湖面に浮かぶ寺院 3
爆発の音のする方へと駆け出したユリアとアルだったが、見える範囲に広がっていたのは、黒煙と崩れかけた廃墟の影だった。――寺院だ。あの、夢の中で見た白い神殿とは似ても似つかぬ、年老いたレンガ造りの廃墟。
それでもユリアは、少しの落胆を感じていた。
(たとえ違う場所でも、白鳥の姫君――セレイアの痕跡が見つかるならと思ったのに)
もうこの建物から、何かが得られることはないだろう。崩れかけていた寺院は、今や完全に沈黙していた。
ユリアはアルとともに、夜の闇に紛れて静かに街へと戻った。見つからぬよう、遠回りをして、物陰を縫うようにして歩いた。
街に戻ると、すでに多くの人々が騒ぎ始めていた。寺院からの爆音は、ティラーニアの町全体に響き渡ったらしい。通りには警備隊の兵士が走り、住人たちが戸口から顔を出しては、口々に「寺院が爆発したらしい」とささやいていた。
ふたりはお互いの顔を見ながらも、なぜあの場所にいたのかは問わなかった。無言のうちに、気を使っていた。人混みに紛れることで目立つこともなく、そっと宿屋まで戻る。
受付に顔を見せることもなく、ふたりは何事もなかったかのようにそれぞれの部屋に向かった。
部屋の前で、アルがユリアに向かって肩をすくめた。
「今日はもう夜遊びはおしまい。おとなしく寝なよ。おやすみ」
「はいはい、おやすみなさい」
ユリアは苦笑しながらドアを開けた。
部屋に入り、靴を脱ぎ、荷物を置き、ベッドに倒れこむと、途端に体から力が抜けていくのを感じた。爆発の瞬間、暗がりの道、あの寺院の影……思い出そうとするのに、まぶたが重い。
気づけば夢の中にいた。
今回の旅路で通ってきた風景が、パッチワークのように断片的に現れては消える。湖、船、風。だが、誰かに呼ばれる声もなければ、自分が別の誰かに変わっている気配もなかった。ただ静かな夢。
ふと、何かが頬に触れる感覚で目が覚めると、ルフがいつの間にか枕の上に移動して、ユリアの顔の横にぴたりと寄り添っていた。あたたかく、小さな羽が呼吸に合わせて動いている。
「……おやすみ、ルフ」
ユリアは目を閉じ、そのまま再び、静かな眠りの中へと落ちていった。




