もしかしなくても、これってデート?
黒月「死神、仕事サボってデートか?」
死神「悪漢に追われてはいないがな」
魔王「デートとは何だ? 日付か?」
死神「小生が知るか」
死神の必死の交渉(ほぼ恐喝)の結果、リビングデッドの許可も下り、私と死神は城下町に来ていた。人間界の城下町とほぼ遜色ない町並みが広がっている。先代魔王の努力の結晶といえるだろう。
勇者たちが攻めてくるときは一時的にほかの場所へと転移させる術式まで作られている。わが一族ながら素晴らしい出来だ。
そんな町並みに私たちはいた
通行人A「(何だあいつら…昼真っから見せつけてくれやがって…)」
通行人B「(リア充大爆発しろ)」
魔王「さっきから視線を感じるのは気のせいなのか? 死神」
死神「気のせいじゃないだろ。小生も自分に向けられる男どもの射殺すような視線が突き刺さっているのを感じている。しっかし、魔界の城下町も結構栄えてるなぁ。魔王の統治がうまくいっているせいかな」
魔王「褒めても何も出んぞ? で、死神は何をしに街まで来たのだ?」
死神「ああ、自己紹介で小生、炊事選択家事育児が出来ないと言ったな」
魔王「ああ。今思い出しても腹が立つ。お前を殺せるならこの世でもっとも残虐な方法で殺してやりたいほどに」
死神「そう怒るな。話を戻すが、小生は出来ないのではなく、やったことがなかったんだよ。どうせ暇ないっちょやってみっかぁ的な。その道具や本がほしいのと、あとこの世界を見てみたかった。お前の統治する、魔界という世界を」
仮面を外しているので、鬼のようなドヤ顔が直に見える。もはや苦情がくるレベルである
魔王「最後だけカッコつけりゃいいと思うなよ死神。四十路近くのフレンチシェフと遜色ないドヤ顔をするな」
死神「とりあえず適当に歩いてみて気になるモンがあったら立ち寄るみたいなぶらり旅だ。行くぞ。いろいろあってもう昼前だ、飯屋を探すぞ」
魔王「スルーするな! まったく……そういえばお金はあるのか? というか食事が必要なのか?」
死神「まぁ食わなくても存在はできるが味覚はあるんでな。……いいじゃないか、滅多に魔界に来てこうやって観光なんかできないからな。一応小生たちが使っている硬貨はある。珍しいもんでできてるから高く売れるんじゃないか?」
死神が懐から巾着を取り出し、謎の物質を取り出す。硬貨のような形をしているが、そこからあふれ出す言いようのない何かに、私は少し寒気を感じた
魔王「変わった色をした硬貨だな……ってこれ!! 高純度魔力結晶でできているじゃないか!!私ですらここまで大きなものは見たことがない!!」
死神「え、なにそれおいしいの?」
魔王「凄まじい力を発する魔力の結晶といわれる物質だ、手にしたものは圧倒的なチート能力を手に入れることができる。これのせいで一度魔界が滅びかけたことすらある。先々代の魔王が生涯をかけて、やっと戦争を鎮圧できたんだ……」
死神「(そういや先輩がずっと前にどっかに財布落としたとか言ってたっけ。帰ったら報告だな) そうか。安全性も考えてあまり使わないほうがよさそうだな。だがしかし妙だな、普段はこれからそんな力は感じられんが?」
魔王「正直なところ私にもわからない。謎が多すぎるんだ。魔力の結晶と言ったが、実際は魔力とは違う、異質なものでできているらしい。並みの魔族では扱いきれないから研究もまったく進んでいないんだ。なるほど、死神の世界の物質なら異質なのも納得がいく」
死神「随分とエグいもんだったんだな、これ」
魔王「だがある一定の大きさになると力は失われ、代わりに綺麗に光りだすんだ。装飾品の最高峰としてとても高値で取引されている。そうだな、5ミリほどで城一つは買えるな」
死神「この仕事が終わったら小生、魔界で暮らすんだ……」
魔王「ここが戦場でなくてよかったな、死神よ?」
死神「生きてるかも死んでるかもわからないような存在に言うか? それに小生は死を司るもの、魂を狩るものだぞ?」
魔王「そうだな。フフッ」
死神「しょうがない、ここは魔王の城のバイトで稼いだこの世界の硬貨を使おう。こんなもんが魔界や人間界に広まったらエラいことになる」
魔王「掃除選択家事育児もできんお前が何で稼いだのだ? というか私に報告なしであいつらはなにやってるんだ…」
死神「戦闘訓練。スケルトンでも並の勇者なら対処できるレベルにまで上げておいた。今じゃわざとバラバラになって自らの体をビット化して、魔法弾でオールレンジ攻撃も行えるようになったぞ」
魔王「それなんてお兄さんだよ。そういえばスケルトンが組みなおされてるのを最近見ないな」
死神「自己修復もできるようになったからな。アラクネもだいぶ強くなったぞ。今じゃ糸で金属を切断できるようになってる」
魔王「どういう戦闘訓練をしたらそうなるんだ? まぁいい、昼食のあとはどこへ行くんだ?」
死神「そうだなぁ……本屋だな。この世界の知識を少し詰め込んでおきたい。暇をもてあました死神の戯れだ」