ズルい二人、思惑の交錯する雨宿り
――――――――――図書館にて。チェスター・クック子爵令息視点。
僕はズルい。
図書館玄関外の大庇の下で、隣のエリアル・バートン子爵令嬢をチラッと見ながらそう思う。
「雨、やみませんね」
「うむ」
「困りました」
図書館で勉強をしていた。
たまたまエリアル令嬢と会った。
雨が降ってきたため帰れず困った、という状況。
いや、本当は全然困ってない。
僕の魔法があれば雨を散らすのなんかわけないから。
エリアル嬢を送ってやればいいのに、そうしない僕はズルい。
エリアル嬢は美しき淑女で、休日に図書館に来るくらいの勉強家でもある。
彼女に惹かれる気持ちがあるのだ。
だからつい、もう少しエリアル嬢と同じ時間を共有したいと思ってしまった。
僕は卑怯者だ……。
――――――――――その時。エリアル・バートン子爵令嬢視点。
私はズルいのです。
長身で凛々しく、魔道の心得もあるチェスター・クック子爵令息を、私は密かにお慕いしておりまして。
「雨、やみませんね」
「うむ」
「困りました」
いえ、困ってなどいないのです。
この雨はすぐやむことを知っていますから。
どういうことかですって?
私にはたまにちょっと先のことがわかるという、特技だか異能だかがあるのです。
どうでもいい未来が気まぐれに見えるだけで、今まで役に立ったことはありませんでした。
ただ今日の私は絶好調なのです。
チェスター様が図書館に行くことも雨に降られることも見えていました。
急いで支度を整えて図書館でチェスター様を待って。
帰り際に予定通り雨に降られ、玄関でチェスター様と二人きりなのです、ポッ。
ちょっとズルいでしょう?
チェスター様は本当に困っていますね。
苦悩が見えます。
私も後ろめたいので、声をかけました。
「チェスター様。雲の流れ来る方向の空は明るいですよ。もうすぐ雨も上がると思います」
「そ、そうか」
「それまでお喋りしませんか?」
とりとめのない話をするだけで楽しくて。
雨がやんで虹がかかるまでの一〇分間は充実していました。
「奇麗な虹ですね」
「うむ」
「あら、『君の方が奇麗だよ』が紳士の正解ですよ」
「む? すまん」
うふふ、今日の私は積極的ですね。
「さあ、チェスター様。帰りましょうか」
「そうだな。エリアル嬢、お手を」
「エスコートしてくださるのですか?」
「うむ、それが紳士の正解のような気がしてな」
アハハウフフと笑い合います。
チェスター様の手を取って。
ぼやっと素敵な未来が見えてきた気がするのです。




