立ちたくねーんだって言っただろ~」

 そう言って溜息を吐き、ショーンはグラスを空にした。

「だから、何故なのだ?」

 眉間にしわを寄せるガルムを見て、ショーンは肩を竦める。

「まぁ、こっちにも色々事情があってさ~」

「タレ目の騎士に弱みでも握られているのか?」

「タレ目って……くくく。ナーサ、他に特徴無いのかよ~。って、タレ目でナーサと瞬時に判断する俺も同罪か! いや、とにかくナーサは関係ねーよ」


 うふふ、と楽しそうに微笑むフリムを膝の上で抱きかかえ直して、ガルムが不満そうな声を上げる。 

「だが、お前の方が戦闘能力は上だろう。何故お前ではなくがタレ目が次期騎士長なのだ?」

「次期騎士長って、なんでそんな情報持ってんだよ~。もう。……俺は騎士長になるって柄じゃねーんだってば! タレ目……じゃなくて、ナーサに頼ってんの! これも情報として持っとけよ」


 っていうか、可愛い奥さんを膝の上にだっこしながらそんな事を力説されてもね? っつーか、いつまでだっこしてんの? クソ羨ましいんだけど? 喧嘩売ってんのか? 畜生、どうせ俺は寂しい一人身だよ! と心の中で酔っ払いに猛烈に絡むショーン。

「しかし、鳥がいれば、お前が長になれるだろう?」

「だーかーらー! なりたくないっつーの!」

「解せん。お前の父親は長だったのだろう?」

「ひぃ! お前ら、何でそんな事まで調べてんの? 俺がそんなに好きなわけ? 親父は親父、俺は俺! 俺はお前たちの意図がわかんねーよ。俺なんかに鳥は勿体無いって思わねーの? 他国に鳥を連れてっちゃうんだぜ? いいわけ? やっぱ、俺を仲間にしてアズルガートに留めておこうって作戦なんじゃねーの?」


「あら、鳥の為ですわ」

「は?」

 微笑むフリムにショーンが眉を寄せると、ガルムも頷いた。

「お前を待っている鳥が可哀想だからだ」

「益々、謎。……とにかく俺はさ、っつーか、俺の家はさ、出来るだけ目立たぬように、それでいてこの地位を与えられた事を誰もが認めるくらいには国にとって有益であるようにしてなきゃいけないの」

「……意味がわからんが、鳥がいれば優秀さを認めさせられるぞ」

「目立つだろ!」

「うふふ。恥ずかしがりやさんですのね?」

「あー!! もう! 他王家の血筋を目立たせてどーすんだよ!!」


 どん、とグラスを乱暴に置くショーンに、ガルムが首を傾げた。

「他国の王家の血など、気にしないだろう?」

「俺の家は、厄介なことに今のアズルガート王朝が滅ぼした前アズルガート王朝の王家の血だけじゃなくて、ケルトレア王国の前にあった国の王家の血も入ってんの! ここは調べてねーわけ? 400年以上経つのに、気にされまくってるっつーの!! 今の王様はうちを冷遇しねーけど、その前何代かの王様達には良い扱いを受けなかったし、それ以前も歴史上色々あったし気を使うんだよ」

「まぁ! 前ケルトレア王家の血筋もお持ちでしたの……」


「前ケルトレア王家じゃなくて、ケルトレア王家がブレリア王国の一領主だった時に下克上で滅ぼしたブレリア王国の王家だけどね。あんた達の気にしている前アズルガート王国最後の王子の妃がブレリア王国の王女だったから、前アズルガート王国が滅びた時に二人してブレリア王国に亡命したんだよ」

「……ブレリア王国は、ケルトレア建国王と聖五騎士が滅ぼしたのだろう? お前の家は聖五騎士の家ではないのか?」

「ああ。親を裏切って新王国建国に加担した王女と、国を乗っ取られてトンズラした王子の息子が聖五騎士の一人で、俺のご先祖様だよ」

「それは又、上手い事やりましたわね。うふふ」

「まーね」

 確かに「上手い事やった」と思う。

 前アズルガート王朝が崩壊した時に殺されるはずだった二人が無事にブレリア王国に亡命出来ただけでなく、その亡命先の祖国が滅亡する時に、新しい権力に乗り換えてそこで不動の地位を得たのだから、相当なものだ。上手い事やったとしか言いようがない。

