刀じゃなくても一刀必殺
死神「魂魄斬滅!!」
死神は右手で大鎌を振り回し、そして残りの四肢を使った体術を交えながらの近接格闘。
対する勇者は同じように右手の剣で大鎌を受け止め、、左手の盾で死神の体術を受け流すように防御する。
もはや魔物の目にも止まらぬ速さで、鋼と鋼が、肉と肉がぶつかり合う
死神の斬撃が勇者の横腹を掠め、鮮血が飛び散る。だがそれは次の瞬間。切り裂かれた服の下から謎の物体が飛び出し、それが傷口をふさぎ、元通りになった
勇者「あはは!! 激しくぶつかり合ってる! 私たちこれでひとつ!! 二人とも死んで魂はヴァルハラで結ばれる!! これが私の求めてたハッピーエンドってやつね!! あはははははははああhhhhh!!!」
死神が勇者の相手をしている間、魔王は強化術式を組み立て、己の力を極限まで高める。どんな相手でも侮るなかれ、魔王一族の家訓である
魔王「狂っているとかいうレベルじゃないな。魔力結晶による狂人化、それに伴うチート能力で自動再生……これは私も本気でいかなくてはならないな」
死神「策はあるのか? オラァ!」
ガギィン!
魔王「私の魔力制御術式を全解放する。後隠し玉も使わせてもらう。なに、出会ったころの死神程度の力は出せるようになるさ。ほんの数秒、足止めしてくれればいい」
死神「おお恐ろしい恐ろしい。末恐ろしい17歳だよまったく」
勇者「私の魔法使いクンといちゃこらしてんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!! 」
ガッギィン!!! ギリギリ…
死神「おっと! お前の相手は小生だろう? 相も変わらずえげつねぇ太刀筋だ。一撃で殺さずわざと急所をはずし、筋肉の腱や関節を狙うとか……どっかもがれるんじゃねぇか? 小生」
勇者「出会ったころはもやしだったのに、今じゃそんな大きな大鎌片手で振り回せるんだね……たくましくなったその体、隅々まで切り裂いて味わってあげなきゃ」
死神「狂気ってレベルじゃねーぞヲイ。結晶の魔力侵食が精神まで進んできたのか?」
ズズ……
魔王「この城に眠りし魔族の魂よ……わが体に宿りて誇りを見せよ! 肉体滅びようとも誇りは不滅、貴殿らが魂、我、魔王と共にあり! 生きとし生けるもの全て屍と化さん! 生者を憎め! 神を恐れるな! 眼前敵をこの城から生かして返すな!
魔城魂魄 大返霊 !!」
魔王が言の葉を紡ぎ終えた瞬間、禍々しい光が決戦場を包む。石壁におどろおどろしい魔方陣が浮かび上がり、そこから大量の魂が放たれた
魂はしばらく空中を漂い、そして一瞬のうちに魔王の体の中へと吸い込まれていく。
死神「この城で死んだ魔族の魂を吸収して戦闘力向上か。この城、やたら魂が停滞してると思ったらそういうことか。死んでも魔王に仕え続ける……不気味っちゃあ不気味だが、ロマンがあるねぇ」
勇者「化け物の魂吸い込んだくらいで私に勝てると思わないで!! この泥棒猫が!! 悪魔の吐息!!」
勇者が空中に魔方陣を描き、そこから万物を腐り果てさせる毒の風を放出する。
死神「毒系最上級呪文か。くだらねぇ、燃やしてしまえば何の意味もねぇ。煉獄神の業火(クトゥグァの怒り)」
指パッチンで炎の玉を指先に出現させる死神。放たれたピンポン球くらいのその火球は、毒の風と衝突した瞬間、シャレにならない大爆発を起こした。何でこの城壊れないんだ? っていうくらい
煙が晴れると、やはり勇者はそこにいた。彼女が勇者に選ばれた理由、それは彼女が無意識に纏っている魔法防御壁にある。死神の魔法ですら傷つけるのは容易ではないくらいだ。
今更だが、勇者もとてつもないチートなのである
魔法防御壁は彼女の素肌数ミリのところで展開されているので、服や防具を護ることはできないその証拠に、身につけていた防具が砕け、素肌だったところが見えている。
そう、素肌だったところだ。だが今はそれは素肌ではない。素肌があるべき場所は、気味の悪い色をした謎の物質で覆われていた
勇者「あ~あ、鎧が砕けちゃった。ハッ?! 私の柔肌が魔法使いクンの目の前に! 魔法使いクンが欲情しちゃうかも~~」
勇者がクネクネするたびに、ギチギチというこれまた気味の悪い音が微かに聞こえる。あまりの惨状に死神も顔をしかめる
死神「う~~わ、ほぼ全身侵食されてやがる……生理的欲求で刺激されたのは消化器系のおう吐反応だけだな」
魂の吸収が終わった魔王が攻撃に加わった
魔王「女王蜘蛛の斬撃糸! 狂骨の魔導砲台!」
死んでいった魔物の力が、今の魔王には宿っている。彼らが使えていた技が魔王にも使えるようになるのは、至極自然なことだ
勇者「関係ないって言ってんでしょぉぉ!!! 魔法使いクンに近づかないでぇぇぇ!!!」
魔王「クッ…」
勇者の怒りの斬撃が衝撃波となって魔王城の床を這う。何とか魔王はかわすが、床の破片が魔王の左目を貫いた
魔王「うぐぁあ?!」
死神「魔王?! (左目が潰れてやがるな……これ以上魔王に負担はかけられねぇ)
一撃で仕留めるしかねぇな……回復系統の魔法は苦手なんだが、今は止血魔術で我慢してくれ、もう少しの辛抱だ」
魔王「いざとなれば刺し違えてでも殺してやるさ、ゴホッ……歴代最強魔王の名にかけてな」
死神「いや、小生しか止めはさせない。どうやら魂が肉体に無理やり縛り付けられているようだ。おそらく魔力結晶の影響だろう。
肉体に縛り付けられた哀れな魂を強制的に刈り取れるのは死神の大鎌だけだ。死では肉体と魂を引き剥がせそうにねぇ」
魔王「隙くらいは作ってやる、何秒欲しい?」
死神「10秒」
魔王「容易い」
死神「頼むぜ、魔王」
エゲつない、ニヤリとした表情を二人は同時に浮かべた
魔王「嘆き! 苦しみ! 朽ち果てよ! 神滅死壊螺旋弾!!」
魔王の、全身全霊を込めた防壁突破呪文を放つ。禍々しい闇の刃の嵐が、勇者の防御壁を徐々に削り取っていく
勇者「!“#$%‘防(OLKM>OP+L壁<IUJHIK+K*P*」
ギギギギギギギギギギ… バキィーーーン!!
勇者「?!?!」
死神「……前の旅で仲間が傷ついていくのを何度となく見た。だが仲間の心が壊れていくのを見るのは傷つくことよりも数倍辛いな」
天高く死神が大鎌を掲げる
死神「さようなら、俺の……」
振り下ろされた死神の大鎌は勇者を傷つけはしなかった。ただ単純に、魂を刈り取ったのである。肉体に影響は与えない、死神の大鎌の一撃は魂持つものにとって脅威だ。一撃で魂を刈り取られてしまうから。
糸が切れた操り人形のように、勇者は地面に崩れ落ちた