カラスのうた
これは、誰も覚えていない旅の記憶。
地図に描かれず、物語にも残されなかった道。
けれど、確かに――少女は歩いた。
何も知らず、ただ風の向こうに誰かの声を聞いて。
だから歩いた。海を渡った。
世界の終わりと始まりのあいだで、
たったひとつ、カラスの歌を道しるべに。
これは、かつて夢を見た少女と、
その夢を引き継いだ少女が紡ぐ物語——。
ワタリガラスは嵐を超えて
ワタリガラスは旅に出た
ワタリガラスは雲を超えて
ワタリガラスは旅に出た
山へ 川へ 森へ 谷へ
北へ 南へ 東へ 西へ
海を越えて東へ飛んだ
ワタリガラスは丘へとついた
ワタリガラスは皆と遊んだ
ワタリガラスは光を盗んだ
ワタリガラスは丘を去った
山へ 川へ 森へ 谷へ
北へ 南へ 東へ 西へ
海を越えて東へ飛んだ
ワタリガラスは村の娘と
ワタリガラスは恋に落ちた
ワタリガラスは娘をさらって
子供を連れて帰ってきた
山へ 川へ 森へ 谷へ
北へ 南へ 東へ 西へ
海を越えてここへきた
ワタリガラスは盗んだ光を
私たちのもとへ置いていった
ワタリガラスは知恵と光を
歌や踊りを置いていった
山へ 川へ 森へ 谷へ
北へ 南へ 東へ 西へ
ワタリガラスはどこへ行った