 ショーンはフンッと自嘲的に鼻を鳴らす。



「あんた達鳥使いは、アズルガート前王家の生き残りの子孫なんだろ?」

「ええ。あなたとは遠い遠い遠~い親戚ですわ」

「……なんつーか、妙なもんだな。俺は本当にアズルガートの前王朝の王家の血を持つんだな……」

 前王朝の王族の子孫が新王朝の王族の護衛に納まっているということに、驚きつつも、自分も似たような境遇か、と溜息を吐いた。

 彼らも色々大変なんだろうな、と思いつつショーンが体を寄せてくる鳥達を撫でると、ガルムが頷いた。

「しかも、直系だ。……それが、奴らがお前を祭り上げたがる理由だ」

「……鳥の御山に行って、俺が鳥を得たら余計に敵さんの思う壺じゃねーの?」

「御山に行くには理由が要る」

「……俺を出しにして敵を探るって魂胆だな?」

「ああ」

 ショーンは肩に乗せていた鳥達を鳥使いに返すと、酒を注いで一口飲んだ。

「……鳥さんにさ、生まれ故郷のアズルガートを離れさせるのは可哀想だろ?」

「鳥は、仕える主を待っているのです。主の側にいる事が、一番の幸せなのですわ」

 自分の鳥を撫でながら微笑むフリムに、ショーンは首を傾げた。

「勝手に人間の都合でそう思っているだけじゃないのか?」

「違う。鳥を持てば彼らの心が解かる」


 真剣な顔のガルムに、ショーンは再び溜息を吐いた。

「……俺はテウタテス様の護衛なんだよ。だから側を離れるわけには行かない」

「それならば、問題ないですわ」

「は?」

「テウタテス王子には、もう了承を得ている」

「え!?」

 目を瞬かせるショーンに、鳥使い達は続けた。

「タレ目と童顔と赤毛と餓鬼達がいるから、お前は不要だそうだ。寧ろアズルガートで身請けをしてくれてもかまわぬと言っていたぞ。仕え甲斐の無い主だな」

「本当に。あなたが気兼ねなく『御山』に行けるように、気を使って仰ったご冗談かもしれませんけれど」

 手にしていたグラスを再び音を立ててテーブルに乱暴に置き、ショーンは叫んだ。

「ぜって~冗談じゃなくて本気だ!! テウタテス様、マジひで~~~!!」






「ご足労頂きましてありがとうございます。シャナン王女、テウタテス王子、それに皆さん」


 明朝、昨晩リズィが襲われた事件を聞いたケルトレアの面々は、ダグに呼ばれて客間に集合した。

 待っていたのは、ダグ王子と彼の鳥使いである双子のラズとリズィ。

「キースから、昨夜鳥使いが襲われたという話は聞いている。キースとランスロットが巻き込まれたそうだな?」 


 怒りを顕にしているのはテウタテス。ダグを狙う者がいると知って、一刻も早くシャナンを連れてケルトレアに帰るべきだと主張している。

 シャナンとダグが結婚しない良い理由が出来た、とテウタテスがほくそえんでいるのを知っている騎士達は、どうしたものかと頭を抱える。

 テウタテスとシャナン以外は、ダグ王子の王位継承を狙う勢力があるという状況を、ケルトレアの宰相から事前に聞かされていたので、このままケルトレアに帰ることが許されないことを心得ているのだ。弟王子が反対しようが、アズルガート王国の王子とシャナン王女の縁談は決定事項である。

 どの王子が相手になるかという想定は、それぞれの思惑から異なるかもしれないが。 


 ダグ王子の鳥使いリズィを襲ったのは、同じ鳥使いではあるが彼女の父が元締めをしている組織に属さない者達である事と、彼らを利用している者がいるらしいという事がダグ王子の口から説明された。

 証拠を押さえて、彼らを利用している人物を捕まえる為にも、鳥使いの妖鳥の生息する「御山」に篭っている彼らに接近すべくショーンに力を借りたいとダグ王子が言うと、シャナンは直ぐに反対意見を述べた。

「敵の本拠地にショーンを向かわせるなどという事には、わたくしは許可できませんわ」 

「姉上、それは俺がもう許可しました。ナサニエルとテッドとリヴァーが揃っていれば、ショーンなど全く必要ありません。キースとランスロットもいますし、姉上にはターニャも付いていますし」 

