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夢見た烏は、旅に出る 〜旅立ち〜  作者: やまゆり
第二章 旅は道連れ
18/23

闇に紛れて

ティラーニアの町に着いた後ユリアと食事をとっていたが、このまま宿には帰らず寺院に行く予定だ。


「ちょっと、寄るところがあるんだ。先に戻っててくれ」


食後、椅子を引きながらそう言ったとき、ユリアの目は少し不思議そうに細められた。

だが、詮索はしてこなかった。


「わかった。気をつけてね」


軽く手を振るその姿に笑みで応えながら、アルは食堂を出ると、そのまま夜の通りへと足を向けた。


(……さて、こっからが本番だ)


商人を装った仮面を脱ぎ、気配を消すように歩き出す。

灯りの少ない裏路地を抜け、かつて寺院だったという高台の方へ向かった。

途中、建物の影で一人の男が待っていた。


「ゼイド。動きは?」

「例の連中が寺院裏に集合し始めました。荷を運んでいるようです。」

「中身は?」

「木箱と袋のようですが、中は確認できていません。防音魔法や幻惑の魔法を張っている可能性も」

「ふむ……魔導具か、あるいは禁書か。何にせよ、動きは大きくなっているな」


アルは寺院の裏手へ目をやる。

すでに数人の影が、ぼんやりとしたランタンの灯りの中を移動していた。

仲間同士で合図を交わしながら、荷を別方向へ運び出している。


(分散して持ち出す気か。手馴れてる)


「もう少し近づく。お前はこのまま東側を見張れ。誰か外に流すならそっちの可能性が高い」

「かしこまりました」


ゼイドが再び闇に紛れていくのを見送ると、アルも寺院の裏手、低く崩れかけた壁の影をつたって移動する。

近づくにつれ、いくつかの会話が断片的に耳に入ってきた。


「……封印が……」

「……明日には港の船で……」

「……爆破のタイミングは……」


(やはり“封印”……あの文書と一致する。これが本物なら、相当な規模だぞ)


集中して耳をすませていたそのとき――


別方向から微かな足音。魔力の気配。

アルはとっさに身を低くし、そちらのほうに目を向ける。


木々の間を抜けるようにして歩いてくる、ほっそりとした影――


(……まさか)


闇の中でも見覚えのあるシルエット。

肩に乗った白い鳥、ルフの姿が月明かりに一瞬浮かぶ。


(なんでお前がここに……!)


驚きをこらえてその場に身を潜めたものの、ユリアの気配はまっすぐ寺院へ向かっていた。

(おいおい、マジか……)


アルは裏手の物陰から回り込み、彼女が逃げ込んだ林の中へと先回りするように移動する。

彼女が物陰に紛れたことを確認し、少しだけ安堵の息をついたそのとき――


「……アル?」


声をかけられた瞬間、身体が一瞬跳ねた。


「うわっ、リア!? びっくりした……!」


(やっべ、完全に見つかった……!気配なんかしなかったぞ)


ごまかすように笑っても、ユリアは険しい目で睨んでくる。


「しっ。こんなところで何やってるの」


「それはこっちの台詞だよ。宿に戻ってないじゃないか」


思わず声が高くなりそうになるが、次の瞬間――


ドォン!!


爆音が空気を裂き、地面が震えた。

崩れかけた建物の向こう、火花と煙が吹き上がるのが見える。


「今の……爆発?」

「行こう!」


ユリアの言葉に重ねるように言い、アルは先に駆け出す。

だがその脳裏では、別のことが巡っていた。


(……始まったな。さて、誰が仕掛けた? どこまでが本命だ?)


そしてもうひとつ――


(ユリア。君は、やっぱりただの旅人じゃなさそうだ)



------------------------

アルは宿の部屋の前で、肩をすくめてユリアに向き直った。


「今日はもう、夜遊びはおしまい。おとなしく寝なよ。おやすみ」

「はいはい、おやすみなさい」


ユリアは軽くあしらうように返し、扉を閉めて中に入っていった。

アルも自分の部屋へ入り、扉をそっと閉める。

ひと息つくと、すぐに窓際へ向かい、外を見やりながら、先ほどの出来事を思い返していた。


夜の湖から吹く風が、カーテンを揺らしている。

人気のない裏手に目を凝らし、アルは低く呼びかけた。


「ゼイド、状況は?」


闇の中から、もう一人の男の声が返ってきた。


「逃げた者は追いましたが、現場にいたのは使い走りの者たちです。指示を受けて動いていただけでしょう」

「そうか……」


アルはふうと息をつき、窓枠に肘をついた。


「なかなかしっぽがつかめないな」

「運び出されたものの詳細も掴めません。ただ、爆発の前にはすでに回収されたようです」

「……あるいは、あの寺院そのものが囮だったのかもな」

「可能性はあります。この地域で何か動いているのは確かです」

「人さらいの件は?」

「最近は目撃も報告もありません。姿を隠しているのか、それともまだ来ていないのか……」

「連中と遺跡荒らしの一味が同一かどうかも、まだ不明ってことか」

「はい。断定はできません。ただ、湖の対岸では、それらしき痕跡が見つかっています」

「……やっぱり、何かが始まってるな。だが方向が絞りきれない」


アルは額を押さえるようにして、小さく首を振った。


「それにしても、あの子……どう思う?」

「ご一緒されている女性のことですか?」

「ああ。たまたま旅してるだけかもしれないが、この時期に一人でってのは妙だ。目立たないが、若くて妙に世間とずれてる感じがある。寺院にもいた。連中と関係なさそうではあるが」

「関与の可能性は低いと思われます。振る舞いがあまりにも素人ですし……おそらく森の民の出では?」

「うん、その線は濃いな。もし怪しい魔法具が出てくるようなら、森の民の知見が役に立つかもしれないが……」

「彼らは中立を崩すのを避けています。帝国にも、王国にも深入りはしないでしょう」

「だろうな。帝国建国の時に“神の化身が味方した”とか、“白鳥の女神が降臨した”なんて言われてたが、ああいうのは胡散臭い話だ」

「公爵家を否定することになりますので何とも」

「……話が逸れたな、悪い。港町まで、怪しい動きがないか引き続き探ってくれ」

「承知しました。アル様は引き続き、彼女と旅を?」

「ああ。港町まではな。一応、人さらいが出ないように、ちょっと騒ぎを起こしておくさ」

「……また、あの手ですか」

「今度は連れもいるし、さすがにしつこくは追いかけられないだろ。警備兵が出てくるようになれば、動きにくくなるだろうしな」

「……お気をつけて。変装も忘れずに」

「もちろん。やりすぎない程度にな」

「では、これで」

「頼む」


ゼイドの気配が闇に消えていった。

アルはしばらく外を見つめていたが、やがて窓を静かに閉じた。

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