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探偵は死体を推理しない、爆弾の場所を当てる  作者: 早野 茂


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第4話「屋上の下に仕掛けられたもの」

暗闇に包まれた地下搬入通路は、地上の華やかな商業施設とは完全に別世界だった。

ひんやりとした空気が肌を刺し、奥へ進むほどに微かな機械音が重く響いてくる。

相馬は懐中電灯の光を走らせ、幾重にも連なる太い配管の隙間を舐めるように照らした。

彼女のすぐ後ろを歩く黒瀬の足取りは、ひどくぎこちない。

モニターの前で論理を構築する彼にとって、むき出しの物理空間は不快なノイズなのだ。

「現場というのは、無駄な情報が多すぎる」

黒瀬が不機嫌な声で背後から呟くと、相馬は一切振り返らずに短く答えた。

「黙ってついてこい。今はあなたの頭脳だけが頼りだ」

先ほどの暗闇の中で響いた異音がどこから発せられたのか、確信はまだ得られていない。

だが犯人がこの広大な空間のどこかに爆発物を隠していることは間違いない。

出題者の意図を的確に暴き出すためには、黒瀬の鋭い読解力が必要だった。


「相馬さん、図面データを送りました。搬入口の構造はかなり複雑です」

無線の向こうから情報解析班の篠宮の冷静な声が届くと同時に、地上から駆けつけた所轄の警察官たちが地下通路へと次々に雪崩れ込んできた。

彼らの無線のスピーカーから漏れる切迫した声が、静寂だった空間を喧騒で塗りつぶしていく。

上のフロアでは深夜の清掃員たちに、緊急避難の指示が出されているはずだ。

相馬は到着した部隊に手短に状況を伝え、広大な地下エリアの徹底的なローラー作戦を命じた。

しかしこの入り組んだ巨大な施設の中で、小さな爆発物を見つけ出すのは至難の業だった。

「手当たり次第に探しても間に合わない。奴の思考の法則があるはずだ」

相馬が焦燥を隠しきれずに呟くと、黒瀬は壁際の太い鉄柱に寄りかかって静かに目を閉じた。

彼は現場のけたたましい喧騒から意識を切り離し、再び純粋な思考の海へと深く潜っていく。


「犯人は、警察に爆弾を探させるつもりなんてない」

黒瀬の感情を排した低い声が、無線のノイズを鋭く貫いて相馬の耳に届いた。

「どういう意味だ」

相馬が怪訝な顔で問い返すと、黒瀬はゆっくりと目を開いて冷たいコンクリートの壁を見た。

「隠す気がない」

「どこだ」

「外側だ。一番浅いところ」

黒瀬は短く答えた。

「高い場所と浅い場所という言葉は、警察を展望台や河川敷へ向かわせるための視線の誘導だ。一つの建物の中で、最も高層なビルの足元にある最も浅い地下空間。出題者は必ず理にかなった場所に答えを置く」