「なんですって!! 勝手に許可したって何考えてるのよ、テウタテス!! 危険じゃないの!! ショーンに何かあったらどうするの!!」   


 可憐ぶりっ子を忘れて叫ぶシャナンに、ラズは、ぽかん、と口を開けたまま驚いた顔で固まる。

 リズィは驚いて息を飲んだ後、神妙な顔をして恐る恐る主を見た。ダグ王子は驚きもせずに、いつもどおり、にこにこと微笑んでシャナンを見ている。 

 しまった! と気付いてシャナンが咳払いをした後に、優雅に微笑んでダグを見た。 

「そういうわけですから、ショーンは『御山』とやらには行きませんわ」  

「でも、本人は行く気みたいですよ? そうでしょう?」 

 のほほんと笑っているダグに急に問われて、ショーンは気まずそうにシャナンを見た。

「え? いや、まー、なんつーか、その……流されたって言いますか……でも、シャナン様が嫌だって仰るんなら勿論行かないですよ?」 

 ショーンの台詞に、シャナンは不可解そうに眉を寄せる。 


「ねー、ちょっと、話が見えないんだけど?」 

 気まずい沈黙を、声変わり前の少年特有の綺麗な高い声が破った。 

「なんで、ショーンがテウタテス様の護衛をわざわざ外れて行くの? そもそも、なんでケルトレア人が行く必要があるわけ? アズルガートって、そんなに人材に不自由しているの? 自国の問題を自国民で解決できないの?」 

 類稀なる美少年である事を自覚しているランスロットが、それを活用しながら可愛らしく首を傾げて周りを見回す。 


「あー、なんだ、その……俺は鳥使いになる素質を持っているんだそうだ」 

 言い難そうに言うショーンに、ランスロットが眉を寄せた。 

「何それ、なんで? 素質って何?」 

「ショーン殿が鳥使い達と同様に、前アズルガート王家の血を継いでいるからですよ。妖鳥との古い血の契約により、鳥使いの血を持たない者は結界のある『御山』に入れないのです。鳥使いでも、用の無い者は入れません。基本的には、自分の鳥に会いに行く為のみ足を踏み入れることの許される聖地ですから」 

 その王家を滅ぼした者の子孫であるダグ王子が笑顔を崩さないまま言うと、キースがはっとした顔でリズィを見た。

 目が合うと、リズィは、無意識に彼女の肩に留まっている鳥シーラに手をやりながら俯いた。  

 ランスロットは、鳥使い達の正体を知って驚いて彼らをまじまじと見た後、にっこりと笑った。

「じゃあ、僕も行く」 

「「え?」」 

 一斉に、その場にいた者達がランスロットを見た。    


「だって、鳥使いの血、つまり、アズルガート前王朝の王家の血が、ちょこっとでも入っていれば良いんでしょ? ショーンの血だって、400年かけて薄れているわけだし」 

「そりゃそうだけど……あー、ランスロット君ってショーンと血縁者かよ?」 

 ラズが言うと、ランスロットは、にやり、と笑った。 

「うん。うち、150年くらい前に、ショーンの家からお嫁さん貰っているもん」 

 そういえばそうか、とケルトレアの面々が納得する。それ以来、ショーンのグレンファー家とランスロットのネグリタ家は特に仲が良い。聖騎士爵家は5家とも皆仲が良いが、やはり血が繋がっているという意識があると無条件に親しみを持ち易いものだ。 

 

「なるほど。では、御山に入れますね。鳥を得られるかどうかはわかりませんが……」 

 リズィが頷いて言うと、ランスロットは、非難の声を上げた。 

「えー? そんなー。 入っても鳥を得られない時もあるの?」 

「はい。……得にランスロット殿は、他の獣使いの民族の血が強く出ているようなので、駄目かもしれません」 

 すまなそうに言うリズィに、ランスロットは、ぷぅっと頬を膨らました。 

「ちぇ~。キーラを口説く良い手段を手に入れられると思ったのに~。……アドーの血かぁ」 

 有名な騎馬民族であるアドーの民が始祖であるネグリタ家の末っ子が首を傾げると、リズィが頷いた。 

「ああ、なるほど。馬使いですね」 

「その呼び名は、なんか嫌」 


「では、僕も一緒に行きます」 

 不満そうなランスロットの横で、キースが言うと、ラズとリズィが顔を見合わせた。 

「キース君もショーンと血が繋がっているのか。……なるほどね」 

「僕の曾祖母はランスロットの家の出身なんです」 

「……そうでしたか。では、御山に入る資格をお持ちですね」 

 リズィが頷くと、キースは嬉しそうに笑い、その笑顔を見てランスロットが片眉を上げた。 


「ちょっと……勝手にもう……」 

 小さな声でそう言って、シャナンが助けを求めようとナサニエルを見ると、ケルトレアの面々のまとめ役のナサニエルは、笑顔で頷いた。 

「良い案だと思いますよ。『御山』には不思議な力があって、戦おうとすると不思議な力によって押さえつけられて戦う事が出来ないと聞いています。寧ろ、王城よりも安全かもしれません」 

