第8話:ホテルで一緒に見る映画
夏の遠征。
お山への行脚は、可も無く不可も無く。
カモ鳴く?
いやいや、場所的時期的に、カモさんはいらっしゃいませんでしたが。
山中の小川の河原で小鳥さんたちの水浴びを狙って、まぁ、まぁ、の出来高。
半ば、デートの様相も、あり。
と、言うのも、ふたりともお仕事をしている関係で、普段はなかなか、会えないのもあって。
週末、特に連休に重なる時は。
遠征を兼ねた、デート旅行。
鳥撮りは『早朝』がメインなので、午前中まで撮影。
お昼を一緒に食べて、午後から夜にかけては、デート。
連休とも、なれば、ご休憩ではなく、お泊り、で、ね。
正式にお付き合いを始める前から、撮影旅行の宿泊費節約とか、撮影場所に近いからって。
そういったホテルを多用していたのも、あって。
お付き合いを初めてからも、違和感なく、ご利用致しております、はい。
夏の平野部では、鳥さんがめっきり少なくなってしまうこともあって。
涼しいお山の避暑地で。
同じように、避暑されている、小鳥さんたちと、戯れて、みたりしてたわけ、ですね。
それから、秋。
秋と言えば、渡りの季節。
夏の鳥さんが、南へ帰る。
冬の鳥さんが、北からやって来る。
そんな、入れ替わりの、季節。
転勤前は、街中にある大きな公園でたいていの鳥さんが撮れてたので、あんまりいろんな場所には行かなかったけど。
転勤して来て、こっちでは。
大きな公園が遠いのもあって。
地元の小さな公園とか、点在する森や池、湿地帯なんかを、あちらこちら周ってみている。
いくつかの場所では他の『常連さん』とも会うこともあって。
そんな人たちと交流なんかも、したりは、するけれど。
親密になったのは、祥子さん、だけ。
祥子さんも、人見知りなのか、他の人とは、あまり打ち解けず。
それもあって、わたしも、ね。
それにしては、初対面のわたしと、かなり最初の段階で打ち解けてくれたのは。
同じ頃に、同じ地域に転勤で引っ越してきたって、境遇の近さもあったんだとは思う。
だって、わたしもそうだもん。
親近感。
年齢が少し違ってて、鳥さん、写真機材なんかの話以外の話だと。
たまにすれ違う事も、あるけど。
『へー、今はそういうのが、あるんだー』
『ふぁあ、昔はそんなのがあったんですね』
なんて。
時を超えた情報交換なんかも。
それは、それで、面白いし。
雑学知識を得られるのも、楽しい。
それよりも、何よりも。
全然知らなかったそっち方面の、知識も!
それこそ、手とり、足取り、××取り!
いや、まぁ、全く何も知らない、って、わけでも、なかったけど。
ほら、あんまりそういう話って、あからさまにする話でも無いし、さ。
興味はあれど、積極的に、ってわけでもなかったし。
それでも、興味本位で、少しくらいは、って、感じで。
だって、見るのも聞くのも、恥ずかしいじゃない!?
ね。
それが、今では……。
秋の、プチ連休を、使って、またちょっと遠征。
遠征って、ほどの距離でもないけど。
一泊二日の、小旅行。
今まで行ったことが無かった方面へ、出撃して。
道に迷ったり、車が故障したりで散々な目にあいつつも。
なんとか、夕方には、お宿へ。
お宿、と、言っても、まぁ、お察しの、通り。
いつもの。
いや、場所的には、いつものではなく、初めての場所なんだけど。
いつもの系統の、ホテル。
一緒にお風呂に入って、まったり、くつろぎの、時間。
「あら? これ、ちょうどいい映画がやってるわ」
「? どんな映画、です?」
そういえば、一緒に映画とか、見たことなかったかな。
ふたりとも、あんまりそういうの興味ないみたいで、話題にも上らなかったし、当然、映画館デートとかもしたこと、無いし。
「『百合猫達の熱い夜』」
ぶっ!?
「ぶっ!?」
うぉおっ、と。
思考と行動がリンクしちゃったわよっ!?
「百合で猫、達、ですか……」
「そうそう、しかも、熱い夜! よ」
「はぁ……」
「ね、ちょうど始まるみたいだから、ちょっと観てみよーよ」
「い、いいです、けど……」
「それじゃあ、ぽちっと」
祥子さんが、備え付けの、テレビ? ビデオ? のリモコンのボタンを、押すと。
わりと大きめの、液晶画面の電源が、入って。
じゃじゃーん、みたいな感じで。
『百合猫達の熱い夜』
ひぃいい。
マジっすか?
これ、観るん、ですか!?
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