下宿のトイレで泣いた夜
※本作は、筆者自身の実体験をもとにした物語です。
読んでくださり、ありがとうございます。
これは、ある高校一年生の実話だ。
本当は、サッカーがしたかった。
けれど兄の影響で、気づけばバスケットボールをしていた。
正直、最初は気が進まなかった。それでもボールを触る時間が増えるにつれ、
いつの間にか、バスケが生活の中心になっていた。
小学校では五年生から二年間、キャプテンを任された。
中学ではもっと強い環境でプレーしたくて、Bリーグユースを目指した。
毎日、自主練を続け、トライアウトに合格した。
三年生になる頃にはスタメンにもなり、全国大会にも出場した。
結果は、満足できるものじゃなかった。
それでも、バスケ中心の人生を歩いてきたという自負はあった。
高校を決める時、正直もっと推薦が来ると思っていた。
だが実際は、四校ほどだった。
その中で選んだのが、偏差値六十八、県内三位の高校だった。
進学と同時に、下宿生活が始まった。
学校、練習、帰宅。
風呂に入り、飯を食い、皿を洗い、洗濯をして、干して、畳む。
練習後の体には、想像以上にきつかった。
その時、初めて思った。
――親って、こんな生活を何年も続けてきたんだ。
両親は朝から晩まで働き、四人兄弟分の生活を支えてきた。
一人分ですら音を上げそうな俺が、
文句を言う資格なんてないと思った。
高一の冬。
大学進学という現実が、急に目の前に現れた。
この高校では、大学進学が当たり前だった。
周りは頭のいいやつばかりで、
進路の話が日常的に飛び交っていた。
俺は、自分の学力を分かっていた。
公立は厳しい。だから私立に行こう。
そう、簡単に決めていた。
帰省した時、親に言った。
「俺、私立に行くけん」
返事は、反対だった。
当然だと思った。
裕福な家じゃない。下宿費だって、楽じゃない。
担任の先生に相談すると、
「ちゃんと説明しよう」と言ってくれた。
なぜ大学に行くのか。
そこで何をしたいのか。
二週間かけて、それをまとめた。
そして、父との電話の日が来た。
「言いたいこと、話してみ」
震える声で、全部話した。
公立は厳しいこと。
私立でやりたいことがあること。
将来の就職のこと。
父は少し考えてから言った。
「大学に行かんで、高卒で働く選択もある」
兄の話をされた。
高卒で働いている兄。
公立大学に通っている兄。
どちらの生き方も、間違いじゃない。
最後に父は聞いた。
「お前が私立に行って、ちゃんと学べるんか?」
その質問が、一番刺さった。
しばらく話したあと、父は言った。
「とりあえず、私立コースはやむを得ない」
「でも、これからもたくさん調べろ」
そして、少し間を置いて、続けた。
「俺と母さんは、朝から晩まで働いとる」
「それでも、お前が最後まで頑張るなら」
「俺たちも、最後まで頑張って支える」
言葉が、出なかった。
電話を切ったあと、
下宿のトイレに入り、ドアを閉めた。
その瞬間、涙が止まらなくなった。
俺は、支えられていた。
分かっていたつもりで、
本当には分かっていなかった。
頑張れよ。
そう言ってくれた父の声が、今も残っている。
親が頑張っていることは、当たり前じゃない。
自分が生きていることも、当たり前じゃない。
人は必ず、誰かに背中を押されている。
それを忘れずに、
今やっていることに、全力で向き合ってほしい。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この作品は、僕自身が高校一年生である今経験した出来事をもとに書きました。
読んで何か一つでも感じるものがあったなら嬉しいです。
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