「そうなの!? それを早く言いなさいよ! でも道中、敵に襲われるかもしれないわ」 

「ショーンとランスロットとキースが、ですか?」  

「……そうね、まぁ、まず返り討ちにするわね……。でも知らない所だし……」  

 それでも心配そうにショーンを見上げるシャナンに、ダグはにっこりと微笑んだ。 


「リズィが道案内しますし、大丈夫ですよ。『御山』はとても迷いやすいそうですが、鳥使いの中で唯一『御山』で迷わなかったそうですから。普段もリズィは方向感覚に優れていて、絶対道に迷わないんですよ」 

「そうなの? 凄いわねぇ……。まぁ、ショーンとランスロットだけじゃ、リズィさんに迷惑かけると思うけど、キースがいれば大丈夫ね」 

「え、何それ、シャナン様? 僕ってショーンと同等なの?」     

「え、それって10歳以上年下のガキと並列にされた俺の台詞じゃねーの?」  

「じゃあ、リズィさん、キース、任せたわよ」  

 すっかり、可憐ぶりっ子を忘れているシャナンがショーンとランスロットを無視してキースとリズィを見て微笑むと、二人はしっかりと頷いて見せた。

「はい、シャナン様」 

「お任せ下さい、シャナン王女」  

  

 


 結局、ショーンとキースとランスロットが、リズィの道案内で鳥の『御山』に敵の動向を探りに行く事で話は落ち着いた。 

「シャナン様はゆっくりしていかれたら? ダグ王子とあんまり話もしていないでしょ? ダグ王子も、シャナン様をでーとにでも誘えば良いのに。僕とキースは城下街にも遊びに行ったけど、シャナン様やターニャ殿はまだ行かれていないんでしょ?」 

 話が終わって解散する時に、部屋を去ろうとするシャナンにランスロットがそう言うと、ケルトレアの面々がそれぞれ異なりつつも概ね皆ランスロットの言葉を非難する反応をした。その反応を見て、ランスロットは肩を竦める。


「だって、婚約に来たんだから、でーととか、えっちとか、すべきでしょ?」

「すべきでないぞ!! 断じてそんなこと、するものか!! 何を馬鹿なことを言っているのだ、ランスロット!! この縁談は考え直すべきだと言っているだろうが!! え、え、えっちなど……そんな羨ましい事させてたまるか!!」 

「えー。でも、結婚に体の相性は大事だって言うし」  

 ワナワナと怒りに体を震わすテウタテスに、ランスロットは可愛らしく首を傾げて爆弾発言を落とす。

「……ランスロット」 

 咎めるように名を呼ぶ親友の声に、ランスロットは、はっとして、声の主に許しを請うような表情を見せる。

「……ごめんなさい」

「僕じゃないでしょう?」 

 不敬罪に問われかねない発言をする親友が何故か自分に謝るので、キースはランスロットの肩を押して謝る相手の方を向かせた。するとランスロットは素直にシャナンに頭を下げる。 


「……シャナン様、ごめんなさい。お好きなだけ殴って下さい」  

 いつもならば殴られているところなのでそう言うと、可憐ぶりっ子の仮面が半分剥がれているシャナンが顔を引き攣らせながらも、うふふ、と手を口に当てて笑った。

「嫌ですわ、ランスロット。殴るだなんて、可笑しな冗談ですわね? うふふ」 

「……うわぁ、寒気がするよ」 

 小声で言うランスロットに、シャナンは目を細めて、「それ以上喋るとどうなっても知らないわよ!」 という視線で脅しをかける。

「……ある意味、殴られるよりこっちの方がずっと恐ろしいよ……」

 そう言って、親友の陰に隠れながら、ランスロットはダグを見た。相変わらず、何を考えているのか読み取れない笑顔で、楽しそうにシャナンを眺めている。 


(今更また、可憐ぶりっ子しても遅いのに。もうバレちゃったんだから、地でいけばいいのになぁ。そっちの方がよっぽど可愛いのに。変なシャナン様。……ダグ王子だって、後の二人の王子だって、可憐ぶりっこよりも、いつもどおりのシャナン様の方が絶対好きだと思うけどなぁ? 理解出来ないや。うーん、それにしてもダグ王子は全く動揺をみせないなぁ) 

 ちぇ、つまんないの。そう思いながら首を傾げて、ランスロットは言った。 


「ダグ王子、シャナン様とのでーとで、シャナン様を楽しませてさしあげてね!」

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