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夢見た烏は、旅に出る 〜旅立ち〜  作者: やまゆり
第二章 旅は道連れ
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かもめの食卓1

食卓の上には、香ばしく焼かれた湖魚と、ネイヴが摘んできたという野草のスープが並んでいた。暖かな湯気の向こうで、ユリアはそっと旅の地図を広げた。


「まずは、帝国を目指そうと思うの」


パンをちぎっていたエリンが、ぱちりと目を丸くした。


「帝国? いきなり大きな町を目指すんだね!」


するとルチアが、すぐに反応した。


「それなら、ちょうどいいかもしれないわ。私たちも、あと一週間でここを引き上げる予定なの」

「えっ?」

「帝国のすぐ隣にある王国の港町に向かうの。今度こっちに来る予定のカモメの夫婦たちが、今そっちに滞在してるはずでね。私たちみたいに外で暮らしてると、時々交代することがあるのよ」

「へえ、そんなふうに?」

「そのあたりには、長く滞在している人はいなかったんだけど、情報を集めるのに良さそうな場所だから、先に探しておいてもらったの」

「情報……?」

「族長たちに、時々報告に行ってる人がいるでしょ?」

「うん……何を話してるのか、よくわからなかったけど」

「拠点を作って長くとどまる人たちと、常に動きながら各地を回る人たちがいるのよ。飛翔族だけじゃなく、森の民や海の民にもね」

「そういえば、なかなかエルシアに戻ってこない人もいるよね」

「そういうわけで……ユリアも、途中まで船に乗っていかない? 一緒に」

「いいの?」

「もちろん。ちょうど積み荷も少ないしね。どう、ガロ?」


そのガロはというと、エリンに塩を手渡しながら、落ち着いた声で答えた。


「ああ、それがいいだろうな。帝国を目指すなら、船で行ったほうが楽だ。陸路だと、ちょっと揉めてる国を通ることになるからな。連絡船を乗り継いで行く方法もあるが……帝国の動きも、最近は妙だからな」

「というと?」

「つい先日、この港に帝国の軍船が寄っていたんだ。ここは帝国と友好関係にあるはずだから、軍船が来るのはめったにないんだが……何か調べていたらしい」

ルチアもうなずく。


「そうそう。ひと月、ふたつ月くらい前からかしら?街中でも帝国の人たちを見かけるようになったのよね」

「軍隊ほどじゃないが、騎士団っぽい連中もいたって話だ。なんだか物々しいよ。寄港してた船も、船脚の速そうなやつだった。あちらも、もうすぐ出ていくはずだ」

「軍船……?」

「何かを起こそうってわけじゃなさそうだけどな。たぶん、巡回の一隊だろう。急いで行きたいなら、大きな港から帝国行きの商船に乗る手もあるが……」


ユリアは、ひと呼吸おいて笑った。


「ううん。できればゆっくり行きたい。少し遠回りしてでも、せっかくだからいろいろ見て回りたいし……海も初めてだしね!」


ガロがにやりと笑った。


「そうか。じゃあ、うちの小舟でのんびり行こうじゃないか。風まかせ、波まかせってな」


エリンがぱっと笑顔を見せて、身を乗り出す。


「じゃあ、途中まで一緒だね! 楽しそう!」


ネイヴもうれしそうだ。


「もちろん。でもまずは、船酔いしないか確かめてからね」


ルチアがくすくすと笑いながら、ふと思い出したようにユリアのほうを見た。


「そういえばユリア、昔はね、飛翔族が自分で空を飛んで移動していたこともあるらしいのよ。帝国ができるよりずっと前の話だけど」


「ほんとうに?」

「ええ。今度会うあの二人に聞いてみるといいわ。結構歳は上だったから、何か知ってるかもしれないわよ」


ルチアはフフフと笑いながら、ワインを口に運ぶ。

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