警察は爆発の被害を最大化するために、施設の中心部である奥深くを懸命に捜索しようとしていた。

だが出題者の盤面は、もっと皮肉で精緻な構造をしている。

相馬は部隊に奥への進行をただちに停止させ、篠宮の図面データを頼りに外部の搬入口に最も近い区画へと捜索を集中させた。

二人は来た道を引き返し、外部の道路から地下へと直接繋がるスロープの直下へと向かう。

そこは搬入トラックが一時的に停車する、広大だが何もない空洞のようなスペースだった。


「おい、この奥に配電盤か、管理用のスペースがあるはずだ。そこを探せ」

黒瀬は篠宮から送られた簡易マップを一瞥し、一切の迷いなくその場所を特定してみせた。

相馬は彼が指し示した方向へ懐中電灯を向け、暗闇の中に浮かび上がった小さな鉄扉を見つけ出す。

それは施設の管理スタッフですら日常的には見落としてしまうような、完全な死角に位置していた。

人間の思い込みを利用する犯人ならば、まさにここを正解の場所として選ぶに違いない。

相馬は腰のホルスターにそっと手を添えながら、慎重な足取りでその鉄扉へと近づいていく。

冷たい金属の取っ手に手をかけると、壁の向こうから微かな機械の震動が掌に伝わってきた。

「下がるんだ。開けるぞ」

相馬の短い警告に、黒瀬は不快そうな表情を浮かべて数歩だけ後ずさりした。


重く軋む音とともに鉄扉が開かれた瞬間、相馬は息を呑んだ。


チカッ、チカッ。

暗闇の奥。

赤いLEDの光が、血のように規則的な明滅を繰り返している。

むき出しの配線。

血管のように絡み合った黒いプラスチックの塊。

ツンとした火薬の匂い。

微かな電子部品の焦げた匂い。

中心で光る赤いデジタルの数字。

残りは、わずか三分。

絶望的で短すぎる時間しか残されていなかった。


「見つけた。爆発物処理班を至急こちらへ!」

相馬は無線で怒号を飛ばす。

額の冷や汗を手の甲で無造作に拭った。

心臓の鼓動が耳の奥でけたたましく鳴り響く。

黒瀬の読解力がなければ、間違いなく間に合わなかった。

「処理班が到着するまで二分はかかる。間に合うか」

相馬の張り詰めた限界の緊張をよそに、黒瀬は爆発物を冷めた目で静かに見下ろしていた。

死の恐怖を感じるどころか、精緻な仕掛けを冷静に見定めるような目で観察している。


「焦るな。終わりの合図だ」

黒瀬の平板な声が静かな空間に落ちた。

「解けた以上、奴は止める」


黒瀬が言い終わるか終わらないかのうちに、タイマーの数字は残り一分のところで突然停止した。

ピィ、と小さな耳障りな電子音が鳴る。

液晶画面が完全に暗転し、すべての機能を停止した。


張り詰めていた死の気配が、一瞬にして消え去る。

犯人は最初からタイマーをセットして放置していたわけではない。

どこかからこの場所を監視し、警察が辿り着いたのを見計らって遠隔操作でタイマーを止めたのだ。

相馬は全身の緊張がふっと解けていくのを感じながら、薄暗い空間で深く息を吐き出した。

死の淵から生還したという安堵よりも先に、出題者の手のひらで踊らされた屈辱が込み上げてくる。

第二の爆破はぎりぎりのところで未然に防がれたが、それは警察の勝利ではなく出題者の引いたレールの上を歩かされたに過ぎない。

解答者として正解に辿り着いたからこそ、出題者は罰を与えなかったのだ。

遅れて駆けつけた処理班が爆発物の慎重な確保にあたる中、相馬は壁にもたれて立つ黒瀬を見据えた。


「あなたの推理がなければ、絶対に間に合わなかった。大した頭脳だ」

相馬は刑事としてのプライドを脇に置き、率直な言葉で黒瀬の鋭い読解力を真っ直ぐに認めた。

彼女の削ぎ落とされた短い賞賛には、現場の人間としての確かな敬意が込められている。

この男の社会性のなさや不遜な態度は許しがたいが、その能力だけは本物だと肌で理解したのだ。


しかし黒瀬は、彼女の純粋な言葉を鼻で笑うように短く冷たく吐き捨てた。

「くだらない。こんな三流の引っかけ問題に手間取るから、警察は無能なんだ」

彼の態度は相変わらず最悪であり、人の感情を逆撫でする冷たさに満ちていた。

「これは防いだんじゃない。相手が正解を確認して、テスト用紙を回収しただけだ」

黒瀬は不快そうに地下のカビ臭い空気を払い除け、踵を返して地上へのスロープを歩き始める。

彼の背中には出題者に対する強い苛立ちと、過去を刺激された嫌悪が張り付いていた。

彼にとってこの事件は、自らがかつて身を置いていた遊戯の世界の歪んだ模倣でしかないのだ。

相馬は彼の傲慢な態度に軽く舌打ちをしつつ、彼なしでは勝てないという現実を噛み締める。

相馬は小さく息を吐き出し、薄暗い地下通路を歩き去っていく黒瀬の背中を追った。

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